忍びの地図 (3)



**

 冷たい雨は十二月まで降り続いた。しかし学期が終わる二週間前、急に空が明るくなり、眩しい乳白色になったかと思うと、ある朝、泥んこの校庭がキラキラ光る霜柱に覆われていた。


 城の中はクリスマス・ムードで満ち溢れていた。「呪文学」のフリットウィックは、もう自分の教室にチラチラ瞬くライトを飾り付けていたが、これが実は本物の妖精が羽をパタパタさせている光だった。


 みんなが休暇中の計画を楽しげに語り合っていたが、リンは相変わらずホグワーツに居残るつもりだった。ジャスティンを筆頭に何人かが家に招待してくれたし、果てはジンまでが本家にでも来るよう言ってきたが、すべて拒んだ。ルーピンに薬を作るには、残った方が好都合だったからだ。


 学期の最後の週末には、ホグズミード行きが許され、行けるものはみんな大喜びした。



「誰か、スイを一緒に連れていってあげてくれる?」



 浮足立っている友人たちに、リンは頼んだ。



「スイだったら、許可されてる人と一緒なら大丈夫だと思うから」


「お任せください!」



 やはりジャスティンが最初に名乗りを上げた。興奮で頬を染め声を弾ませ、名誉ある仕事を託されたかのような様子だった。ベティは鼻で笑い、アーニーとスーザンは呆れ、ハンナは先を越されて悔しそうにしていた。


 リンは迷った挙句、全員でスイの面倒を見るようにと頼んだ。


 スイはリンを見たが、リンは何も言わず、ただ微笑んで彼女の頭を静かに撫でた。スイはギュッと唇を引き結び、無言でリンにしがみついた。




**

 ホグズミード行きの土曜の朝、ハンナたちと、厚手の布でこしらえた簡易マント(フード付)を着ているスイに別れを告げ、リンは、ハリーと二人で代理石の階段を上り、グリフィンドール塔に向かった。今日の予定は、ハリーと魔法薬学のレポート作成だ。


 ハッフルパフ生であるリンがグリフィンドール塔に入るのはどうかと思ったが、なんと寮監から許可を得たので問題はなかった。


 つい先日、ハリーが驚異的な行動力を発揮し、リンを引っ張って、大胆にもスプラウトとマクゴナガル(と、二人と一緒にいたフリットウィック)に聞きに行ったのだ。お伺いを立てたところ、三人は顔を見合わせ、悪戯っぽく微笑んで許可してくれた(「クリスマスも近いし、特別に」「内緒ですよ!」)。リンが言葉を失うほどの、謎の気前の良さだった。


 そんなこんなで、リンは後ろめたさを微塵も感じず、グリフィンドール塔に向かっていた。他寮に入るのは初めてなので、リンはワクワクしていた。



「おい! ハリー! リン!」



 四階の廊下の中ほどで、リンたちは誰かに呼ばれ、立ち止まった。声がした方に振り向くと、フレッドとジョージが、背中にコブのある隻眼の魔女の像の後ろから、顔を覗かせていた。なぜそんなところに……という疑問は、この二人に対して抱いても意味はない。



「なにしてるんだい? どうしてホグズミードに行かないの?」



 ハリーが聞くと、二人は意味ありげに笑った。



「行くさ、もちろん」


「だけどその前に、君らにお祭り気分を分けてあげようかと思って」


「とりあえず、こっち来いよ」



 フレッドは、像の左側にある、誰もいない教室の方を顎でしゃくった。ハリーとリンは顔を見合わせたが、すぐ双子のあとについて教室に入った。ジョージがそっとドアを閉め、二人の方を振り向いてニッコリした。


→ (4)


[*back] | [go#]