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You know I?H
2011/05/19 木 00:07
karusaku
『…よし、これで大丈夫ね。』
着替えを済ませ、美琴はカエル柄のパジャマへと戻った。
手には白のシーツを携えて。
無機質なビル達の合間を縫って、鮮やかなオレンジ色の夕日が沈む。
美琴は小さく深呼吸し、時刻を確認する。
--18:12。
『黒子、いろいろありがとう。すごく楽しかったし…、嬉しかった。』
『わたくしこそ、お姉様にお会いできて本当に嬉しかったですの。』
美琴と黒子はベランダへと並び立つ。
『…今日、黒子に会えて。向こうの黒子にちょっとだけ優しくしてあげようって思えたの。』
『それは光栄ですの。13歳のわたくしは…淋しがり屋ですから。きっと喜びますの。』
『ふふ、淋しがり屋なんて可愛い言葉では表わせないけどね。』
『ふふっ、それも全てお姉様を愛する気持ちが故の行動ですの。どうかご容赦下さいまし。』
美琴は微笑む。
一緒に朝食を食べて、お茶をして、買い物もして。
たくさん笑って、未来の話をして。
いつだって大切そうに、愛おしそうに自分を見つめてくれていた、22歳の黒子へ。
--18:14
『ん、ねぇ黒子。…また会えるといいわね。』
『…必ず、会えますの。少しだけお待ち頂ければ。』
風が吹く。
風に色なんてないけれど、美琴にはその風がオレンジに見えた。
オレンジの風に乗って、黒子の赤みがかったツインテールがふわりと揺れる。
--18:15
『黒子、またね?』
『黒子はいつだってお姉様のお傍にいますの。』
返事の代わりに、こくんと頷いて。
---美琴は手すりに足を掛け、身を投げ出した。
落ちる。
もうすぐ、自身の能力でも対処できない距離。
そう思った瞬間、視界が真っ白になった。
----どんっと身体に鈍い痛みが走る。
しかし5階から落ちた痛みとはとても思えない。
こわごわと目を開けると、そこには白いシーツと見慣れた床。
(………帰ってきた、の?)
美琴は起き上がり辺りを見回しながら、その名を呼ぶ。
(……やっぱり寮だ。私、帰って来れたんだ…!!)
『…っ黒子!?黒子!?』
『………ま。』
力無く聞こえた、ルームメイトの声。
何だか少しだけ幼く感じる、聞き慣れた声。
慌てて声の方を振り向く。
『黒子!?私、帰って…!!…って………はぁぁぁああ!?』
美琴のベッドには、半裸状態で恍惚の表情を浮かべる幼い白井黒子がいた。
--視線の定まらない瞳で、ひくひくと小さな身体を痙攣させている。
『……骨ェ鯖……激し…過ぎますのぉ……////。』
常盤台の制服だが、サマーセーターは着ておらず、長袖の白いシャツだけ。
そのはだけた首元や鎖骨辺りには、見覚えのある赤い跡がびっしりと残っていて。
--------------犯人はただ1人。
『はあぁぁ////!?私はバカかぁああああああああああ/////!?』
常盤台中学女子寮208号室。
14歳の御坂美琴の大絶叫が響いた。
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『もうお姉様!いい加減白状して下さいまし!』
『白状も何も…私だってその日が"今日"だって分からなかった訳だし?』
ごろりと白いソファーに横になる美琴に、黒子は詰め寄る。
『わたくしは困惑される14歳のお姉様のお姿に心を痛めておりましたのよ!?』
『ん〜何よ黒子?あ、もしかして14歳のツンデレな私にときめいちゃった?』
ふふっ、図星?と、いじわるく微笑む美琴。
『なっ///!!そうやって黒子をからかうのもいい加減にして下さいまし!!』
『ごめんごめん、ね、黒子、こっち来て。ぎゅってしてあげるから。』
『今日という今日は!その手も通用しませんの!』
手招く美琴に、つんとそっぽを向く黒子。
美琴は困ったように微笑み、黒子の腕をやや強引に掴んでソファーへと引き寄せた。
『…淋しい事言わないでよ。今日は"特別な日"なんだから。』
『…特別な日、ですの?』
美琴は黒子をぎゅっと抱き締めて耳元で呟いた。
『そう、"14歳の私が黒子への本当の気持ちに気付いた日"よ。』
目の前のテーブルに残されたメッセージを横目で見ながら。
-----You know I?-----
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