きっかけは些細なこと(4)



「すごく優秀で、何をやらせても一番だとか、謙遜するくせがあるとか、杖なしで魔法を上手に使えるとか、優等生だけど気取ってなくて、気のいい人だとか」



 コリンは、喋っている内にだんだん興奮していっているようだった。最初の緊張はどこへやら、今は頬を染めてリンに詰め寄ってくる。リンは一歩引いた。が、その分、彼も前に出る。



「僕、あなたのこと、尊敬します」


「ああ……うん、ありがとう……ちょっと、近いかな」


「僕、パパと弟にあなたのこと教えてあげたいから ――― だから、あなたの写真を撮ってもいいですか?」



 コリンは、首からかけていたカメラを持ち上げた。離れてほしいと、コリンの肩をそっと掴んでいたリンは、動きを止め、じっとカメラを見つめた。



「………写真を撮られるのはちょっと……」


「あ! もし、あなたの友達に撮ってもらえるなら、僕、あなたと並んで立って、それを撮ってもらいたいです。それもいいですか? できれば僕、二枚欲しいです」



 ………あれ、何だろう、話が通じない。リンは困惑した。こういうタイプの人間は初めてだ。ジャスティンと似たような人間だと思っていたが、彼より会話が噛み合わない。これは困った。

 助けを求めようと、ハンナやアーニーたちの方を見るが、彼らは、ベティとジャスティンのケンカを止めるのに忙しそうだった。


 リンは、仕方なく、コリンへと視線を戻した。相変わらずキラキラした目でリンを見つめている。これは、下手に断った方が面倒なことになるだろう。

 やれやれと諦めて溜め息をついて、リンは彼から少し距離を取り、彼が足を踏み出してくる前に、手で制す。



「………写真はまた今度にしてくれる? 私、いまは昼食を取りたいから」


「はい! じゃあ、また今度会いに行きます」



 来なくていい。いっそ忘れてくれ。



 そんなリンの心情には露も気づかず、コリンは、嬉しそうに笑って、グリフィンドールのテーブルへと駆けていった。かと思ったら、途中でサッと振り返り、リンに向かって千切れんばかりに手を振ってくる。

 それに軽く手を上げて応え(顔がやや引き攣っているのは仕方ない)、リンは椅子に腰を下ろした。そして溜め息をつく。


 疲れた……いったい何だったのだろう? 何をどう思ってリンを崇めるようになったのか。リンには理解できない。

 項垂〔うなだ〕れるリンの頬に、スイが手を置いて慰めた。


 とにかく食べよう。そう思って紅茶(いつの間にか、リンの席に用意されていた。もう何もツッコミを入れまいと、リンは心に決めた)を口に含み、パンに手を伸ばす。

 ようやく食事にありついたリンの耳に、グリフィンドールのテーブルから、小さな声が聞こえてきた。



「クリービーの奴、ハリーの次はリンを追っかけ出したのか?」


「そうだといいな」


「甘いわね。私の考えだと、たぶん彼、どっちも追いかけることにしたのよ」



 ハーマイオニー・グレンジャーが発言した一拍あと、リンとハリーの二人分の溜め息が、大広間の喧騒の中に呑み込まれた。



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