礼儀は大切、物は言いよう .3



「……ロン! あのテントがそんなに嫌なら、外で寝たらどうなの?」

「僕に八つ当たりするなよ!」

 ロンは抗議しようと口を開きかけたが、ハーマイオニーの一睨みで黙った。弱すぎる……スイはやれやれと溜め息をついた。ロンの将来は絶対、父親と同じように、女の尻に敷かれることになるだろう。

「ハーマイオニー、そろそろ水汲みに行こうよ」

 流れる空気をどうにかしようと、ハリーが言った。ハーマイオニーは一瞬きょとんとしたあと、パッと手で口元を覆う。その拍子に彼女の手から離れたヤカンを、地面に落っこちる前に、リンが救助した。

「まあっ、私としたことが、すっかり忘れてたわ!」

「いや、待ってハーマイオニー」

 早く行かなくちゃと意気込むハーマイオニーを、ふとリンが制した。

「君はここに残ってくれる?」

「どうして私が留守番をしなくちゃいけないの?」

 ハーマイオニーは憤然とリンに突っかかった。今度はなんだとげんなりする男子二人には目もくれず、リンは「落ち着いて」とハーマイオニーを宥める。

「これから火を熾〔おこ〕すんでしょう? ウィーズリー家の人たちは、その方法を知らないよ」

 そういえばそうである。スイはパチクリ瞬いたあと頷いた。ハリーたちも納得している。ハーマイオニーも思わず怒りを鎮めた。それを好機に、リンは淡々と畳みかける。

「水を汲んで帰ってきたら、まだ火が熾せてません、なんて状況はできれば遠慮したい。誰か一人、適切に指示する人がいなくちゃ。君だったらできるでしょう?」

「ええ。もちろん、できるわ」

「ならよかった。これで安心して水汲みに行けるよ」

 任せたとニッコリ笑って、リンは男子二人に声をかけて歩き出す。さりげなく、取っ手が外れかけの鍋は置いていく。

 遠くなっていくリンの背中を眺めながら、スイは思った。――― 面倒事を、見事に押し付けていったな、と。

 マグルの物に対してのウィーズリー氏の情熱と興奮は凄まじいものである。それを上手くいなしつつ指導をするのは、だいぶ骨が折れる ――― リンはそれを敬遠したのだ。

 まんまと口車に乗せられたハーマイオニーが事の重大さに気づくのは、もう少し先のことである。

 ナチュラルに置いてけぼりを食らったスイは、意外と根に持つ子だと、妹分に思いを馳せて溜め息をつく。だらんと垂れた尻尾が、ハーマイオニーの動きに合わせて不規則に揺れた。



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