クリスマスの出会い
クリスマスで浮かれている奴は滅びればいい。

いや、こう言うと語弊がある。確かに、クリスマスで彼女と過ごしながらいちゃいちゃしている奴は羨ましい事この上ないが、そいつらはそいつらで彼女が出来るような努力をして、晴れて愉快なクリスマスが過ごせている訳だ。そういう奴らは、まあいいとしよう。そもそも俺の高校は男子校な訳で。彼女が作りにくい代わりに同性カップルとかもちらほら。……ってレベルじゃないくらい蔓延してるけど、そいつらも許そう。仕方が無い。

でも、だ。

ガガガガ、という一定的な機械音を耳にしながら卵と砂糖が混ざった、これから生地になるであろうものを無心に眺めている俺の目は死んでいる事だろう。見なくとも分かる。

「ちょっと、昴!まだ出来ないの!?ていうか機械なんか使って、美味しくならなかったら承知しないんだからね!!」

 クリスマスで浮かれて他人に迷惑を掛ける奴は滅びればいい。そう、これだ。

 金持ち、ホモ高、転入生。この三つの時点で察して欲しい。説明する気力も無い。いや、これだけじゃ足りないと言うのなら、同室、平凡、いじめのキーワードも追加だ。あぁ、あと生徒会、イケメンとかか?もういいよな。

というかこの自称天使様は菓子を作るときにいちいちホイッパー使ってると思ってんのか?俺はパティシエじゃねーんだよ。腕痛くなるからハンドミキサー使うに決まってんだろ。嫌なら自分で作りやがれこの野郎。

 と、言いたいところは山々なのだが、天使野郎に言うわけにはいかない。なんだっけ?理事長の大事な大事な甥っ子だとか何とか。おいおい、職権乱用じゃないんですかー。まぁ、いちいちそんなこと言ってたらこの学園ではやっていけない。教師が生徒喰ってるとか露見したら崩壊するぞここ。どうせ金で隠すんだろうけれども。

 さて、なぜ俺が天使野郎の為にケーキを作っているのかというと、天使野郎が生徒会の皆様につくってくるぅーとか言っちゃったからだ。料理できないくせに。で、同室の平凡で逆らえない奴隷の出番というわけだ。全くもって下らない理由である。

 俺がこの天使野郎に感謝するとすれば一つ。リア充に対しての憎悪があんまり無くなったこと。今なら、目の前でいちゃついていても、あぁ、可愛いなって微笑ましい目で程度で済む気がする。いつもいつも寒い茶番を目の前でやられていては、誰だってそうなる。少なくとも俺はそうなった。

クリスマスぼっちギリぃッ……ってしてる人は是非俺と立場を交換しよう。もうぼっちでいい。寧ろぼっちがいい。なんだって俺がこんな奴の為にケーキ作らにゃならんのだ。それも、ブッシュドノエルとかふざけてんのかてめぇ。パイ投げならぬブッシュドノエル投げすんぞくそ。……やめよう、ケーキに罪はない。

「ちょっと聞いてんの!?僕が話しかけてるんだからちゃんと返事してよ!」
「へーへーさーせんねー。しゅーちゅーしててきこぇあせんっしたー」

 喚き出したら煩いので、適当に返事をすると、僕は優しいから許してやるうんたらかんたら。やべぇ、どっちにしても煩かったわ。というか、なにもしないなら台所につっ立っていないで欲しい。邪魔だ。あとやかましい。黙れ。ほんと黙れ。

 崇高な僕理論をべらべら喋っている時にどっか行けどっか行けどっか行けを心の中で繰り返しまくっていたら、漸くそれが実ったらしい。

「ちょっと僕出かけてくるから、早く作ってよね」
「うぇーっす」

 俺のやる気の無いぶつぶつ言いながらも、天使野郎は去って行った。おう、行け行け。天に帰れ。戻ってこなくていいから。

 どたどたと遠ざかる足音が、段々機械音に掻き消されていく。やれば出来るじゃないかハンドミキサー。その調子で、アイツの声全部消してくれよハンドミキサー。

 静かになったら、というよりも天使野郎の声が消えたら俄然やる気が出てきた。元々、菓子作りは嫌いじゃない。というより、菓子を食べてもらった時の美味しいって反応が嬉しいのだ。出来はそんなによくないけど、趣味の一環としてやる分には適当で構わないし。

 どうせ作るなら、友達にも分けてやろうか。あ、いじめとか言ったけど、親衛隊に嫌がらせされているわけじゃない。なんやかんや言ってくるのは生徒会だけだ。それはそれで問題なのかもしれないけど。

 それにしても、親衛隊の奴らってほんと可愛いんだよな。天使野郎は親衛隊なんて良くない、とか言って、生徒会もそれに同調しちゃったりしてるけど、俺は親衛隊の奴らが嫌いじゃない。まぁ、過激派なんかもいるけど、そういうのは一部だけで、殆どは生徒会の皆様を見守りたい、遠くから応援したいってのが集まってるから一途で寧ろ好きだ。そういう奴らこそ報われてほしいんだけど、世の中ってどうも上手くできてないよね。

 なんでこんなに親衛隊贔屓かって言うと俺の友達、大体が親衛隊に属してるようなちみっこくて可愛いやつばっかだからだ。いや、菓子あげてたら懐いちゃったみたいな。顔を輝かせて食べてくれるから作り甲斐があるし、俺としても嬉しい。

 ケーキを作るのはだるいから、クッキーでも作ろうかな。丁度いい感じの型もあったはずだし。ブッシュドノエル完成したら置いて友達のところに行けば……。あ、でもあいつら彼氏と一緒に過ごしてるのかな。いるかは知らんけど、もしそうだったら邪魔しない方がいいよな、ううん。

「あ、あの……」
「うぇあ!?」

 びっくりしすぎて離しそうになったハンドミキサーを咄嗟に掴む。あ、危ない危ない。これ落としたらさっきまでの微妙な努力が全部無駄になるところだった。もう一度作るってのも構わないんだけど、材料がもったいない。

「ごめん。ちょっと待ってね」
「え、あ……」

 放っておくわけにもいかないので、生地を焼くところまでぱっぱとやっちゃおう。どうせすぐだし。声的に天使野郎じゃないって言うのは分かるんだけど。そもそも天使野郎だったら僕を無視してうんたらかんたら騒ぎ出すはずだけど静かに待ってるし。けど、こんな声の友達いたっけ?でも、どっかで聞いたことある気がするんだよなー。

 よし、ボタン押してっと。

「はいはい。なんです……」

 かー、と続けるはずだったが、固まってしまった。誰だって、ここにいるはずが無い人を見たら固まるでしょう。作りかけの笑顔はきっと引きつって大変な事になっているはずだ。

 なんでいるんすか、書記さん。

「あ、あの僕……!」

 言いたい事が伝わったのか、書記さんはあわあわしながらたどたどしく説明を始めた。

「さっき、転入生が出てったの見て、おかしいなって思って。そしたらやっぱり……」
「えぇっと……」

 ダメだ。まるで分からん。何をそんなに焦っているのかは知らないが、別にとって食おうって訳じゃないのに。いや、問題はそこではなく、だ。

「あの、天使やろ……ごほん、転入生君追いかけなくていいんです?」

 可愛い顔して、こいつも一応生徒会だ。俺の中で生徒会って言ったら転入生きゃーすてきーこっちむいてーってやってるイメージしかない。まぁ、実際そんな可愛らしいもんじゃないが、あくまでイメージだ。

 書記さんは俺の言葉を聞いて目を見開いた。そして、慌ててぶんぶんと腕を横に振る。なんか、華奢なせいかもげそうなんだけど大丈夫かな。

「ち、違うよ!僕、転入生の事好きじゃないし……。そ、それに僕が好きなのは……」

 最後の方はぼそぼそ言ってて聞こえなかったが、俺は純粋に驚いた。天使野郎のことを好きじゃない生徒会のメンバーがいるとは。てっきり全員あんなんだと思ってた。一括りにしてすまんな、書記さんよ。そういえば、確かにあの茶番の輪にいなかったような気がしないでもない。

「ところで、それ」

 書記さんが何か言いたげにオーブンの方に目を向けた。生地が出来るにはまだまだ時間が掛かるだろう。とりあえずその辺にあったカップを手に取り、茶を入れた。

「まぁ、時間があるなら座ってくださいな」

 ちょっと愚痴に付き合ってもらおうか。



「もう嫌になっちゃうよ!毎度毎度毎度生徒会室に来ては騒ぎ立てて!!こっちは仕事してるっていうのに会長達も何もしてくれないし!寧ろ邪魔するし!!」
「あー、分かります分かります。あの人たち、転入生関わると何かと口出ししてくるんすよねー」
「そうなんだよ」

 聞いてもらおうと思っていたのに、何故か聞くほうの立場になっていた。まる。うん、ちょっと話し出したら同意出来る部分が多かったのか凄い盛り上がった。君も苦労してんのな、書記さんや。ちょっとでも信者だって思っちゃってごめんね。

「それに、あの転入生、なぜか僕の事目の仇にしてくるし……」

 書記さんは重々しく溜息を吐いた。仕事を真面目にやっているせいか、よっぽど疲れているようだ。その上あの騒音がいるんだから疲労は倍増するだろう。ほんとあの声のでかさなんとかならんのかね。

 それにしても、書記さんを目の仇にするって、原因はひとつしか考えられない。

「可愛いからじゃないですか?書記さんが」
「か、かか、かわっ!?」

 ぼふっと顔を赤らめた書記さんは、抱きたいランキング一位に入るのが納得の可愛さだ。いや、マジで。天使はこいつだろ。誰だよ転入生のこと天使とか言った奴。目腐ってんだろ。性根も腐ってるけど。

「あ、あの……話は変わるんだけど、安沢くん」
「はい?」
「か、彼氏とか……います?」

 おっと、なんだ?突然の恋愛トーク始まっちゃうのかな。もしかして、書記さんは仕事故にクリスマスを彼氏と過ごせないから相談したい、とか?やべぇ俺彼氏に殺されんじゃないか?

 ちょっと意識が飛びかけたが、返事しないせいで書記さんが不安そうにしてくるからやっと口を開いた。

「いません。というか、俺ノンケなんで」

 そうだ、俺はホモじゃない。別に、差別するわけじゃないが、この学校にいる奴いこーるホモみたいにするのは止めて欲しい。前にちょっと知り合った女の子に学校の名前言ったら目を輝かせながら彼氏いるの!?って言われた時の俺の心境を考えてみて欲しい。というか、どこまで有名なんだこの学校は。俺、これから彼女出来んのかな。なんか不安になってきた。

「ノンケ……いや、でもそれならちょっと安心。これから僕が押して押しまくれば……」

 なんかぶつぶつ言い出したけど、大丈夫かな、書記さん。ストレス溜まってんのかなーそりゃそうか。仕事してる最中に横にあの天使野郎がいて、しかも彼氏とも会えない。不満が溜まるのも当たり前だよな、うん。……あれ?

 真剣な顔で頷いて、一区切りついた様子の書記さんに首を傾げた。そもそも、こんなところで愚痴を言ってる暇があるなら。

「書記さん、この時間彼氏さんのところに行けばいいんじゃないです?」
「ぅえ!?僕、彼氏いないよ!!」
「あれ」

 勢いよく首を振る書記さん。首が取れそうなほど早いから、ちょっと焦った。そこまで否定せんでも。

 と、今度は突然ぴたっと止まり、でも、と消えそうなほど小さな声で言った。

「でも、す、好きな人がいて」

 頬を染めた書記さんは、それはもう可愛かった。どこか親衛隊のあの子達と似ている様子に、あぁ彼も一人の生徒なんだなぁと微笑ましく思った。生徒会にいて、高嶺の花みたいになってるけど、やっぱ恋とかするのか。あぁ、他の役員に関しては全然微笑ましくもないので除外で。

「書記さんに告白されて断る人なんていなさそうですけどね」
「その人、どうやらノンケらしいので」

 おお、俺と同じくノンケの人がいるのか。ちょっとお友達になりたい。そして分かち合いたい。きっと、同じノンケなら分かってくれるはず。俺の友達、親衛隊の子ばっかりだから、そういうのは理解されないっぽいだよね。なんとか様がいるからいいじゃん!みたいな。きんきらイケメン君なんて見てもこっちとしては何も面白くないんだけど。

 いや、でも書記さんが告白するんだからこれからホモになるのか。いや、バイか。そしたらこの話はやっぱNGだな。

「あ、あの……!」
「ん?」

 なんて考えていたら、目の前に書記さんの顔があった。びっくりして思わず身を引いてしまったが、ぐいぐいと近づいてくる。ちゃっかり手も握られてるんだけど。どういうこと?

「やっぱり、まずは友達からだよね!」
「はい……?」

 全然分かっていない俺を置いて、書記さんはにっこり笑った。









昴くん、ロックオンされる。

めっちゃぎりぎりのクリスマス小説です。この後なんやかんやあってきっと押し負けることでしょう。一応、昴くんは受けです。可愛い攻めっていんじゃね?とか唐突に思って描き進んでいった結果がこれだよ!そして、相変わらずの王道空気。もう、空気でいいんじゃないかな。実は書記さんは絡まれてたときに昴くんが助けてくれたーみたいな感じで好きになった設定です。それから遠くからちょっと見てました。可愛い子多い……!みたいな感じでぎりぃっ……!ってしてたと思います。きっと彼は嫉妬深いでしょう。ケーキ作る云々の話を聞いてて、作ってるはずなのに転入生が部屋から出て行ったからあの人が作ってるのかなわくわくみたいなノリで部屋に入っちゃっうような書記さんです。で、知り合えたからラッキー。友達にもなれたし(強制)これから見てるだけじゃなくていいね、みたいな。

すごい滅茶苦茶な小説になりましたがメリクリでした!


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