クリスマス (3)



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 昼食の時間になった。

 ハリーが、機嫌の悪いロンとハーマイオニーと一緒に大広間に行くと、各寮のテーブルは壁に立てかけられ、広間の中央にテーブルが一つ、食器が十三人分(一番小さい皿は、なぜか十四枚あった)用意されていた。


 ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、スプラウト、フリットウィックの諸先生が並び、管理人のフィルチも、いつもの茶色の上着ではなく、古びた燕尾服を着て座っている。


 生徒はほかに四人しかいない。緊張でガチガチの一年生が二人、不貞腐れた顔をしているスリザリンの五年生が一人と、いつも通りスイを伴ったリンがいた。



「メリー・クリスマス!」



 ハリーたちがテーブルに近づくと、ダンブルドアが挨拶した。彼に促され、三人はテーブルの隅に並んで座った。ハリーの向かいにはリンがいて、ハリーと目が合うと微笑んでくれた。ハリーは気分がよくなって、とびきりの笑顔を返した。



「クラッカーを!」



 ダンブルドアが、はしゃいだ様子で、大きな銀色のクラッカーの紐の端を、スネイプに差し出した。渋々スネイプがそれを受け取って引っ張ると、大砲のような音がして (その際、スイがビクッとした)クラッカーが弾け、ハゲタカの剥製をてっぺんに載せた、大きな魔女の三角帽子が現れた。


 ハリーはまね妖怪のことを思い出して、ロンに目配せをして、二人でニヤリと笑った。


 スネイプは唇をギュッと引き結び、帽子をダンブルドアの方へ押しやる。ダンブルドアは、すぐに自分の三角帽子を脱いでそれを被った。今度はリンとハーマイオニーが目を見合わせ、二人揃ってクスクス笑いをした。



 食事の時間は楽しいものだった。


 主に、スプラウト先生とリンを中心とした会話がおもしろかった。動植物についての話だったが、なかなか興味深い内容だった。リンによると、日本には、イギリスのものとはまた違った不思議な生物がたくさんいるらしい。


 カラスと僧(修道士のようなもの、らしい)がかけ合わさっている“テング”という生き物や、尻尾が二か三に分かれている猫、それから、頭と尾が八つずつある、太古の時代に生きた伝説の蛇など。


 あまりにもワクワクする話だったので、先生方やハーマイオニーを始め、みんなが興味津々で質問し、楽しそうに談笑した。一年生やスリザリンの五年生までもが交じっていた。


 リンがスリザリン生と“ヤマタノオロチ”とやらについて話していて、つまらなく感じたハリーが黙々とロースト・ポテトを取り分けているときだった。大広間の扉が開き、トレローニーが入ってきた。先生は、まるで車輪がついているかのように滑らかにテーブルに近づいてくる。



「シビル! これは、お珍しい!」



 ダンブルドアが立ち上がる。スリザリン生が話すのを止めたため、ハリーは少し気分がよくなった。



「校長先生、あたくし、水晶玉を見ておりまして」



 トレローニー先生が言う。ハーマイオニーが「またか」と言わんばかりの顔をするのが、ハリーの目に映った。



「あたくしも驚きましたわ……一人で昼食を取るという、いつものあたくしを棄て、皆様とご一緒する姿が見えましたの。運命があたくしを促しているのを、拒むことができまして?」



 ハーマイオニーがハッと鼻を鳴らしたが、ダンブルドアは目をキラキラさせた。



「それでは、椅子をご用意せねばならんのう……」



 ダンブルドアは杖を振り、空中に椅子を描き出した。椅子は数秒間クルクルと回転してから、スネイプとマクゴナガル先生の間に落ちた。トレローニー先生は、テーブルをズイーッと見渡し、小さく「あっ」と悲鳴のような声を漏らした。



「皆様、十三人で食事をしていらっしゃったの? なんてこと……お忘れでしたの? 十三人が食事を共にするとき、最初に席を立つ者が最初に死ぬのですよ! あたくしが途中で参加しなければどうなっていたか ――― ああ、運命が必死にあたくしを促した理由はこれでしたのね!」


「……お言葉ですが、十三人ではありませんよ」



 全身で感動に打ちひしがれているトレローニー先生に、フォークを皿に置いたリンが、眉を吊り上げて言った。


→ (4)


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