素直になれない、電話
何故か人恋しい夜だった。
鳴らない携帯を握りしめ、ふとアドレス帳に目をやると彼女のアドレスが目に飛び込んできた。
携帯とは便利なモノで、ボタン一つ押せば直ぐに彼女へと電話がかかるのだ。
別に電話するつもりはなかったのだが、気がついたらボタンを押していた。
プルルルルー…
今ではこんなコールは鳴らないのだろうか、今時は音楽が流れるとか流れないとか。
プルルルルー…
2コール目。
やはり深夜、彼女は寝ているのだろうか…
プルルルルー…
3コール。
別に短期な訳ではない、夜中だから彼女が寝ているのではないかと少し罪悪感に駆られただけだ。
プルルルルー…
やはり、寝ているのだろう。
諦めて電話を切ろうとしたとき
「もしもし…?」
少し眠そうな彼女の声が聞こえた。
眠りを妨げたと言う罪悪感と、彼女が出てくれたと言う喜びが入り交じって言葉が出なかった。
「どうしたの?」
彼女が問いかける。
電話越しでもわかるような優しい声に安心感を覚える。
「寂しかったから」
「そっか」
寂しかったから、これは確かに本音だ。
「そっか」と、素っ気ない彼女の言葉からは嬉しそうな声がたまらなく愛しく感じて
「別に他の奴に電話してもよかったんだがな」
っと、反射的に照れ隠しに彼女を傷つける言葉を吐いてしまう。
つい素直じゃなくなる自分が少し嫌いになった。
「そっか」
先程と同じ素っ気ない「そっか」は、冷たく悲しそうな声。
そんな声は聞きたくなかったはずなのに…
彼女に謝ろうと口を開こうとした、その時には電話はきれていた。
ツーツー
虚しく響く音に余計に寂しさを感じた。
本当は誰でもいい訳じゃない、彼女でなきゃ意味がなかったのに
素直になれない自分が憎くなった。
----------------
2010/3/1
Back
| |
|