軽いか、重いか(5)



「なんだか自分を見失っているような ――― そんな感覚、経験したことある? もしあったら、リンなら、どうする?」


「………原因が何なのかを突き止めるよ」



 リンが静かに言うと、ジニーはパチクリ瞬いた。カタカタ震えていた身体が、目に見えて大人しくなる。呆然としているようだった。

 いったいどんな返答を予想(期待)していたのやら……リンは肩を竦めた。



「怖い怖いと思っていても、何も変わらないだろう? 怖い状況を変えたいなら、どうしようって悩む前に、どうしてこうなったのか考えなくちゃ。原因と結果は繋がってる。結果をどうこうできたとしても、原因がそのまま残っていれば、結局変わらない。同じことを繰り返すだけ。憂えるべきなのは、結果とか現状じゃない。原因だよ」



 ジニーは、大きな目でジッとリンを見た。リンの方は、果たして彼女の質問に答えることができているのかと疑問だったが、まぁいいかと自己完結した。



「君は、原因が何か、気づいてないだけで知ってるはずだよ。だから、早くそれに気づいて、変えるなり変わるなり、腹を割るなり遠ざけるなり、何かすればいいと思う」



 必要なら先生に相談するといいとリンがアドバイスしたとき、ジニーはふと笑い出した。

 ……突然どうした。呆気に取られるリンに、ニッコリ笑う。



「リンって、すごいのね。あたし、ちょっと気が楽になったわ」



 ありがとうと言うジニーに、リンは目を瞬かせたあと、曖昧に微笑み返した。なんだかよく分からないが、とりあえず、彼女を元気にさせる役には立ったらしい。

 ジニーは、すっかり肩の重い荷が下りた様子で、明るくリンに挨拶をして、自寮へと帰っていった。

 再び彼女の後ろ姿を見送って、リンは嘆息した。


 まったく、今のはいったいなんだったのか……思春期特有の、傍から見たら他愛無いものだが、本人にとっては深刻な悩みの類だろうか?

 あれだけの情報では、はっきりとは分からない。そもそも、悩み事というものは、他人が重みを測れるものではないのだ。



「……めんどくさいな」



 いずれにせよ、部外者であるリンには、どうもできない。それに元々関係もないので、とりあえずは放っておこう。そう判断して、リンは寮への帰路についた。


 せめて、原因が見つかっても一人で解決しようとせず、兄とか先生に相談してほしい……階段を降りながら、リンは思った。



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