そして僕はひとりになる
(吉崎綾)

あー面倒くさい。ホント女ってイキモノは面倒くさいと思う。これだから付き合うなんてのはかったるのだ。
誕生日を忘れていたってだけで、かれこれ3日、連絡を取っていない。毎日クラスで会うわけなんだが、完全に無視だ。

この不穏な空気を察した秋良がすぐに「謝って来い」なんて言ったけれど、何故謝る必要があるのか。


「ほんならお前は覚えとれるん?」

「いや」

「ほれみぃ」

「だから謝るんだよ、即座に」


その弱さを聞いてため息が漏れる。男たるものもっと堂々としてるべきだ、なんてのは右京の台詞。あいつのどこが堂々としてんのかはわからないが。

第一俺、誕生日なんて教えてもらってたか? いや、もらってない。どこかの会話に出てきたのかもしれないが、俺はさほど興味もなかったため聞き流したのかもしれない。
が、そんなもんだと思う。一度聞いただけで半年先のことを覚えてるもんか? 誕生日だという理由だけで。
無理だろ。

と、屋上で昼飯を食べてる時に愚痴っぽく普に話したところ、俺の予想に反して「お前が悪いじゃん」との言葉が返ってきた。聞き間違えたのかと思って「俺が悪いって言った?」と、聞き返したが、即座に頷かれた。


「え、何お前、誕生日とか覚えてんの?」

「当然じゃね? 彼女なんだし」

「うそ、お前そういう系?」

「どういう系だよ」

「記念日とか祝う系」

「あぁ、うん。彼女によるけど、女は大抵喜ぶから」


ポカンと口を開けてると、普はムッとした顔で「なんだよ」と、睨みつけた。


「ありえん」

「何、俺に似合わないってこと?」

「だってお前、合同練習の日さえ忘れるじゃん」

「それ、忘れたっていいもんじゃねぇか」

「いや、よかねぇだろ。右京が怒るし」

「別にいいし。彼女が怒る方が怖いし」


あぁ、こいつも草食系ってやつなのか?
いや、こいつが草食だったら地球上は草しかない状態だ。仕方なく食べるような状況じゃないとこいつは草なんて食べるわけがない。
ってそんな話じゃない。


「俺が謝らんでえぇ方法ってないんかな」

「ねぇな」


またも即答する普。
そんなに俺が悪いのだろうか。不安にはならないが、心底疑問だ。
なんて、俺が頭を悩ませていると。


「お前、プライド高かったんだ」


何気ない風に、普が呟いた。


「プライドとかあんまないと思うけど」

「いやいや、謝りたくないなんて、絶対高い人間じゃん」


否定する気もない俺は、あーそう、と棒読みの相槌。普はそんな俺の態度などもちろん気にもとめない。細かいことは気にならない性質なのだ。


「プライドが高い人間ってさ、高い場所にいるからその高さまでついてくるやつが少ないんだよ、きっと」

「変な理屈。んじゃ、アマちゃんは俺についてきとるん?」

「んー……もしかしたら、俺も高い場所にいんのかも」

「まじで?」


普は冗談だよ、と笑い、空を見上げた。つられて見上げたそこには、雲がひとつだけ浮かんでいる。

高い場所にいる、か。当たっているのかもしれない。
全てを客観的に見ようとして、そんな場所に登ったんだろう。そして、そうやって世界を上から眺めているから、自分の気持ちさえ見失うのだ。

飛び降りたら楽になれるだろうか。
なんて、つまらないブラックジョークを浮かべ、遠くに見える地面に視線を落とす。
吸い込まれそうになるその先に、自分の影は見えなかった。


(そして僕は一人になる)



(拝借:はれのちらいう

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