まね妖怪 (1)



 ハグリッドの「魔法生物飼育学」を終え、リンたちは大広間に向かい、ハンナ、ベティ、スーザンと合流し、一緒に昼食を取ったあと、みんなで「闇の魔術に対する防衛術」のクラスへ急いだ。


 教室に入ると、机と椅子は片づけられ、がらんと空いた空間の中央に、ガタガタ揺れる古い洋箪笥が置かれていた。ルーピンは教卓の前に立っていて、次々と教室に入ってくる生徒たちに笑いかけた。リンやアーニーを始め、何人かがルーピンに会釈を返した。


 クラス全員が揃うと、ルーピンが挨拶をした。



「やあ、みんな」



 数人が「こんにちは」と返した。ルーピンは生徒の方へと歩いてきた。



「さて、今日は実践練習をしようと思う。杖だけ手に持って、ほかの荷物は……そうだな、壁際の方に置いてくれるかい」



 生徒たちは顔を見合わせて、指示に従った。



「実践練習か……グリフィンドールとレイブンクローがやったって言ってたな」



 楽しみだと、アーニーが大げさに辺りを見回しながら言った。



「実践練習か……去年の決闘クラブみたいなものじゃなければいいのですが」


「あ。いま、リンが『やめろこのカール頭。悪夢を思い出させるな』って言った」


「な……っ! ふ、ふざけるな! リンの名を騙〔かた〕って発言するなど、なんと……おこがましい! 外跳ねボサボサ頭のくせに!」


「はぁ?!! アンタいまアタシにケンカ売った?!!」



 口論を始めたジャスティンとベティに、アーニーとスーザンが溜め息をついた、しかし、彼らが仲裁に入る前に、リンの「授業中なんだけど」という冷ややかな一言で、口論は収束した。



「さあ、準備はできたかな?」



 ルーピンが生徒を見渡して言った。



「それじゃあ、始めよう。みんな集まって」



 そろそろと、みんなが洋箪笥の前に集合した。洋箪笥はゴトゴトガタガタと激しく揺れている。ハンナとジャスティンが不安そうに洋箪笥を見た。



「そんなに心配しなくていい。中にまね妖怪 ――― ボガートが入っているだけだ」



 ルーピンがなんでもないように言った。だが、生徒の何人かにとっては、なんでもあるように聞こえたらしい。ハンナ、ベティ、ジャスティンが、それぞれ、リン、スーザン、アーニーの後ろに隠れるように一歩下がった。



「さて、まね妖怪とはなにか、説明できる人はいるかな?」



 先生からの質問を受け、全員がリンを見た。ベティは名前まで呼んだ。



「じゃあ、リン、できるかい?」



 面倒だから黙っていようかと思ったリンだったが、ルーピンに微笑みかけられ、沈黙を貫くことが難しくなった。小さく肩を竦めて、リンは答えた。



「いわゆる形態模写妖怪です。対面する者を怖がらせようとする妖怪で、相手が一番恐れているものを判断し、それに姿を変えます」


「実に見事な説明だ」



 ルーピンが微笑んだ。褒められたリンはあまり表情を変えず軽く頭を下げただけだったが、ハンナとジャスティンが嬉しそうに頬を染めた。



→ (2)


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