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久乃木(好きなひとの好きなひと)


 久乃木(絶対に絶対に絶対に言えないけれど)

 久乃木(わたしには好きなひとがいる)

 久乃木(そのひとは、わたしのせんぱいで)

 久乃木(やさしくて)

 久乃木(絵がうまくて)

 久乃木(本当に本当に本当にすごいひとだ)

 久乃木(何よりすごいのが)

 久乃木(わたしの言葉がわかること)

 久乃木(わたしは我ながらどうしようもなく口下手で)

 久乃木(だから、わかってくれるひとなんて周りにいなくて)

 久乃木(学生時代は苦労したりもした)

 久乃木(絵を描くようになったのも実はそれが原因で)

 久乃木(ひとりのやすみ時間にすることがなくて)

 久乃木(プリントの裏に描いてたのが最初だった)

 久乃木(それがある日、クラスメイトに絵を見られて)

 久乃木(うまいねって言ってもらえて)

 久乃木(わたしはやっとひととつながれたって思って)

 久乃木(もっともっと絵を描くようになった)

 久乃木(うまい絵を描けば誰かわかってくれるかもしれない)

 久乃木(わたしはきっと絵を通してしかひととつながることができない人間なんだ)

 久乃木(ずっとそう思ってたんだ)

 久乃木(でもそのひとはわたしの言葉をわかってくれて)

 久乃木(すぐにそのひとのことが大好きになった)

 久乃木(大好きなせんぱい)

 久乃木(でも、その大好きのベクトルが)

 久乃木(恋愛的なものに変わるのに時間はかからなかった)

 久乃木(だってわたしにはせんぱいしかいないんだもの)

 久乃木(ところが、せんぱいには近頃好きなひとができたという)

 久乃木(なんということだ!)

 久乃木(愛ちゃん大ショック!)

 久乃木(でも、仕方ないよな、と思った)

 久乃木(せんぱいはすごく素敵なひとだし)

 久乃木(お友達もたくさんいるみたいで)

 久乃木(そりゃ好きなひとのひとりやふたり)

 久乃木(いない方がおかしいだろう)

 久乃木(だから決めたのだ)

 久乃木(せんぱいの恋を応援しよう、と)

 久乃木(好きなひとのしあわせはわたしのしあわせだから)

 久乃木(…………)

 久乃木(うん、だいじょうぶ。だいじょうぶ)

 久乃木(わたしはせんぱいのことを観察した)

 久乃木(原画を描いているうしろすがたを)

 久乃木(家へと向かい、自転車に乗る背中を)

 久乃木(家で残り物のカレーを食べるところを)

 久乃木(でも、特定の男性はいなさそうな)

 久乃木(きっと、遠距離恋愛なんだな)



 久乃木「えんっ」

 絵麻「遠距離じゃないよ。近くにいるひと」

 絵麻「家は知らないけど、そんなに離れては無いと思う」

 久乃木「どんっ」

 絵麻「どんなひと、か。そうだなぁ」

 絵麻「いつもいっしょうけんめいで」

 絵麻「がんばりやなひと、かな」

 久乃木「…………」



 久乃木(誰だろう、とお布団の中で考える)

 久乃木(いっしょうけんめいでがんばりや……)

 久乃木(高梨さんも平岡さんもないし)

 久乃木(そうだ、あのひとだ!)

 久乃木(名探偵愛ちゃんにはすべてお見通し!)

 久乃木(わたしは早速二人の仲を進展させるべく)

 久乃木(行動を開始した)



 遠藤「あの、安原さん」

 絵麻「はい」

 遠藤「その、気持ちは嬉しいけどさ」

 遠藤「俺、奥さんいるから」

 遠藤「だから、ごめん……」

 絵麻「…………」



 絵麻「どうしてそんなことしたの」

 久乃木「おうっ」

 絵麻「応援してくれるのはうれしいけど」

 絵麻「でも、相手のひとを間違っちゃダメでしょ」

 久乃木「ごめっ」

 絵麻「悪気があったわけじゃないみたいだしいいけど」

 絵麻「もう間違えちゃダメだよ」

 絵麻「いい? わたしの好きなひとはね」

 絵麻「ちいさくて、それで口下手なひとなの」



 久乃木(またまたお布団の中で考える)

 久乃木(ちいさくて、それで口下手なひと)

 久乃木(そんな男のひと、いただろうか)

 久乃木(いた! そうだ、あのひとじゃないか!)

 久乃木(名探偵愛ちゃんにはばっちりお見通し!)

 久乃木(わたしは早速二人の仲を進展させるべく)

 久乃木(行動を開始した)



 平岡「すいません、俺」

 平岡「安原さんがそんな風に思ってくれてるって知らなくて」

 平岡「その、よかったら友達から始めませんか」

 平岡「今度の日曜日とか予定あります?」

 絵麻「…………」



 絵麻「応援してくれるのはうれしいけど」

 絵麻「でも、相手のひとを間違っちゃダメでしょ」

 久乃木「ごめっ」

 絵麻「はぁ……」

 絵麻「もう間違えちゃダメだよ」

 絵麻「いい? わたしの好きなひとはね」

 絵麻「表情が豊かで微笑ましいひとなの」



 久乃木(やっぱりお布団の中で考える)

 久乃木(表情豊かで微笑ましいひと)

 久乃木(そんな男のひと、いただろうか)

 久乃木(いた! そうだ、あのひとだ!)

 久乃木(名探偵愛ちゃんにはがっつりお見通し!)

 久乃木(わたしは早速二人の仲を進展させるべく)

 久乃木(行動を開始した)



 木下「その、ね。安原さんの気持ちはうれしいんだけど」

 木下「僕と安原さんじゃちょっと年の差があるでしょ」

 木下「僕は離婚歴あるし、親御さんも反対するんじゃないかなぁって」

 木下「それに、実は僕最近本田くんのことが……」



 絵麻「久乃木さん、もう」

 絵麻「また相手のひと間違えて」

 久乃木「ごめっ」

 絵麻「いくらなんでも監督はないよ」

 久乃木「でもっ」

 絵麻「いっしょうけんめいでがんばりやで」

 絵麻「ちいさくて、口下手で」

 絵麻「表情豊かで微笑ましい」

 絵麻「そんなひとなんていないって?」

 久乃木「いなっ」

 絵麻「…………」

 絵麻「いるでしょ。わたしの目の前に」

 久乃木「!?」

 絵麻「いや、振り返っても誰もいないから」

 絵麻「ほんと久乃木さんは」

 絵麻「いっしょうけんめいでがんばりやで」

 絵麻「ちいさくて、口下手で」

 絵麻「表情豊かで微笑ましい」

 絵麻「そんなわたしの好きなひと」

 絵麻「だよなぁって思うんだ」


 おわり



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