決闘クラブ(1)



 玄関ホールの掲示板に、とある羊皮紙が貼り出された。

 何かと見てみれば「決闘クラブ」を始めるという旨が記されている。それを読んだ者は、ほとんどみな興奮した。


 リンは、正直あまり乗り気ではなかった。しかし、ハンナに引きずられて、第一回目のクラブに参加していた。嫌々ながら。



「……うざい」



 スネイプに吹っ飛ばされたにも関わらず、「見え透いていた」「止めようと思えば止められた」などとほざくロックハートを遠目に見て、リンが殺気立った。こんなくだらないことに時間を割きたくない。スイが宥めるように頬を撫でてきた。



「 ――― さて、ミス・アボット、君はミス・フォーセットと組みたまえ」



 いつの間にか近くに来ていたスネイプが、指示を出した。どうやら二人一組にしているらしく、リンは余り者になってしまった。

 どこかの組に入れてもらって、三人で練習しようか。そう思っていると、不意に、スネイプがリンの腕を掴んだ。



「どこへ行く。君は我輩とペアだ」


「え?」



 リンは思わずスネイプを見つめた。スネイプは、すぐに背を向け、リンと距離を取り、向き直った。周りの生徒が驚いたように二人を見てくる。

 こちらの状況など知りもしないロックハートが、壇上で、無駄に声高に号令をかける。



「では、いきますよ! 一……二……三!」



 条件反射で、リンが魔法をかける。スネイプの杖が宙を舞い、リンの手の中へと落ちてきた。

 リンが呆然と目を見開いていると、スネイプが、無表情のまま無言で歩いてきた。リンの手から杖を抜き取り、ハリーとマルフォイの方へ踵〔きびす〕を返す。


 固まったままのリンを心配して、スイが彼女の頬を軽く叩く。それでようやく、リンは意識を取り戻した。

 ふと、呻き声が聞こえてきたので辺りを見回すと、ハーマイオニー・グレンジャーが、ミリセント・ブルストロードにヘッドロックをかけられていた。二人の杖は、床に転がっている。



「……みっともないから、やめたら?」



 呆れ顔で、リンは、ブルストロードの側頭部に肘鉄を食らわせた。その衝撃で、ブルストロードはハーマイオニーを放した。ハーマイオニーは急いで離れ、床に座り込んで、恐る恐る、リンたちの方を見た。

 スイは、リンの肩から降りて、ハーマイオニーのすぐ側に座る。ブルストロードは、リンを睨んだ。



「邪魔すんじゃないわよ!」


「……怒るなよ」



 呟いて、リンは、突き出された拳を片腕で軽くいなす。空いている方の拳を突き出し、ブルストロードの目の前で寸止めにした。彼女が息を呑むのを聞いて、リンは腕を引く。

 これくらいにしておこう ――― そう情けをかけたのが、甘さだった。相手は、リンの腕を強引に掴んで引き寄せ、ハーマイオニーにしたように、ヘッドロックをかまそうとした。

 ハーマイオニーが息を呑み、スイが溜め息をついた。リンの眉が吊り上がる。



「 ――― 調子に、乗るな!」



 ブルストロードの鳩尾に、リンの肘鉄が入る。「がっ」と呻く相手の腕を掴んで、リンは ――― 肩越しに、思い切り床へと投げつけた。



→ (2)


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