ヴォルデモート卿の召使い (6)



 誰一人動かなかった。物音一つ立てなかった。ただ、胸を押さえたペティグリューの息がゼイゼイと聞こえるだけだった。


 ブラックとルーピンは顔を見合わせ、それから二人同時に杖を下ろした。ルーピンの方は、杖を持っている手でリンの手に軽く触れ、空いている手で彼女の頭をそっと撫でる。


「賢明な判断だった ――― 君は、とてもいい子だ、リン」


「っ、」


 ピクッと肩を跳ねさせて、リンは慌ててルーピンから距離を取り、撫でられたところを押さえる。慣れていないことにドギマギしているリンの頬が若干赤いのを見止めて、スイは尻尾を揺らした。


 不謹慎なのは重々承知しているが、言いたい。リンは、こういうところが、本当に可愛い(身内の欲目? そうですけど何か)。


 ついでに、ハリーとブラックがなんとも言えない表情で、リンと、ニッコリ笑っている保護者然としたルーピンを見つめているのに気づいても、スイはなんとも思わない。気にも留めない。悔しかったら自分もやれ。特にシリウス。


 いろいろとベクトルがズレているのに気づいていない(はたまた、黙殺しているのか)ルーピンは、さっとペティグリューに歩み寄り、彼を縛り上げた。


「しかし、ピーター、もし変身したら」


 杖先をペティグリューの心臓に向けて、ルーピンは低く冷たい声で言った。


「やはり殺す。いいね、リン、ハリー」


 リンとハリーは、床に転がった哀れな男を見下ろし、ペティグリューにも見えるように、ハッキリと頷いた。ブラックが、まるでいますぐ殺す大義名分をくれたらいいのにと言わんばかりに、ペティグリューのすぐ傍に立って、彼を見下ろした。


「よし」


 ルーピンが急にテキパキと捌〔さば〕き始めた。


「ロン、私はマダム・ポンフリーほど上手く骨折を治すことができないから、医務室に行くまでの間、包帯で固定しておくのが一番いいだろう」


 ロンの方へと向かうルーピンを見て、そういえば脚を骨折していたなと、リンは思い出した。いろいろ起こりすぎて、すっかり忘れてしまっていた。いまからでも超能力で治療してやるべきかと一瞬考えたリンだったが、ルーピンが対処したならいいかと大雑把な結論をつけて、思考を打ち切った。


 タイミング良くスイが肩に戻ってきたので、彼女を撫でる。そして、床に振り落とされたせいでスイが埃まみれになっているのに気づき、リンは軽く埃を払ってやった。


「万一に備えて、誰か二人、こいつと繋がっておかないと」


 リンは首を回して発言者を見た。ブラックが、足の爪先でペティグリューを小突いている。


「私が繋がろう」


「僕も」


 ルーピンとロンが名乗り出る。ブラックは空中から重い手錠を取り出した。ペティグリューは再び二本足で立ち、その両腕は、それぞれルーピンとロンと繋がった。


 ロンは口を真一文字に結んでいた。スキャバーズの正体を、自分への屈辱を受け取ったようだった。若いねぇ、と心中で呟き、スイは笑った。


 全員の準備ができると、クルックシャンクスが軽やかにベッドから飛び降り、先頭に立って部屋を出た。瓶洗いブラシのような尻尾を、誇らしげにキリッと上げながら。



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