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You know I?G
2011/05/18 水 22:05
karusaku



それから10分ほど、ゆっくりゆっくり歩いて。
美琴は黒子と手を繋いだまま、部屋へと帰り着いた。


『ただいまですの。』

『お邪魔します。』


ソファーを勧められた美琴は、おとなしくソファーに腰掛ける。

黒子はといえば、買ってきたばかりの食材を慌ただしく冷蔵庫に収納していた。
「申し訳ありません、すぐにお茶を淹れますので」と律儀にも美琴に断りを入れながら。

そんな黒子に気にしないで、と美琴は黒子から借りたペンを振って答える。


テーブルに置かれた白紙。
23歳の自分に、何を伝えよう。


もっとしっかりしなさい、とか。

ちゃんと覚えておきなさいよ、とか。

黒子に心配ばっかりかけてんじゃないわよ、とか。

どれもいまいち決め手に欠けるというか。
だらしない自分にガツンと言ってやりたいのに、全く筆が進まない。
ううん、と唸ってテーブルに突っ伏す美琴。


『…捗っていらっしゃいますか?』

そんな美琴に黒子はそっと紅茶を差し出す。

『ありがと、黒子。』

美琴は白磁のティーカップを受取る。


『有り合わせですが、宜しければこちらもどうぞ。』

黒子は買ってきたばかりのカンパーニュで作ったサンドイッチも出してくれた。
何やら黒子が慌ただしかったのは、急いでサンドイッチを作ってくれていたからだろう。


『うん、ありがとう。頂きます。』


有り合わせなんていいながら、カットしたパンの厚さもバターの量もすごくバランスが取れてて。
具はシンプルながらも、しっかり水が切られたレタスに、トマト、あっさりめのツナが美味しい。


『黒子の料理って美味しいね。朝食のスープもすごく美味しかった。』

私がサンドイッチに手を伸ばす姿に、嬉しそうに微笑む黒子。
サンドイッチを頬張りながら、美琴が感想を言うと黒子は顔を真っ赤にして俯いた。
わたくしなんてまだまだですの…等と自信が無さそうに呟いて。

『黒子の手料理を毎日食べてる23の私って…もしかして太ってる?』

『いえ。相変わらずわたくしが羨む程のスタイルを維持されてますの。』

『ふふっ、そして黒子は相変わらずダイエットの毎日なんだ?』

『ふふっ、そこは例えお姉様でも迂闊に触れてはいけない所ですのよ?』

『また全裸でドロップキック食らわせられたらたまんないから。止めとくわ。』

『そ、そ、それは昔の事ですの!』


美琴も黒子も声を上げて笑う。


いくら話しても、2人の話は尽きない。

懐かしいですの、そんな事もありましたの、それは昔の事ですの!
美琴が話すたびに、黒子は真っ赤になったり、遠い目をしたり、たまに切なさそうにしたり。
美琴は決して口には出さなかったが、とても嬉しかった。




14歳の美琴ですら、あやふやになってしまっている記憶を。
22歳の黒子は当たり前のように、ちゃんと覚えててくれている事に。






ふと時計を見ると、時刻はもう18:00を回るところ。
そろそろ刻限である。






テーブルに置かれた紙は白紙のままで。





美琴は意を決して、黒子に問う。




『……ねぇ黒子。今、黒子は幸せ?』




その美琴の問いに。
空になったサンドイッチの皿を下げていた黒子は、手を止めて答える。





"黒子はとても幸せですの"






それは、花が咲き誇るような満面の笑みで。
それは、美琴が黒子に記念日としてTシャツを贈った時の表情にそっくりで。
でも、どこか違っていて。



美琴は聞かずにはいられなかった。



『…そんな幸せな黒子から、13歳の黒子に伝えたい事ってある?』



『…伝えたい事、ですか。』



ふむ、と黒子は細い指を顎にあてて、思案顔をする。
しかし、そうやって悩んだのも一瞬で。





『特に伝えたい事はありませんの。』



きっぱりと言い切る。




『ええ?せっかくのチャンスなのよ?一言くらいないの?』



食い下がる美琴に、黒子も困り顔でもう一度、考えてみる。




『……そうですわね、強いて言えば……。』





『…強いて言えば?』





『……やはり、無いですの。』
『無いの!?』

がくりと美琴は肩を落とす。
その様子に黒子は微笑んで。




"わたくしの望みは、今も昔もたった1つですから。"




気持ち良いくらいに、はっきりと呟いたのだった。




美琴はそんな黒子から視線を逸らして、ペンを握り、一言殴り書きをした。
そして、書き終わると同時に紙を裏返して。


『…こっちの私が戻ってきたら、見せておいてね。』


黒子に言付けたのだった。


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"You know I?H"
つづきますの!次がラストですの!


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