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You know I?D
2011/05/17 火 22:39
karusaku



『黒子?お待たせ。着替え終わったわよー?』


美琴はリビングから声をかける。
いくつかある扉の1つから少し間を置いて、黒子が出てきた。

『サイズはいかがでしたか?』

『あーうん、ちょっと大きいけど…着れないくらいではないし。大丈夫よ。』

『小さめな物を選んだつもりでしたが…。こうしてみますと、やはり成長されたのですね。』

母親の様に、しみじみと言う黒子がなんだかおかしくて。
美琴は思わず吹き出す。

『あはは、こっちの私って大きいの?』

『そうですわね。今のお姉様よりもう少し背が伸びていらっしゃって。とても美しいですわ。』

真顔で答える黒子。
何故かその顔を直視できなくて、美琴は慌てて目を逸らす。

(…美しいって真顔で言われたんですけど…///?)

そんな美琴に気付いているのか、黒子も微笑む。

『お姉様、では参りましょうか?』

『あ、うん。』


エコバッグ片手に戸締りを確認する黒子の後姿が主婦に見えて。

恋人だとかはとりあえず置いておいて、こんな黒子はレアよね。

13歳の黒子への良い土産話になると思い、美琴は声を出して笑ってしまうのであった。






『うーん、未来の学園都市っていっても、見た目はあまり変わらないのね?』

『そうですわね。と言いましても、わたくしでは気付けないだけかも知れませんが。』

美琴と黒子は並んで川べりの道を歩いていた。
美琴の目に映る風景は、昨日見ていた風景とさして変わらない気がする。

『ね、黒子。ここって何学区?』

『お姉様、その事なのですが。』

『お姉様は本来、この時間にいらっしゃらないはずのお方ですの。』

『うん。』

『あまり未来の事を知ってしまうのは…その。
黒子は、お姉様の未来を狭めてしまう気がしてなりませんの。』

『うん、私もそう思う。知らないはずの事を知っちゃいけないと思うし。』

『あちらのお姉様はあくまで過去。思い出すことはあっても新たな情報を得ることはないでしょう。』

『でもさ、あっちの私は、きっとこの事も覚えてたはずだよね?私が今、こうやってるんだし。』

『…そうですわね。』

『あれ?っていう事は…え、待って。
今、私が体験してるって事は、23の私もこの事を知っていて…。
だから…えっと…つまり……ああ?…頭痛い。』

『お姉様。正直、その事を考え出すと、思考がループしてしまいますの。
卵が先か、鶏が先かのお話になってしまいますし。』

『…うん。』

『考えてもしょうがないかとは思うのですが、ただ
この時間の佐天さんや初春とお会いになるのは避けた方が宜しいかと思いますの。』

『そうだね。私もそう思う。なんか勿体ない気がするもん。』

黒子は隣を歩く美琴に、聞き返す。

『もったいない、ですの?』

『だってさ、未来って想像するだけで、わくわくするもんじゃない?
あの2人が将来どうなってるかなんて楽しみな事、先に見ちゃうなんて勿体ないじゃない?』

『…お姉様らしいですわ。』

『まぁ大人な黒子を見ちゃったのは不可抗力で、仕方ない事だし?
でもさ、"やっぱり"よりも"まさか"の方がきっと楽しいよね?
だから、私もあんまり深く考えない様にしてる。夢みたいな感覚で今も捉えてるし。』

『そうですわね。未来は未来ですから。"やっぱり"では味気無いですの。』


くすくすと笑う黒子に、でしょ?と美琴はおどけてみせる。
そして気が付いた。隣を歩いている黒子が、少し疲れていることに。


『でもさ、私はこの時代の黒子に会えてよかったなって思ってるの。』

『…どうしてですの?』


会話をしながら、美琴はちらりと隣を見やる。


(…黒子、私の歩くペースに合わせてくれてるんだ。)


いくら22歳とはいえ、美琴より小さなその身体。
歩幅だって違うにきまっている。

美琴は黒子に気付かれない様、少しだけ歩調を緩める。


(…もしかしてこの時代の私は、いつも黒子に合わせてゆっくり歩いてるのかもね。)


『だって私の知ってる黒子って、下着はパクるし人前で抱き着くし媚薬は持ってるしで
まさかこんな落ち着いた女性になるなんて、全然予想できなかったし?』

『ふふっ、これも全てお姉様への愛が成せる技ですのよ?』


黒子が少しだけふざけて微笑む。
それは13歳の黒子と同じ表情、同じ笑顔で。



『…でもま、黒子は黒子よね。』

『ですわね。お姉様もやはり、お姉様ですの。』





本来、出会うはずのない姿で。
いつになっても変わらない2人のまま、ゆっくりと川べりを歩いていく。






『お姉様、スーパーに向かう前に、近くで少しお茶しませんか?』

『うん。ってあ、私お金持ってないわよ?』


財布どころか携帯電話も持たない美琴は慌てて答える。
寝起きのパジャマ、いわゆる着の身着のままでこちらに来てしまったのだ。


『ご心配には及びませんの。後程、こちらのお姉様にしっかりと請求致しますので。』

絶対にそんな事しないくせに、そうやって気を遣わせないようにする大人な黒子。
そんな黒子に、美琴は昔っから本当に変わんないのね、と思う。


『あはは、利子まで請求してOKだから。』


『お姉様。その言葉、覚えておいて下さいましね?……7年先まで。』


『うん。大丈夫よ。7年先でも、10年先でも、ちゃんと覚えとくわ。』


そうやって軽くかわすと。



『……お姉様。』



美琴は何事かと自分の腕を見た。
そこにはそっと腕を抱き締める大人の黒子がいて。


『…少しだけ、こうさせて下さいまし。』
俯いたまま、きゅっと美琴の腕を掴む黒子。









---7年先まで。

それはつまり、今の事を指していて。

今、私の腕にしがみつく黒子は、この未来を望んでいるという事。

--23歳の私の"恋人"である未来を。









『…未来は約束できないけど。今の黒子にはいっぱい助けてもらってるから。
ちゃんと覚えておく。それだけは…約束するから。』


『……それだけで、黒子は十分ですの。』




いつもだったら振り払う腕。

今だけは、この黒子には、このままでもいいかな、と思ってしまう美琴だった。


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つづきますの!



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