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You know I?F
2011/05/18 水 00:06
karusaku



『黒子はいつもこうやって買い物してるの?』

『はい、普段もお姉様と買い物に来ておりますの。』


黒子が野菜を選ぶのを邪魔しないように美琴は声を掛ける。
せめてもの手伝いとして、買い物カゴは美琴が持っている。

「そ、そんな事はできませんの!」と必死に食い下がる黒子から無理矢理に奪ったのだが。


エコバッグ片手に、袋詰めされている人参を手にとっては
これは…と、吟味する黒子の姿は、美琴からすればどう見ても主婦な訳で。


『ねぇ黒子、野菜ってどれもそんなに変わらない気がするけど…?』

『いえ、今夜こそお姉様に人参を食べて頂きたいのです。グラッセならばお姉様も……。』
どうやら黒子は人参が嫌いな私に、どうにかして人参を食べさせようとしているみたいで。
少しでも甘そうな人参を選んでいるのだろう。


『ねぇ黒子、必死に悩んでるところ悪いんだけど、私は別に人参が嫌いじゃないんだけど…?』

『こちらのお姉様は人参がお好きではありませんの。
何でも高校生の時に、どこかで生煮えの人参を食べてしまったらしいですの。
それ以来、人参を見るたびにその時の土臭さを思い出してしまうとのことで。
どんな理由があっても……好き嫌いはいけませんの。』


『…そりゃどうもすみませんねぇ。』


私の為に、人参1つに何もそこまで…と、美琴は呆れてしまう。
そして同時に、この子はどこまで私の事を想ってくれるんだろうと密かに感謝する。


(って!別に私は!黒子の事が好きなんじゃないから!)

(私が元の時間に戻って、その…黒子と"恋人"になるかどうかは分からない訳だし!)

(あれ…?でもそうしたらこの時間の流れってどこかでズレが出ない…?)

(……もしかして、もしかしてもしかして。私と黒子が恋人になるのは、もはや決定事項なの?)


『お待たせしましたの、お姉様。…お姉様?どうされましたの?』


『ごめん、ちょっと私、頭痛いかも…。やっぱダメだわ、私。時間とかよく分からない。』

野菜売り場の片隅で、頭を押さえて蹲る美琴。


『ふふっ、level5のお姉様でも演算できない事がありますのね?』

選び抜いた人参を片手に、ふわりと微笑む黒子。


『ねぇ黒子、お菓子買って?ちょっと糖分摂取しないと頭が破裂しそうなの。』


『はいはいお姉様。いつもの予算でお願いしますの。』

『…いつもの?』

『あっ、申し訳ありませんの。…その…つい癖で…。』

『…23の私はこうやって買い物に来て、黒子にお菓子をねだってる訳ね…。はぁ。』
『お、お姉様が落ち込む事はありませんの!黒子が甘やかしてしまっているからですの!』

『……うん、なんかもうツッコむ気も失せてくるわ…この時代の私に。』



黒子が夕食の食材を吟味し終え、美琴もちゃっかりとお菓子をカゴに忍び込ませて。
2人でレジへと並ぶ。


黒子が手慣れた手つきでポイントカードを出しているのを見て、美琴は爆笑して。
黒子は顔を真っ赤にして「お、お得ですの!」と、爆笑し続ける美琴に反論して。


スーパーの後はパン屋へ寄り、花屋にも寄った。

やがて2人は帰路につく。



エコバックをどちらが持つのかにまた口論になって。
結果としては、美琴がずっしりと重くなったエコバッグを黒子から奪うように取り上げたのだが。




『…黒子、食べる?』

美琴は黒子に買ってもらったチョコレート菓子を黒子に差し出す。


『お姉様、歩きながら食べるなどはしたないですのよ?』

いりません、とつんとそっぽを向く黒子。


『そうやって小言ばっかり言う所は、ほんっと変わんないのね?』


『何度申上げても一向に聞いて下さらないのは、今も昔も変わらないですのね。』


『…悪かったわね。』

『わたくしも小言ばかり申上げて、申し訳ありませんの。』


『…絶対に悪いとか思ってないでしょ?』

『お姉様こそ。』


『…ねぇ黒子。今何時?』

『…17:00過ぎですの、お姉様。』


黒子はそっと腕時計で時刻を確認し、呟く。




『…あとちょっとね。』







美琴は自分でそう言って、何だか無性に淋しくなった。



そっと隣を見ると、綺麗な横顔があって。




あの黒子も黙っていれば可愛いのに、と思う事はよくあったけれど。


この黒子は文句無しに綺麗で可愛くて。


表情や仕草や困った顔なんかはあの黒子と一緒なのに、どこか違っていて。



『…お姉様?どうされましたの?』



美琴を見つめる瞳には、いつでも愛情がこもっていて。




どうしても美琴は、その瞳から視線を逸らせなくなってしまう。





今、隣に歩いている黒子と一緒に過ごせるのはあと残り僅か。




元の時間に戻れば、必ずそこにも、黒子はいるのに。
それでもこの黒子と会えなくなるのは、すごく淋しかった。
お菓子を食べ終え、空っぽになった美琴の左手。


黒子の右手も空っぽで。








美琴はそっと左手を、黒子の右手に当てる。



---ぎゅ。



黒子は無言で、美琴の左手を握ってくれた。





何も言わなくても、いつだって自分の気持ちを分かってくれるこの人に。



美琴は心が温かくなるのを感じた。








こんな黒子に会えるならこんな未来も悪くないかもしれない。
なんて考えた私はバカだろうか。






-----タイムリミットまであと1時間。


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つづきますの!

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