炎の雷 (1)



 クリスマスの日から、ハーマイオニーが図書館に入り浸るようになった。何度も出くわして、リンは首を傾げた。



「ハーマイオニー、ロンとハリーはどうしたの?」



 何日かして、ついにリンは質問をした。


 バックビークの弁護に必要な資料を集めて紐解いているのは分かるが、なぜ友人二人と一緒じゃないのだろう……そんな些細な疑問から出た言葉だったが、リンの想像以上に、彼女を苦しめたらしい。



「二人は、いま ――― 私と口を利いてくれないの」



 ハーマイオニーは唇をきつく引き結び、大きく息を吸って自分を落ち着かせていた。目は潤んでいて、いまにも涙が零れ落ちそうだった。リンはそれ以上なにも聞かないことにして、そっとハーマイオニーの頭の上に手を置いた。



「あんまり溜め込まないで、つらくなったら言いなよ? 肩持つくらいするから」


「……ありがとう」



 小さな呟きに、リンは目を細めた。だけどいまは一人にしてほしいと、ハーマイオニーの顔が語っている。リンは息をついて「じゃあ」と立ち去った。とりあえずロンとハリーを探そう。





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 どうも談話室に籠っていたらしい二人に会えたのは、その日の夕食時だった。


 リンは、ハーマイオニーから離れた席に着く男子二人に溜め息をつき、スイをハーマイオニーのところに残して、二人の元へ向かった。


 軽く声をかけて、それとなく誘導すると、ロンはピリピリして言った。



「あいつ、信じられないぜ」



 ハーマイオニーへの罵詈雑言を聞き流して、ハリーの補足も加えて話をまとめると、こうだ ――― ハリーへと贈られてきたファイアボルトが、ただ差出人の名前がないだけで何の問題もないのに、ハーマイオニーの余計なお節介のせいで没収され、バラバラに分解されてしまうことになった。



「……うん、君たちの言い分も分かるよ」



 リンは静かに言った。ロンが「だろ?」と明るく言ったが、リンは肩を竦める。



「だけど、ハーマイオニーの気持ちも分かる」



 ハリーとロンの顔が途端に曇ったが、リンは敢えて無視をした。



「いまの君たちは、私がなにを言ってもまともに取り合わないことが分かってるから、特になにも言わないよ」


「それはありがたいね。あいつよりよっぽどスマートだ」



 ひっそりと食事をしているハーマイオニーに聞こえるのではないかという声量で、ロンが言った。リンは剣呑に目を細める。


 彼女の雰囲気が変わったことに気づいたハリーが、ソーセージを食べる手を止めた。ハリーが息を詰める中、リンは冷めた目で、呑気に子羊の骨つき肉を切り分けようとしているロンを見下ろす。もともと、座っているハリーたちと立っているリンの間には、視線の高さに差はあったのだが。


→ (2)


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