ネズミ、失踪 (2)



「君まであの狂った猫を弁護するっていうのか?」


「疑わしきは罰せず。確実な証拠がないもの」


「言っただろ! 血のついたシーツと、あの猫の毛があったって! どう考えたって、あいつがスキャバーズを食ったんだ!」


「食ったとは言い切れない。食いそびれたかもしれない」



 激昂するロンに、リンが言った。スイがロンを睨んでヒュンヒュンと尻尾を振り、少し毛を逆立て始める。



「……君は、どうしてもクルックシャンクスを加害者にしたがるね」



 リンの口から、意図せず冷えた声が出る。ハリーは「やばい」と思ったらしく、そろそろとロンを小突く。鋭い視線をロンに向けるリンに気づいたスイが、尻尾を振るのをやめた。



「クルックシャンクスを悪者扱いして、ハーマイオニーを責めるわけだ。 ――― それで彼女がどれだけ追い詰められるか、考えもしないで」



 いい気なものだね。そう呟いたリンの目には、何の感情も表れておらず、それが恐ろしいと、ハリーとロンに思わせた。



「そんなに大事なら、自分で守りきれよ。四六時中連れ歩けばいいだろ。保護魔法でもかけろよ。それができないなら、頑丈な箱にでも籠にでも入れとけば安心だったんじゃない? クルックシャンクスの手が届かないようなところに、出てくると危険だからって言い含めて、完全に閉じ込めとけば ――― なに、その顔は?」



 青くなったロンを見て、リンが突っぱねるように笑った。



「そんなことできないって? 君がハーマイオニーに強要したことじゃないか」


「僕、」


「それに、聞いた話だと君、クルックシャンクスに罵詈雑言を浴びせたり、あの子を蹴飛ばそうとしたりしたらしいじゃないか。自分のペットを守るためにそんなことをするなんて、飼い主としてよくできた行為だ……感動させてくれるね」



 ロンがモゴモゴと口を動かしたが、音にはならなかった。リンは、ちらりとハーマイオニーに視線を移し、それからまたロンを見た。



「被害者面で悲観して激昂するのは勝手だけど、それでむやみやたらとハーマイオニーを傷つけるなら、私 ――― 」



 ハリーとロンの顔が青ざめた。きっと「骨真っ二つ! 忠告っていうか脅迫だよね事件」とスイが名付けた出来事を思い出したのだろうと、スイは推測した。

 いたいけな十三歳たちに恐怖を植え付けるなんて、我が家の子は怖いねぇ……と呑気に思うスイである。

 ヒョイと尻尾を揺らしたスイがハーマイオニーの肩へと移り、リンに視線を向けると、彼女は微笑んでいた。



「 ――― 君になにをしてしまうか、自分でも分からない」



 だから気をつけてね? リンは微笑んだまま小首を傾げて言った。


 客観的に見たら、完全に人畜無害な、ジャスティンやコリンなら「まるで聖母のようだ」と形容しそうな微笑みだった。いままでの話の流れとセリフの内容を正確に理解していなければ、男子が何人も惚れただろう。そうスイが思うくらい、綺麗に微笑んでいた。


 しかし、その微笑みを向けられた当の男子は、当然だが魅力を感じなかったらしい。頬を染めるどころか色を失っている。トラウマになるかもなぁ可哀想に。スイは一瞬だけ同情してやった。



「………言いたいことはそれだけ。行こう、ハーマイオニー」



 淡々と言ったリンは、呆然としていたハーマイオニーの手を取り、中庭の一角 ――― ハンナやジャスティンが心配そうにこちらを窺っているところへと歩き出す。どうやら、距離を置かせるべく、ハーマイオニーを連れていくらしい。

 ハリーとロンを一顧だにしないリンを見て、スイはヒョイと尻尾を揺らした。





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だんだんリンのキャラが分からなくなってきた…



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