お茶の葉 (4)



「ここに大きな模様があるわ……横を向いてる動物かしら?」



 リンが興味を示したと同時に、トレローニーも二人に視線を向けてきた。



「んん……狐かな……違う、アリクイ……? や、むしろ動物じゃなくて……」


「あたくしが見てみましょうね」



 スイーッと滑るようにやってきたトレローニーが、あっという間にベティの手からリンのカップを取り上げた。じっと真剣にカップを見る教授に、クラス全員の視線が集まる。リンのカップだからか、みんな興味津々だ。



「歪んだ十字架……あら、あなたには試練と苦難が待ち受けているようね」


「それ、バツ印だと思ったんですけど」



 そっとベティが小声で言ったが、トレローニーは無視した。



「髑髏……行く手に危険が……あらあら、これはあまり幸せなカップではありませんわね……」


「豆電球……」



 消え入りそうな声でベティが呟いた。諦めろ、という意味を込めて、リンは彼女の足を軽く蹴った。



「まあっ!!」



 突然トレローニーが叫んだ。まさかテーブルの下でベティを蹴ったことがバレたのかと、リンは一瞬懸念したが、その心配は無用だった。トレローニーの視線は、リンのカップに釘付けだった。



「まさか……こんなことが……あたくし、こんなことはいままで一度も……」



 恐ろしいものでも見たかのように、トレローニーは胸に手を当て、リンたちから後退り、空いていた肘掛け椅子へと座り込んで、深く息を吸った。



「先生? あの、どうかしたのですか?」



 ベティが恐る恐る質問をした。トレローニーがカッと目を見開いた。ベティが「ひっ」と飛び上がる。リンは、トレローニーは教師より役者をやった方がいいのでは……と思った。



「あなた ――― あなたには、グリムが取り憑いています!」


「…………おやまぁ」



 数秒の沈黙のあと、ほとんどの者が息を呑む中、リンは「それで?」と思った(思っただけで口には出さなかった辺り、賢明だと言える)。そんなリンの薄い反応を、トレローニーは見てもいない。



「こんなこと……死神犬に取り憑かれている者を、一日に二人も見るなんて……」



 ショールを胸元に引き寄せて身体を細腕で抱き込むトレローニーに聞こえないよう、リンは静かに溜め息をついた。



→ (5)


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