入学式と、軽い発表 .3



 コツッ、コツッ、鈍い足音がする。男の足を見て、義足かと納得した。ふと視線を感じて目を上げると、明るいブルーの目と目が合った。これがよく分からない目で、普通の目とは違う動きをしていた。

 リンと目が合ったかと思うと、すぐ動き出し、上下、左右、前後、まるで全方位を監視する自動カメラのように絶え間なく動いている。もう片方の目は小さくて黒く、普通の動きをしていた。

 義足に加えて義眼なのか。ぼんやり思いながら、リンは、肩の上で硬直しているスイを撫でてやった。

 隙間なく傷に覆われた顔の皮膚とか、ななめに切り裂かれた傷口のような口とか、大きく削がれた鼻とか、そういった点には特に感想を抱かなかった。

「ここで、『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生をご紹介しようかの」

 男がテーブルに着き、警戒しながらソーセージを食べ始めたところで、ダンブルドアが明るく言った。

「ムーディ先生じゃ」

 ダンブルドアとハグリッド、それからヨシノの四人以外、誰も拍手をしなかった。職員すら沈黙していた。これは意外だとリンは思った。

 六人分の拍手が静寂の中で寂しく鳴り響いた。それが止んだあと、ダンブルドアが咳払いをした。

「先ほど言いかけたのじゃが」

 身じろぎもせずマッド‐アイ・ムーディを見つめ続ける生徒たちに向かって、ダンブルドアはにこやかに語りかけた。

「これから数か月にわたり、我が校は、まことに心おどるイベントを主催するという光栄にあずかる ――― 今年、ホグワーツで、トライウィザード・トーナメントを行う」

「ご冗談でしょう!」

 フレッド・ウィーズリーが絶妙のかけ声をあげた。大広間に張りつめていた緊張が解ける。スイも疲れたように、リンの膝へと滑り落ちてきた。

 相棒を労わり撫でながら、リンはダンブルドアの説明を聞いた。

 七百年前に創始された、三大魔法学校対抗試合。三つの学校とは、ボーバトン、ダームストラング、ホグワーツのこと。それぞれの学校から一人ずつ代表者が選ばれ、三人が三つの競技を争う。

 おびただしい死者が出たために競技そのものが中止されて幾世紀。幾度もの試みが失敗したが、ようやく今年、それが再開されることとなったらしい。

「今回は選手の一人たりとも死の危険にさらされぬよう、我々はこのひと夏かけて一意専心取り組んだ」

 ダンブルドアは今回の試合について詳しく説明し始めた。

 ボーバトンとダームストラングの校長が、代表選手の最終候補生を連れて、十月にホグワーツに来校する。そして、ハロウィーンの日に、学校代表選手三人の選考が行われる。

 優勝杯、学校の栄誉、賞金一千ガリオン ――― それらに対する期待が、あちこちで膨れ上がる。しかしダンブルドアは年齢制限があるとつけ加えた。

 選考のとき、つまりハロウィーンの時点で十七歳に満たない者は、エントリーが不可となるらしい。これを受けて生徒の間からブーイングが出たが、ダンブルドアは一蹴した。

「試合の種目は困難と危険に満ちておる。六年生、七年生より年少の者が課題をこなせるとは考えにくいのじゃ」

 年少の者が選考の審査員を出し抜かないよう目を光らせると、ダンブルドアは宣言した。それから、ボーバトンとダームストラングの生徒がほとんどずっと滞在することを告げ、礼儀と厚情を尽くすようにと締めくくった。

「さてと、夜も更けた。明日からの授業に備えて、ゆっくりおやすみ。はっきりした頭で臨むことが大切じゃからの。ほれ、就寝!」

 ダンブルドアの言葉を合図に、生徒たちが立ち上がった。群れをなして扉へと向かう人の波を眺めながら、リンはケイとヒロトの姿を探した ――― いた。グリフィンドールの監督生を、なにやら質問責めにしている。リンは相手に同情した。




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