リドルの館 .3 フランクの額には汗が吹き出し、杖を握った手が震えていた。部屋の中では、冷たい声がシューシュー言い続けている……フランクは、ふと、あり得ない考えに囚われた……この男は、ヘビと話ができるのではないか? 何事が起こっているのか、フランクには分からなかった。ただ、湯たんぽを抱えてベッドに戻りたいと、ひたすらそれだけを願った。しかし、自分の足が、床に根を張ったように動こうとしないのが問題だった。 震えながら、その場に突っ立ち、なんとか自分を取り戻そうとしていたとき、冷たい声が急に普通の言葉に変わった。 「メイガ、ナギニがおもしろい報せを持ってきたぞ」 「それは、それは……我が主、なんでございましょう?」 「ナギニが言うには、この部屋のすぐ外に、老いぼれマグルが一人立っていて、我々の話を全部聞いているそうだ」 「そのようなこと ――― 」 メイガが笑った。それから身を隠す間もなかった。音もなく部屋のドアがパッと開き、フランクの目の前に、一人の男が冷たい微笑みを浮かべて立っていた。 「 ――― とうの昔から、気がついております」 冷ややかな、まったく温度の感じられない目を前に、フランクはヒュッと息を呑んだ。自分よりずっと年下に見える男に、得体の知れない恐怖を覚えたのだ。 「我が主、不躾な客人ですが、一応は客人。中に入れましょうか?」 「おう、そうだな、メイガ、お招きするがよい」 メイガが、部屋に入れとフランクに合図した。ショックを受けてはいたが、フランクは杖をしっかりと握り締め直し、足を引きずって敷居を跨いだ。 「盗み聞きを許すとは、メイガよ、悪趣味だな?」 「老いたマグル如き、すぐに始末できるかと思いまして。取るに足らないものに注意を払う必要が、我が主、果たしてありますか?」 「脅威がない小物でも、うるさい蝿は、できるだけ早く抹消したいものなのだ」 「左様でございますか。では、次からはそのように」 部屋の異様な雰囲気には似合わない、気軽な会話がやり取りされる。冷たい声は、暖炉の前の古めかしい肘掛け椅子から聞こえていた。しかし、声の主は見えなかった。男の後頭部さえ、椅子の背から現れていない。 椅子のすぐ傍の暖炉マットの上では、とぐろを巻いてうずくまっているヘビが、鎌首をもたげて、チロチロと舌を出していた。 「マグルよ。すべて聞いたのだな?」 「俺のことを、なんと言った?」 「口を慎め、マグル風情が ――― どなたに向かって口を利いているつもりだ?」 食って掛かったフランクの首に、何か、棒のようなものが突きつけられた。従者の男が、無表情でフランクを見つめていた。その目には、なんの感情も浮かんでいない。 「よい、メイガ、俺様が指示を出すまで、手を出すな……せっかくの客人だ。楽しませろ」 「…………」 メイガが武器を下ろした。本当に木の棒だった。フランクに向けて舌打ちをし、数歩、主人の方に下がり、フランクに触れた棒先を服の裾で拭い出す。フランクの頭に、カッと血が上った。 → (4) |