インスタントラーメンと同義の恋だなんて、お笑いじゃない。あなたとの恋だとか愛だとかは所詮ね、偽物でしかないのよ。
本物とそれを比べて、同じ味や料金を求めるのはね、掬いようのないバカのすることなのよ。疑似恋愛とかオナホールと一緒。
結局はね、私たちは道具を利用しあっているだけで、ただの利害一致によって集まっただけ。そんなのもう、終わりにしたほうがいいんじゃない?こんなこと、あなた以外とだってできるはず。他人から恋人になったんだから、その逆もできるはず。
 そうやって私たちは道を違えて、他人に成り代わったはずなのに、どうしてか何時も、君のことが脳裏にチラついて仕方がない。まるで麻薬を使用した時のような渇きに、もう自分が自分ではない別物のように感じた。もう私は終わりなんだと、君という女性と出会ったあの日から、私はどうしようもないただの男に成り下がってしまった。患者の中には私のことを仏だとか神様なんて言う人も多いけど、俗物にまみれた私をどうすれば神などと言うことができようか。私は、神なんてものじゃない。汚い内臓の入っっている、ただのそこら辺を歩いているような何の変哲もない腐った人間だった。

 仕事が終わり何もない自宅に帰ってみると、君がいかに私にとって強烈な人間だったかがよくわかる。君がいた時は、この部屋が箱庭のようだと思っていたのに、ひとたび現実に戻ってみると、つまらない家具や照明が照らしているだけの、監獄のようにも思えた。仕方なしに、どこぞの男の真似でもして、名前も知らない女性を抱いてみても、この行為こそが、インスタントラーメンなんじゃないかって、これがジャンクなんじゃないかと思えてしまう。偽物の人間を抱いたって何の感情もわかなかった。興味が1ミリたりとも存在しないからだ。

 君が偽物の人間で偽物の恋をしたと言い張るのなら、私と、私の行為は何だって言うのだろう。本物を偽造して、偽の満足感を得る食べ物を私はそこまで知らない。即席麺はたかだか即席の代物である。添加物は少量であれば何の害もなくとも、それを大量摂取したり、偏った生活を続けていれば確実に毒になるということは今の時代小学生だって理解している。君を大量摂取すれば本当に毒になりうるのか、私は到底理解ができないのだ。
 私は料理があまり得意な方ではないので、即席麺を食べることだって、コンビニ弁当を食べる日だってあった。手作りの料理に渇望する日だってあった。私も男だから、つまりはそういうことなのだ。でも君は違う。即席麺を食べることにあまりいい顔をしない。コンビニ弁当よりも、お弁当屋さんのお弁当を好む人間だった。「だって、『本当は嫌だけど、生きるには仕方のないことだから食べてる』って感じがして、どうしようもなく嫌になってしまうんですもの」と言った。私には理解ができない。ロボットが作った弁当も、人間が作って販売している弁当も、「製造しているものが違う」だけで、それ以上もそれ以下もないと考えるからだ。そう言うと、「私たちって正反対ね」と笑っていた。
君を摂取して不健康になるのならばそれでいい。それでいいから、私はそう思ってなくとも、君が自らを偽物と思っていても構わないから、どうか私の前から消えないでくれないか。コンビニ弁当を食べたその日の夜は、久しぶりに君を想いながら、オナニーに耽った。

・・・

「あなた、なんだってそんなところで寝ているんです?体、痛くなってしまいますよ」

 不意に声をかけられ、トロトロとした眠気が吹っ飛び、しぱしぱと瞬きをしてみると、心中を埋め尽くしていた彼女が眼前にたたずんでいた。ここのところ夜勤続きだったため、自慰をして、ソファーに寝ていた。後始末もしないまま、死んだように。
窓を見てみると既に日は照っていて、カーテンに日光が透けているのを見て、もう昼間なのだということが容易に理解ができた。やっと、君のいない一日が終わったのだと、安堵した。

「昼ごはん?先生にとっては朝ごはんですけど、作るので早く手を洗って、シャワー浴びてきてください。」

 私にとっては本物、彼女にとっては偽物の一日が違和感なく始まっていることに安心すると同時に、また突然先日のように別れを切り出されるのではないかと考えて、それが心臓に鉛でも入っているかのように心持ちを悪くした。シャワーを浴びながら、もしかしてこれは私の作りだした幻覚であり、この扉を開けると君はいなくなっていて、まだ夜なのではないかと勘違いしてしまうほどには、寝ぼけ眼で頭が回っていなかった。もちろん、扉を開けると君がいて、君が作った料理があって、「冷めちゃう前に食べてください」と言うのだが。

「また、なんで君はここに来たんだい?」

濡れた髪もほどほどに乾かし、食事をとる。塩気のある焼き魚に、インスタントでは得られないものを得ているような感覚に捕らわれた。

「私がいなくなって、先生は何をしているんだろうって思って」
悪趣味だね。と言えば、先生に言われたくない。と言われた。だって、先生、手にべったり精液を付けたまま眠っていたじゃない。

アハハと声をあげて君は笑って、私は酷くそれが恥ずかしかった。君を含めた女性と体を重ねたことはあっても、自慰をしているところを見られたことはなかったからだ。

「...君がいなくなってね、とても寂しかったんだよ。」
フーン。興味のない返事をする君が愛おしかった。彼女がこんな風に、他人をぞんざいに扱えるくらい親しい人間を、私が知る中では一人もいないから。それに優越感を感じられるくらいには、先日よりも自らの精神は安定していた。

「私たちはね、外付けの記憶媒体と同じなんです。人の気持ちに疎いから、他人を見て、それを真似して外付けして、健常な人間のフリをして溶け込んでいる。」

だから先生、いらないんです。ただ、共に生活をするだけで良くて
先生の愛の言葉だとかは私には重いんです。先生が嫌いなわけじゃなくて、むしろ逆。でもこれが正常な、一般論で言う愛なんて確証が無いし、それを得ることもできないから…。
先生とこのまま過ごしていくと、自分がどうなってしまうのかわからなくて、怖いんです。だから偽物なんです。きっと、先生は私がいなくとも生きていけるでしょう?

残酷なことを君は言う。実際、健常な生活を送れてはいないじゃないか。どこを見て言っているんだ。君を思いながら自慰をして、興味のない女性を抱いて、次の伴侶を作る努力もしないで、子孫を残すことを放棄している。私はもう、君しか愛せないのに。
いつの日か君が言った「インスタントラーメンと同義の恋」の意味が分かったような気がする。少量なら何の害も無いが、摂取量が多いと途端に体に悪いものになる。インスタントラーメンは、君自身なんだ。

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