絞殺
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その細い指をあてがって。

真っ白な腕に力を込めて。

冷たい目で見据えながら。

殺して下さい。



人生なんて暇つぶしだと豪語する彼にとって、私と付き合っていることも暇つぶしのひとつに過ぎないのだろう。

綾は私とセックスをする時によく首を絞める。三回に一回程度だけど、特殊なプレイにしては回数が多いと思っている。

正常位で挿入され、揺れている最中に彼の腕が伸びてきて、私の喉は彼の手に覆われる。

軽く、掌で喉全体を押さえ、彼は私の呼吸の道を狭める。ゆっくり、ゆっくりと力を込めて。

苦しくなって目を細める頃、彼は欲を吐き出し、力を抜いて喉を撫でる。

たまに、そのまま殺してくれてもいい、と思う。彼に殺されるのなら、それもいいかもしれない、と。

首を絞めている時の彼は気持ちよさそうで、楽しそうで、私がその表情を作っているんだと思うと、幸せな気持ちになれた。

「綾は、私のこと殺したいの?」

ある日のベッドの上で尋ねると、彼は「殺したいよ」と躊躇いもなく言い放った。

「お前が俺の手で堕ちるなんて想像するだけで興奮する」

そんな恐ろしい言葉が冗談ではないことを、私はよく知っている。彼が異常なことを知った上で付き合っている私もまた、異常な仲間だから。

「いいよ、殺して」

「お前、死にたかったん?」

「ううん。でも、私の息が事切れるまでずっと見つめててくれるのなら、いいよ」

彼は笑って「考えとく」と答えた。どういうことかと尋ねると、「快楽なんて一瞬だろ」と、彼は言った。

「人生って長いんよ。死ぬほど面倒なのに暇じゃ死ねんし。お前を殺したとして、その後俺はこの暇を潰す方法を知らんの」

常人にはとても理解しがたい理論を並べ、彼は私にそっとキスをする。

「私が死んだら、泣く?」

じっと綾を見つめて、私は尋ねる。

「泣かんだろうな」

「だよね」

「けど、落ち込む」

「何で?」

「生きる楽しみがなくなるっつーことは、死んだも同然だと思うんよ、俺は」

ほら、うつ病みたいな。と、綾はまた非常識な例えを出す。

「お前は俺に殺されたいん?」

「その手に私の感触がずっと残るのなら」

「それはどうだろうな。やってみなわからんわ」

言いながら、彼は私の身体を撫でる。

彼によりそうようにもたれかかると、ミントの香りが流れてきた。

「まぁ飽きたら、そうするかも」

「それじゃ、嫌。飽きる前にやって」

「はは、わかった」

彼は笑い、いつになるだろうな、と呟いた。


おしまい。



シリーズっぽいものの予定。



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