スリザリンの継承者(3)



「助けて………お願い、誰か……」



 ハリーが夢中で祈ったとき、帽子の中で何かが煌めいた。ハリーは手を伸ばしてそれを引き抜いた。眩い光を放つ銀の剣だった。柄には、卵ほどもあるルビーが輝いている。


 不意に、風が唸った。顔を上げる前に、ハリーは、リンに腕を引かれ、床に倒れ込んだ。同時に頭上で、ズガンッ!! と、大きくて鈍い音がした。重いトラックが固いレンガの壁にでも激突したかのような音だった。


 ハリーが見上げると、バジリスクが勢いよく突撃してくるところだった。しかし、ハリーの目の前で、何かにぶつかって、その反動で、ハリーたちから離れる。怒った叫び声が、バジリスクの口から漏れた。


 なにが起こってるんだろう……呆然としていると、不意に、どこからか緑色の光線が飛んできた。それは、ハリーたちの前の空間を貫き、パリン!! と、何かが割れたかのような音を響かせる。リンが、背後で小さく舌打ちをした。


 なにがなんだか理解する暇もなかった。割れる音の余韻が消えない内に、再び口を大きく開いたバジリスクが、前方斜め上から迫ってきていた。


 ハリーは咄嗟に、持っていた剣を、狙いを定めて、思い切り振り上げた。リンが驚く気配がして、またもや何かが割れるような微かな音がして、そして ――― 。


 生温かい血と、轟くような絶叫が、二人に降り注いだ。勢い余ってハリーの手から離れた剣は、鍔まで届くほど深く、毒蛇の口蓋に突き刺さっていた。


 バジリスクがドッと床に倒れ込んだとき、何かがハリーの方へ飛んできた。思わずキャッチすると、毒牙の破片だった……剣が刺さった際に折れたらしい。


 バジリスクが痙攣し動かなくなるのを見届け、リンが床に座り込んだ。息が荒く、肩が上下している。



「……ヨシノ……」



 リドルの声が、上から聞こえた。いつの間にか、ハリーたちの前に立ち、リンを見つめている。さっきハリーを見ていたときのような、貪欲な目だった。



「そうか……君が……それならば……」



 いやに熱っぽいリドルの目からリンを庇うため、ハリーが立ち上がろうとしたとき、フォークスがハリーの前に再び何かを落とした ――― 日記だ。


 ほんの一瞬、みんなが日記を見つめた。そしてハリーは、何も考えず、躊躇いもせず、まるで初めからそうするつもりだったかのように、手に持っていたバジリスクの牙を、日記の真芯にズブリと突き立てた。


 恐ろしい、耳をつんざくような悲鳴が、部屋中に響いた。日記から、インクが激流のように迸り、ハリーの手の上を流れ、床を浸していく。リドルは身を捩って悶え苦しみ、悲鳴を上げながらのたうち回って……消えた。


 痛いほどの静寂が訪れた。


 体中を震わせ、ハリーは立ち上がった。リドルが落とした自分の杖と「組分け帽子」を拾い、それからバジリスクの死骸に近づいて、剣を引き抜いた。



「……終わったのかな」



 立ち上がってハリーの横まで来たリンが囁いた。ハリーが「たぶんね」と返したとき、「秘密の部屋」の隅の方から微かな呻き声がした。ジニーが動いていた。


 ハリーとリンが駆け寄ると、ジニーはゆっくりと身を起こした。ぼんやりした目で、ジニーは、バジリスクの巨大な死骸を見、血だらけの二人に視線を移し、そのあとリンが持っている日記に目をとめた。途端にジニーは身震いして息を呑み、彼女の目から涙が溢れた。



「あぁ、あたし ――― あたし ――― 」



 ガタガタと震えるジニーを、しゃがみ込んだリンが静かに引き寄せた。あやすように、ジニーの背を撫でる。



→ (4)


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