侵入者、再び (4)



「あの、コリン、私、これからネビルと遊ぶ約束をしてるんだ。だから、」


「リン、僕、いいよ」



 ちょうどいいから口実にして断ろうとしていたリンを遮って、ネビルが言った。



「みんなで勉強会やろうよ。実は僕も、宿題で分かんないところがあったから ――― ルーピンのレポートなんだけど、誰かに聞きたいと思ってたんだ」


「え……そう? でも……、うん、そうしようか」



 すっかりその気になったネビルと、目を輝かせているコリン、それからコリンの友人たちからの控えめな期待の眼差しに押し負け、リンは提案を受け入れた。


 いつも空いている「魔法史」の教室でやることにして、リンは、ひとまず勉強道具を取りにいこうと言い、コリンたちにネビルを寮に一緒に入れるよう頼んで、一旦そこでネビルと別れて寮に戻った。


(……面倒なことになったな……)


 ネビルは好きだからいいが、コリンの方は、正直苦手なのだ。話が通じないし、親鳥に付き従う雛鳥の如くリンにベッタリしてくるし、挙句カメラを構え出す。今回は勉強会だから、さすがに自重すると信じたいが。

 リンは溜め息をついて、鞄に必要なものを詰め込んで、ハッフルパフ寮をあとにした。





 待ち合わせ場所へ向かう途中、リンは、ふと奇妙な足音が近づいてくるのに気がついた。

 ペタペタと、まるで裸足で廊下を歩いているかのような音だ。いや、そんなまさか ――― 真冬にそんなことをする人などいるわけがない。

 そう思ったリンが、廊下と廊下が交差する十字路に差し掛かったとき、不意に音が途絶えた。


 今度は、音の代わりに視線を感じる。不思議に思ったリンは立ち止まって、視線を滑らせた。大きな銀色の目と目が合い、思わず息を詰めて一歩下がった。

 不思議な女の子が、廊下に突っ立って、瞬きもせずリンをじっと見つめている。


(……なんか、変わった子だな……)


 あのナツメと十数年共に過ごしてきたリンですら、そう思わずにはいられなかった。

 なにしろ、その女の子は、蔦で編んだ花(草)冠と首飾り、腕輪と足輪を装飾品として身につけており、靴も靴下も履いておらず、まったくの裸足で(これにより、先程の奇妙な足音の主は彼女だと判明した)、挙句に杖を左耳に挟んでいた。さすがのナツメも、ここまで変なことはしない。



「…………」


「……………」



 とりあえず、この空気はどうしたらいいのだろうか。できるだけ自然に少女から視線を逸らして窓の外の空を見上げ、リンは思案した。


 いままさに穴の開くほど見つめられているのだが、その理由が分からない。リンは彼女と、これといった接点はないはずだ。あったら絶対に忘れない。


 リンが悶々と思考を巡らしていると、不意にクスッと笑う声がした。視線を少女に戻すと、彼女はまだリンを見つめたままだった。



「……えーと」



 どう反応しようかと悩むリンに、少女は突然手を振ってきた。予期せぬ事態にリンが呆然と硬直しているうちに、少女は動き出した。


 ペタペタ足音を出してスキップをしながら、リンの周りをグルリと一周し、最後にリンに微笑みかけて、少女はその場を去った。



「…………え?」



 結局なんだったんだ? 取り残されたリンは、頭の中を疑問符でいっぱいにして、正体不明の少女が歩いていった方を見つめた。


 それから、ふと「魔法史」の教室に行こうとしていたことを思い出し、ようやく身体の硬直を解いて再び歩き出す。


 不思議な少女のことは考えないことにしようと思った。





****
 あの子のファッションをどうするか、すごく悩んだ。蔦の冠でよかったのかな…



[*back] | [go#]