閉じ込めておきたいのにそれもできないくらいに、
(多所普)


眩しい。

教室の窓から差し込む光がホワイトボードに反射して、一瞬だけ霞んだ視界は真っ白な世界に変わった。

それでもいろはだけははっきりと見えていたのは、俺の頭の中にある映像が補完していたからに過ぎない。

常々恋愛依存だ異常な執着だと周りにいわれ続けてきたが、そろそろ自分でも否定できないところまできている。同じ教室にいても尚、もっと近くに、と望んでいるのだから。

友人に囲まれて笑ういろはの笑顔を見て純粋に愛しく思えていたのは今や昔のこととなってしまった。今感じている胸の中のドロドロした感情は、愛しさの延長線上にあるとは到底思えないくらいに暗く、汚れたものばかりだ。

俺が望むことをいろはにすればその先には別れしかないことは今までの経験から分かっている。しかし自分自身でなんとかするにも限界がある。

その姿が見えなくなれば。
その声が聞こえなくなれば。
その体温を感じられなくなれば。

そのどれもが非現実的なことである以前に、意味のないことでもあった。

俺が知らないところでいろはが誰かの視線に曝されているなんて、想像するだけで苦しい。

だから目の前でそれが起こっている今の状況は、俺にとってはまさに地獄だった。

耐えきれなくなった俺は、コンビニの袋を引っ掴んで、狭い教室からにげだした。

誰も俺みたいにいろはのことばかり見ているわけがないと頭では理解している。しかし問題は理解だけでは抑制しきれない感情の部分。

スナックの袋を片手に屋上からグラウンドを見下ろす。

「また自殺ですか?」

日常の挨拶のように尋ねたひびきには、俺が半ば本気であることは分かっているだろう。

「飛び降りるのがお好きなんですね。前世は鳥類なんじゃないですか?」

初めて会ったときもただ冷たく正論を述べられただけだったが、数年の付き合いを経て皮肉まで言うようになり、輪をかけて冷たくなっている。

「何でお前がいるんだよ」

「教室に行ったらおられなかったので」

「で、ここ?」

「えぇ。いろは先輩が心配しておられたので」

「心配って? お前、いろはと喋ったの?」

「えぇ、喋りましたよ」

ひびきは呆れたようにため息をつく。

「人間は会話でコミュニケーションを取るのですから当然でしょう?」

「そういうことじゃねえだろ」

「では黙って見つめあえばよかったですか? その方が貴方の怒りに触れる気がしますけれど」

「あークソ、もういい。お前と喋りたくねぇ」

スナックのクズを口のなかに流し込んで、袋をぐしゃっと潰し、レジ袋に押し込む。

「先輩は本当に人を縛り付けるのがお上手ですね」

「は?」

「いろは先輩のことですよ」

「んなことできてたらこんなに悩んでねぇよ」

「いえいえ、十分できてますよ」

クスクス笑うひびきを蹴りたくなったが、お陰でセンチメンタルな気分はすっかり消えてしまった。

「いつ話をしても先輩の話題が出ないことはありませんからね」

「その程度で……」

「常に頭の中にあるというのは縛り付けているのに等しいでしょう?」

あぁ、そうかも。
それがうまいのはいろはの方だとは思うけれど。

空を見上げると真っ白な世界にいろはの姿が浮かんだ。

おわり。

診断の普へ幸せになりきれないお題、より。

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