軽いか、重いか(1)



 なんやかやと時間は過ぎて、クリスマス休暇が終わった。


 学校に戻ってきた生徒たちは、ハーマイオニー・グレンジャーが医務室にいると聞いて、みんな肝を冷やした。彼女がスリザリンの怪物に襲われたと思ったようだった。

 いろいろな噂が乱れ飛んだ挙句、一目でも彼女の姿を見ようと、みんな医務室へ足を向けるので、さすがのリンも彼女に同情した。なんともついてない人である。



「あそこまでとはね……なんていうか、みんな悲劇に興奮してるみたいだ」



 新学期が始まってから少しした、あるとき ――― あまりにも頻繁に医務室の前をうろつき、マダム・ポンフリーに叱られている生徒を遠目に見た際に、リンは呟いた。

 あれは「心配」ではない。ただの「興味」と「好奇心」だ。まったくもって失礼な輩たちである。


 神妙な顔をする友人たちを軽く放置し、リンは、やりきれない気持ちで溜め息をついた。

 帰るかと踵〔きびす〕を返したとき、リンの身体に、軽い衝撃がきた。赤いものが、曲がり角から飛び出し、リンにぶつかってきたのだ。

 リンはちょっと驚いたが、すぐに態勢を立て直して、同じくよろめいた女子生徒の腕を掴み、彼女を支えた。



「ごめんね、大丈夫?」



 小さく首を傾げて様子を窺うと、鳶色の目とかち合う。リンは瞬いた。ちらりとネクタイを確認すると、やはりそうだ。



「君、ウィーズリーの子?」



 確認に近い質問をすると、彼女は目を見開いた。どうやら当たりらしい。どうして知っているのか、と無言で訴えてくる目に、リンは苦笑して肩を竦めた。



「グリフィンドール生で赤毛ってきたら、普通は、まずウィーズリーかなって思うでしょ」



 発言したのはリンではなく、その後ろにいるベティだった。スーザンが「その言い方は少し失礼よ」と諌める。それを受け「だって」と何か言い訳しようとしたベティに、リンは顔も向けずに「ちょっと黙ってくれる」と圧力をかけた。

 それから、一瞬だけ逡巡したあと、ウィーズリーに笑いかけた。



「私、前に一度、君を見たことがあるもの。君は覚えてないと思うけど ――― ダイアゴン横丁の書店に、家族で買い物に来てたよね?」



 一瞬、ほんの僅かだったが、ウィーズリーの肩が跳ねた。瞬きをするリンを見上げ、こくりと首を縦に振る。

 その目に、恐怖や不安のような類の感情が見受けられた気がしたリンだったが、初対面でそこまで追及するのはどうかと思ったので、尋ねる代わりに、再び笑いかけた。



「なにか急いでたみたいだけど、時間は大丈夫?」


「………っだ、大丈夫」



 あ、喋った。そう呟いたアーニーの足を、スーザンが踏みつける気配がした。リンは、彼らは無視することにして、ウィーズリーの話に首を傾げる。ウィーズリーは、医務室の方を盗み見ていた。



「た、たいしたことじゃないから……私、ただ、」


「グレンジャーのお見舞いに来たの?」



 またもやベティが口を挟んだ。ウィーズリーの肩が、今度ははっきり分かるくらいに飛び跳ねる。リンが笑顔で振り返ると、ベティはたじろいだ。



→ (2)


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