予期せぬ課題 .2



「……ごめん。もう、ほかの人の誘いを受けちゃって……」

 本当に申し訳なさそうに眉を下げて謝るリンに、ハリーは「そっか」と言った。心のどこかで、もう一人の自分らしきものが「ほら、やっぱり」と呟く。予想できてたじゃないか?

「誰と行くの?」

 ぽろりと質問が口から漏れた。リンが瞬く。それを見てハリーは我に返った。いますごく余計なことを聞いた気がする。というか、絶対聞いた。撥ねつけられるかと冷や冷やするハリーの前で、リンが口を開いた。

「……セドリック」

「え?」

「セドリック・ディゴリーと、一緒に行く」

 声と視線を少しだけ落として、リンが静かに言った。長い睫毛の影にある目を見て、ハリーは、自分の胸の中に“何か”がストンと落ちてきたように感じた。

「そっか。よかったね」

 またもや言葉が勝手に出た。しかも、どうやら笑顔まで浮かんでいるらしい。ハリーは内心で驚いた。リンもパチクリ瞬きをしている。断った相手から笑顔で祝福されて、意外に思っているのだろう……。

「……べつに、ペアがいなくても、スイと二人で参加する気だったけど……」

「…………」

 訂正だ。リンは何も分かってない。首を傾げて見当外れのことを言ったリンに、ハリーは溜め息をついた。鈍感にも程がある……あの人が母親では、仕方ないのかもしれないが。

 昨年のことを思い出して、ハリーは寒気を感じた。ふるりと頭〔かぶり〕を振ってリンを見る。そしてもう一度、今度は意識的に笑った。

「じゃ、そろそろ大広間に行こうか? 僕、お腹すいちゃって」

「あ、ハリー、その……ほんとに、」

「いいんだ」

 謝ろうとするリンを遮って、ハリーはきっぱり言った。まっすぐリンを見つめると、リンは瞬きをして、それから頬を緩ませた。

「お詫びに、誰か紹介しようか?」

「いつも一緒にいる三人の誰かから?」

「ううん。あの三人には相手がいる。ハンナはアーニーと、スーザンはジャスティンと、ベティはディーンと行く予定」

「ディーン? 予想外だよ」

 笑いながら、ハリーはリンと並んで歩く。いつも通りのテンションだった。

 あれだけ悩んで迷って、覚悟を決めてがんばって、でも失敗した。それなのに、ちっともショックを受けていない。セドリックと行くと言われても、まったく平気だった。むしろ、彼とリンが踊っているシーンを想像して、お似合いだと納得できた。

 リンと行きたいと思っていたはずなのに、セドリックに先を越されたのに、リンに断られたのに、どうして、こうも落ち着いていられるんだろう?

 よく分からない。ひょっとしたら、これは、あの金の卵に秘められた謎よりも、深い謎なのかもしれない……。そんなことを思いながら、ハリーは大広間へと足を踏み入れた。



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