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You know I?A
2011/05/16 月 22:25
karusaku



『ではお姉様、落ち着いてお話をまとめましょう。』

『う、うん。』


誰がどう見ても自分より年上の人に"お姉様"と呼ばれるのは、気恥ずかしいなと美琴は思う。
相手がいかに、あの黒子とはいえ。


『お姉様は今朝、13歳のわたくしに声を掛けられて、起き上がろうとして
…ベッドから落ちてしまいましたのね?』

『う、うん。寝ぼけてたから落ちちゃったんだと思う。』

『わたくしはつい先ほど、23歳のお姉様とお話していました。
そう、洗濯物を干されているお姉様に、朝食が出来ました、とお声掛けしましたの。』

『あ、う、うん。』

『一瞬だけ目を離した隙に23歳のお姉様は消えてしまわれて。
その代わりに14歳のお姉様が倒れていらっしゃいましたの。』


『う、うん。』


美琴は返事をしながら、22歳の黒子に招かれた部屋を見渡す。


ホワイトを基調とした落ち着いた家具達。
間接照明や観葉植物なんかもすごくお洒落で。
これが将来の自分達の部屋だとは何とも想像しがたいものがある。

ここからはよく見えないけど、リビングボードに立ててあるフォトフレームには
おそらく23歳の私と、目の前の黒子の2人で映った画像が映し出されている。


『…おそらく、この時代のお姉様と、常盤台時代のお姉様が入れ替わってしまった。
俗に言う、タイムスリップというものでしょうか。』


『…想像もつかないし、考えたくもないけど、多分、そうだと思う。』


『この学園都市でこのような事が起きるなんて、信じられませんの…。』


そう言いながらも、22歳の黒子は手際良く紅茶を淹れてくれて。


『…あ、頂きます。』

『何だか、お姉様にそう言われると恥ずかしいですの。』

『いや、そんなこと言ったら、22歳の黒子にお姉様って呼ばれる方が恥ずかしいんだけど。』

『ふふっ、それもそうですわね。』


目の前の黒子は、上品に笑う。

私の知っている黒子もずいぶんと大人びてはいたが、目の前の黒子はもっと大人で。

顔も、仕草も私の知っている黒子よりもっともっと綺麗だ。別人だと思えるくらいに。
黒子なのに、何故だか、ちょっとドキドキしてしまう。


『ね、黒子、私がここにいるって事は、向こうにこっちの私がいるのよね?』

『えぇ、おそらくは。』

『だよねぇ…あっちは寮だし、大丈夫かなぁ?』

『ご心配には及びませんの。向こうにも、わたくしがいますから。』
そうやって微笑む、目の前の黒子はなんだかすごく優しくて、安心できて。
黒子がいるから大丈夫かも、と思えてくるから不思議だ。


『…ね、黒子と私はこの部屋にいつから住んでるの?』

『お姉様が常盤台を卒業されて、わたくしがお邪魔するようになってから、
1度引っ越しをされましたから…。ここは3年程前からかと。』

『へぇ〜私と黒子って常盤台を出てからも一緒に住んでるんだ?』

『ふふっ、お姉様がお誘い下さったではありませんの。』

『え、私から誘った?えっ?黒子がまた押しかけてきたんじゃなくて!?』

『嫌ですわお姉様…お忘れ…。…お姉様がいらっしゃったのは、常盤台時代の"いつ"ですの?』

『えっと、いつって言われても…。季節は秋よ?私が中2の秋。』

『…!!』

『え、なに?どうしたのよ?黒子!?』

『な、なんでもありませんの…。』

(な、何という事でしょう…。中2の秋…。
それはまだお姉様がわたくしに想いを告げて下さる前ではありませんか…。)

『黒子?どうしたの?明らかに動揺してない?』

『いえ、些末な事ですので…うふふ。それよりもお姉様、元の時代に戻る手段を考えなくては。』

『そ、そうよね!でもどうしたらいいんだろ。』


うーんと腕を組んで、悩みだす美琴。
何かを思いついたのか、でもさ、と切り出す。


『どうしてタイムスリップしたのか分からなくちゃ、どうしようもないわよね?』

『そうですわね。しかしながら、この時代にもまだそんな技術はありませんの。』

『ん〜そうだよね〜。どうしたらいいんだろ。』

『しかしながら、お姉様が元の時間に戻れなければ、この時間もありえないはずですの。』

『そっか、私があの時間にいないと、この未来は無いはずだもんね。』

そうですの、しかし…と黒子は話を続ける。

『この時代が幾重にも分岐した時間流の1つであり、パラレルワールドである可能性も否定はできませんの。
しかし、わたくしは昨日のように覚えていますの。お姉様と過ごした今日までを。』

『黒子…。』

『わたくしはこの先もずっとずっと、お姉様と一緒ですから。
その為にも、お姉様には元の時代にお戻り頂き、この時代のお姉様に帰って来て頂かなければ。』


『…うん。なんとかしてやろーじゃない。私もまだまだ中学を楽しみたいしさ。』


御坂が、ぐっと拳を握った瞬間。

ぐ〜と気の抜けた音が響いた。


『お、お腹減った…。』

『そうでしたわね!お姉様は起床されてすぐにこちらにいらしたから…朝食を準備致しますわね。』

『黒子、ありがと〜。』


慌てて黒子は朝食を温めなおし、テーブルへと運んでいく。
今朝のメニューはオニオンスープにクロワッサン、あとはリンゴと全て美琴の好物ばかり。

『遅くなって申し訳ありませんの。どうぞ召し上がって下さいな。』


『うん、いただきまーす。』

美琴は嬉しそうにオニオンスープに手を付ける。
子供のように無邪気に顔を綻ばせる美琴が可愛らしくて。

『…お姉様は昔からオニオンスープがお好きでしたものね。』


『そうだっけ?確かに好きだけど…ってなんだか黒子、恋人みたいな事言うのね?』


『……!!も、もうお姉様ったら。うふふ…。』
(そ、そうでしたの。このお姉様はわたくしの事をルームメイトと思っていらっしゃるんでしたの。)


『でもさ、私と黒子って不思議よね?』


『な、何がですの?』

(…ここで、このお姉様に"恋人になって仲良く暮らしていますの"等と伝えてもいいのでしょうか。)


『だって、常盤台を卒業して、23になっても一緒に暮らしてるなんて。』


『そ、それは…。』

(しかし、ここでわたくしがその事を伝える事で、あの時、お姉様は想いを告げて下さったのかもしれませんし…。
過去を変えてはいけない、とよく言いますが、これは過去を変えてしまう事になるのでしょうか?)


『…黒子?ごはん食べないの?』


『……。』
(…しかし、この部屋を見れば、ただのルームメイトでない事は一目瞭然。
わたくしがお伝えせずとも、おのずとお分かりになるでしょうし…いったい、黒子はどうしたら…。)


『…黒子?ねぇ黒子!?』


『は、はいですの!』


『黒子、さっきから何か私に何か隠してない?』


『そ、そのような事は…!』


『はい、黒子嘘つき。黒子さ、嘘つくとき右の眉が少しだけ下がるのよ?気付いてた?』


『う、お姉様…その頃から気付いてらっしゃったんですのね。通りで…。
わたくしがお姉様からそれを聞いたのは高校生になってからでしたのに…。』


『さ、白状しちゃいなさい?』


『その…お姉様とわたくしは………。』


『何?聞こえない。』


『その…ですから、お姉様とわたくしは…世間一般で言うところの…こいびと…ですの。』



『そっか、恋人か。だからか〜………ってえええええええええええええ!?』


御坂は絶叫し、思わず手にしていたスプーンを取り落す。
食事中にも関わらず、御坂はテーブルから立ち上がり、リビングボードのフォトフレームを手に取る。



『…ま、まさか…ほ、本当に…!?』


そこには、確かに自分よりももっと大人な自分が映っていた。


嬉しそうに微笑んで22歳の黒子に抱き着き、黒子は恥ずかしそうに頬を染めていて。
違う写真では、22歳の黒子に抱き着いて、その頬にキスしていて。
どの写真も、23歳の私らしき奴は、デレデレと微笑んでていて。

しかも、見覚えがあり過ぎる字で"黒子Love"なんて書いてしまっている、
バカな自分も同時に発見してしまって。


『わ、わ、私はバカかーーーーーーーー////!!』



美琴の全身全霊の叫びが、部屋に木霊する。

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"You know I?B"つづく



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