小さな変化 (2)



「……ごめん、それで、用件は?」


 一仕事終えたリンが振り返って尋ねると、アンソニーたちは、リンの暴挙(?)に唖然としていたようだったが、すぐにハッと意識を取り戻した。


「えーっと、リン、僕たち、君に言いたいことがあって……」


 アンソニーが、そろりとマイケルを見る。マイケルは、いつも通りの険しい顔でリンを見ていた。見かねた様子のテリーが、彼の腕を肘で小突くと、マイケルは重い口を開いた。


「………完敗だよ」


「……?」


「クィディッチの選手を務めて、十二科目も抱え込んで、それでも学年トップの座を譲らない ――― 君には勝てないって気づいたんだ」


 パチクリと瞬くリンに、マイケルはぶっきらぼうに言った。おや、とスイが眉を上げる。ギュッと唇を引き結ぶマイケルに苦笑して、アンソニーが助け舟を出した。


「マイケルと僕は、一年生のときから、ずっと君のことをライバル視してたんだ」


 なるほど。そのたった一言で、スイは納得した。


 話をまとめるとこうだ。


 マイケルもアンソニーも、代々レイブンクローの家系で、ホグワーツで一番の成績を取るために頑張ってきた。それなのに、学年の中で最も加点の多い生徒は、グリフィンドール生のハーマイオニー・グレンジャーと、ハッフルパフ生のリン・ヨシノ。彼らは大いに悔しがり、闘志を燃やした。


 彼らが特にライバル視したのが、リンだった。なぜなら、リンは猛勉強をするようなタイプではなかったから。やることといったら宿題と読書くらいで、レイブンクロー生が当たり前としている予習復習をする素振りを見せない。ハーマイオニーの方は、予習復習を欠かさない、誰が見ても分かる「がり勉」の秀才だが、リンは天才だった。



「……いや、私だって勉強してるんだけど」


「でも、僕らより量が少ないだろう? 授業以外で、一日何時間くらい勉強してる?」


「二、三時間くらい?」


「僕らは五、六……下手すれば、十時間くらいやってるよ」


 ちょっと驚いた顔をするリンを見て、アンソニーは笑った。その横でテリーが「俺はそこまでやってないって」と呟く。さすがレイブンクロー生……と思うリンとスイに向かって、マイケルはフンと鼻を鳴らして、話を続けた。


 成績にあまり頓着しないくせに、リンの成績は学年一だった。スリザリン生以外で初めて(そして唯一)スネイプから点をもらいもした。二人は、いつか絶対に、どこかの分野でリンを超えてやると意気込んだ(総合で勝ち目がないのは分かり切っていた)。しかし、リンはどの科目でも他人の数段上の位置にいた。すべての科目で堂々トップを勝ち取っていた。


 そこで、アンソニーは諦めた。相手はヨシノ ――― 天才一族の奴だから勝てっこない、同じ土俵に立てると思ってるのが間違いなんだ、というテリーの言葉を受け入れたのだ。


「思えば、テリーって最初からリンに敵対心なかったな」


 驚嘆するアンソニーに、テリーは、後頭部に両手を回して組んだ。


「俺はさっさと見切りをつけたんだよ。ジンといい、リンといい、ヨシノのやつらは俺とは違う次元にいるんだってさ。そっちのが楽だろ?」


「なるほど」


「私としては複雑なんだけど」


 無言で納得しているアンソニーに対して、リンはちょっと眉を寄せた。仕方ないさ、という意味を込めて、スイは彼女の背をポンポン尻尾で叩いてやった。


「……だけど、僕と違って、マイケルは諦めなかったんだ」


「努力は報われると信じてたんだよ」


「自分と友達になるのを拒否されて癪だったんだろ?」


 テリーが列車の壁にもたれかかりながら言うと、マイケルは「うるさい!」と怒鳴った。テリーはおもしろそうに口角を吊り上げる。


→ (3)


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