C


You know I?C
2011/05/17 火 21:39
karusaku



『…お姉様、大変申し上げにくいのですが。』


黒子が慣れた手つきで手当をしてくれながら、俯く。


『えと…なに?どうしたの?』

美琴は動揺してしまっている事がバレないよう、聞き返す。


(…言えない。とてもじゃないけど言えない。)


しゃがんで私を見上げる、黒子の首筋に赤い痕があるのに気付いてしまった。
そして、その犯人はおそらく23歳のバカな私である事なんて。


(…本当に、この目の前の黒子は、私と"こいびと"なんだ…。)


『その…こちらのお姉様の事なのですが……。』

『う、うん。』

『こちらのお姉様は時々、悪ノリされてしまう事がありまして…。』

『あ、うん。さっきの写真だけでも十分にその悪ノリ感は伝わってきたわ。』

『もしかすると…お姉様は
「これはラッキー、ちょっと佐天さんや初春さんにも会いに行こう」等とお考えになって、
すぐにはこちらに戻ろうとしていないかもしれませんの…。』

『…情けないけど、それって有りえるかも。もともと、今日は私皆で買い物にいく予定だったし…。』

『本当に申し訳ありませんの、お姉様。』

『い、いや黒子が謝ることないよ!私がいけないんだから!』

『…戻ってきましたらきつく叱っておきますので、どうかご容赦下さいまし。』

『あ、でもそれって結局私が怒られる気がするんだけど。…うん。大丈夫。何かごめん。』

『いえ…それより包帯は苦しくありませんか?』


きゅっと、私の足に巻かれた包帯を、テープで留める。
黒子のそのすごく優しい手つきに、なんだか恥ずかしくなる。


『…うん、大丈夫。その…ありがと黒子。』

『いえ、とんでもないですの。』


ふわりと笑って、救急箱を持って立ち上がる黒子。


この黒子が、私の知っているあの黒子だと疑ってはいないけれど。
落ち着いた大人な黒子は、むず痒いというか。
私の知っている黒子はもっと変態で、頭のネジが吹っ飛んでて、見境がなくて。


(…いくら22歳っていっても、黒子は黒子だし…調子が狂うわね。)



手詰まりになってしまい、これからどうしたものかと思案するも解決策は浮かばない。

美琴は黒子に勧められるまま、白いソファーに腰掛けた。
黒子は楚々と紅茶を淹れ直し、思案顔の美琴へと差し出す。

『ねぇ黒子、23歳の私が戻ろうとする時間とかって心当たりあるかな?』

『そうですわね。おそらく、18:15頃かと。ちょうど常盤台の門限もその辺りですし。』

『…ちなみにその時間の理由は?』

『…お姉様が最近、欠かさず見ていらっしゃるアニメの放送時間が18:30ですので。』

『…本当にバカだな。私って。ふふっ。』

『そ、そのような事は…!』
『黒子にこんなに心配かけてるのにね。バカだよね。ごめんね?』

『…お姉様。』


『…さてと、まだお昼前だし。夕方まで時間潰すしかないかな。黒子は用事とか無いの?』

『用事、ですか…。わたくしは夕食の買い物くらいしか…。』

『折角だし買い物ついでに、私もこの時代の学園都市を探索しちゃおうかな?』


『わたくしが、お姉様とお買い物、ですの?』


きょとんとした表情で、聞き返す黒子。


『あ、ごめん。まずかった?』


その予期せぬ反応に、美琴も慌てて聞き返す。


『いえ、そのような事は。ただ、』

『ただ?』


『なんだかお姉様とお買い物なんて不思議だな、と思いまして。』

『…私も不思議よ。大人な黒子と買い物なんて。』

『ふふっ。それでは準備をして参りますの。』

『あ、はーい。』


黒子は立ち上がり、部屋の奥へと消えていった。


リビングに一人残る美琴。
リビングボードのフォトフレームからは無意識のうちに視線を逸らして、ソファーから立ち上がる。


綺麗に片づけられたカウンターキッチン、それに日当たりのよいベランダ。
ソファーの隣には間接照明と、美しく葉を茂らせる観葉植物があって。

恐らく、奥には寝室があるのだろう。


(…1LDK?2LDK?それにしても…無駄に広いわね。)
常盤台の寮は決して狭い訳ではない。
しかしこの部屋に比べると、やはり狭くは感じる。

(……あの黒子と、ここに住むってどんな気分なんだろ?私は。)

壁に手を触れ、なんとなくそんな事を考える。



『お姉様?』


振り向くと、着替えを終えた黒子がリビングの扉の前で立っていた。

落ち着いた秋色の七分カーディガンに、少し胸元がゆったりとした白地のインナー。
細身のデニムに、ワンポイントの細いベルトは22歳の黒子にすごく似合っていて。
大人っぽくて、可愛いと思った。


『…あ、えっと、何でもない。』

『でしたら宜しいのですが。お姉様に合うかは分かりませんが、お召し物を見繕ってきましたの。』

『あ、私パジャマだもんね。ありがとう。』


自分のカエル柄のパジャマを見下ろし、差し出された服を受け取って美琴は笑う。


『わたくしは奥にいますので、何かありましたらお声掛け下さいまし。』


そう言って、黒子はまた奥へと消えていく。


(…やっぱり大人な黒子は、私の着替えを覗くなんてしないのよね。)


内心、いつもの癖で身構えてしまっていた美琴は力無く笑う。
ちょっとだけ嬉しくて、安心する反面、ちょっとだけ残念で。


何気なく手渡された服を見る。
綺麗に畳まれた、薄手のパーカーやラグランTシャツにデニム。
きっとこの時代の私の服だろう。


--袖を通すと、意外とサイズが合わない。


デニムは裾が余るし、パーカーもTシャツもちょっと大きめで。


(…22歳の黒子はあんまり身長伸びてない気がするけど、私は伸びたのかしら…?)



まだ見ぬ23歳の自分を少しだけ想像して、美琴は笑った。

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"You know I?D"
つづきますの!



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