報復なんて、なんの意味もない .3



「なんでそういう態度とるのよ」


「え?」


「罪悪感でも刺激しようってわけ? 言っておくけど、あたし謝らないからね!」


 立ち止まって振り返るリン・ヨシノを、ミリセントは睨みつけた。背中にピリピリした空気を感じるが、ここで怯んではいられない。精いっぱいに威嚇するミリセントを見つめ返して、リン・ヨシノは首を傾げた。


「よく分からないけど……とりあえず、元気そうでなによりだよ」


「……はあっ?」


 医務室に行く必要はなさそうだ、なんて呟くリン・ヨシノに、ミリセントは不可解な目を向ける。意味が分からない。こいつ本当にバカなのか? 状況を全然理解していない。


「なにその態度、計算? なにも気にしてません許しますよっていう聖人アピール?」


「許す?」


 毒づくミリセントの言葉を聞いて、リン・ヨシノは瞬く。そして、少し考え込んだあと、また首を傾げた。


「……君から何か危害を加えられた覚えは、とくにないけど」


「そりゃあ、ないでしょうよ。あんた全部あたしに返してきたし」


「うん? なんの話?」


「あたしがあんたに仕掛けた闇討ちのことよ! いろいろしたでしょ! 足を引っかけようとしたり、ものを投げたり、呪いを飛ばしたり!」


 イライラとミリセントが怒鳴ると、リン・ヨシノは目を瞬かせ、少し考えたあと「……ああ」と思い当たった素振りを見せた。


「あれ、君がやってたのか」


 いま知ったという風情で、リン・ヨシノはしげしげとミリセントを見つめた。本日二度目の愕然を、ミリセントは味わった。なんということだ。自分はまったく認識されていなかった……パンジーの考察は正しかったのだ。


 あんぐり口を開けるミリセントの前で、リン・ヨシノは口元に手を当てて「んー……」と考え込む。そして数秒後、眉を下げて笑った。


「……とりあえず、ごめんね。女の子だって知ってたら、もっと手加減したんだけど」


 内臓とか「できものの呪い」とか返しちゃった。申し訳なさそうな表情をするリン・ヨシノに、ミリセントは何も言えなくなってしまった。


 パンジーの言う通りだ。こいつに報復を企んでも意味がない。ことごとく返され、認識すらされず、ただただ虚しさと疲れが胸に沈み込んでくるだけ。おまけに、番犬に吠えられ噛みつかれる。


 背後からの殺気を肌で感じながら、ミリセントは手を引こうと思った。こういったタイプの人間たちには、あまり関わらない方が身のためなのだ。



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 だいぶ前に、 沙羅 様から、ミリセント視点で「決闘クラブ」後の話が読んでみたいと、アイデアの提供をいただいたので、書いてみました。時間がかかって 沙羅 様には申し訳ないと思っていますが。

 こんな感じでいいのでしょうか。リクエストではなく、あくまでアイデアの提供という風に受け取りましたので、書き直しなどの要望はお受けできません。ごめんなさい。

 ミリセントは、けっこう子どもっぽい性格をしていると思います。気がつよく、感情の起伏が激しい感じ。いろいろと根に持つタイプ。

 ついでに、パンジーも気がつよく、自分が大事。加えて、からかったりはやしたり、野次馬精神がつよい。けど、その裏に聡い面を持つ子だと、勝手に考察しています。

 リンは「悪いものは受け取らず、そのまま投げ返す」というタイプの人間なので、攻撃した側が被害を受けるだけです。だから、どんどん戦意が削がれていくと思う。
 



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