優しく殺して (--------) 冷たい指先が頬に触れても私は不快に思うことなどなかった。それは愛する人のものだったから、などという綺麗な理由ではなく、ただ感覚が狂っているだけ。 窓から入ってくる眩しいくらいの日差しは白いカーテンだけでは遮れず、ベッドの上にいるわたしを暖かく照らしている。 ゆらりと視線を向けた先で、彼は微笑む。慈愛を帯びた瞳を細くして。 「痛くない?」 頷くと、彼は私の頭に柔らかく触れた。 よかった、と唄帆くんは私の手首を拘束している麻縄を撫でる。それは痣ができる程に強くわたしの手を締め付けている。 それでも痛くないと答えたのは、嘘ではなかった。 痛みを含む苦痛をほとんど感じないのは唄帆くんのお陰だった。 彼は痛みに苦しむ顔は見たくないのだと再三言っていた。 「はい、これ。今日の分」 水の入ったコップと一緒に、薄い桃色の錠剤が手渡される。 痛くはない。だけど……と、言い掛け、寸前で飲み込む。 もしもわたしがもう嫌だと言ったら、唄帆くんはどう思うだろう。そして、どうするのだろう。 熱に浮かされた頭では考えることもできず、結果、わたしは黙るしかなかった。 錠剤の乗った手の平を見つめる。 不健康に青白くなった手。こんな姿のわたしを、唄帆くんはいつまで愛してくれるのだろうか。 「ねぇ唄帆君」 「どうしたの?」 「昔みたいに飲ませて」 私がまだ抵抗をしていた頃、唄帆君はいつもそうしてくれた。 指先で私の唇を割り、薬を押し込む。そして、自分の口に水を含み、唇を重ねた。 口のなかに溢れる甘い水は、コーティングの溶けはじめた薬の苦さを緩和してくれる。 コクリと喉をならし、私は薬を胃の中に流し込んだ。 挿入されたままの舌が歯列をなぞり、狭い口内で逃げ惑う私の舌に絡み付く。 「ん……ふっ、う……っん……」 飲み込み切れなかった水が口の端から流れ落ちる。 「そんなに見つめなくても触ってあげるよ」 下着の中に滑り込んだ指が、気持ちいいんでしょ、と言わんばかりにそこを擦りだすと、私はたまらず声をあげた。 繊細な動きはすぐに快感の花を咲かせる。 薬に蝕まれた体はボロボロのはずなのに、ほんのり温かくて心地よくさえある。 多分、もう、とっくにわたしは死んでいる。唄帆くんがわたしに微笑んだあの日から。 END ついったーお題botより →/menu [← | 少女 | →] |