女とペアを組むとうっとうしいし扱いがめんどくせーし、俺は一人でダンスパーティーに行くぜ。なーに食べて飲んでれば寂しくなんてねーよ。なんて宣言したシリウスだったが、やっぱり寂しいなと思った。だって隣で友人がいちゃついてる。しかもリーマスが。つらい。

 ちらっと視線を向けて、シリウスは小さくため息をこぼした。簡単に説明すると、リーマスが膝に乗せたリンに「あーん」をしているところだ。なにやってんだおまえらそんなことするガラじゃねぇだろリア充オーラつらい。

 さっき隣で交わされた会話を頭の奥から引っ張り出す。

「リン、食べないの?」

「……食べたいけど、うまくフォークが使えないし、うっかり汚したくない」

「え? ……ああ、手袋か。リリーにはめてもらったんだよね、たしか」

「もったいないから外したくない。私は食べずに乗り切ろうと思う」

「身体に悪いからやめようか。口開けてくれれば僕が食べさせてあげるし……」

「……無理。羞恥で死ねる」

「じゃあ僕が食べちゃおう、リンの好きな苺タルト」

「えっ」

「……んー、おいしい。食べないなんてもったいないなあ、今日も絶品なのになあ」

「………」

 最終的に食い意地に負けたリンが口を開いたところまで思い出して、シリウスは手元のグラスの中身をあおった。やってられない。意味が分からない。手袋外せよ。たいしたもんじゃないだろ意味わかんねえ。甘やかすなリーマス。最初は隣同士の椅子に座ってたのにいつの間にか(まんまと口車に乗せて)膝の上に座らせてるし。リーマスこわい。ていうかリンのこと狙ってたのか。

 視線を二人に戻す。リーマスはかつてないほどご機嫌な顔でリンを見つめていた。いや、うん。たしかに口をモゴモゴ動かしてるリンはさながら小動物みたいでかわいらしくなくはないけども。でもリンだぞ。スリザリン生だぞ。いいのか。

「おいしいかい、リン」

「うん」

「ムースは食べる?」

「……食べる」

 もはや羞恥心も飛んでいるってどういうことだろう。あのリンが素直に餌付けされてるなんて信じられない。まあたしかにリリーにはよく餌付けされていたが。その素直さがリーマスに発揮されるなんて驚きだ。というか消えたい。リア充やめてくれ。

「……あら、まあ」

「どうしたのミネルバ……あら。ふふ、微笑ましいわねぇ」

「おや? かわいらしいねえ」

 ……マクゴナガルが破廉恥なと注意しないだと……。微笑ましそうに目尻を下げてクスクス笑っている教師三人組を見て、シリウスは衝撃を受けた。スプラウトとフリットウィックはともかく、マクゴナガルがいちゃつきを黙認するってどういうことだ。止めてほしかった。

 いっそ移動しようかと思ったが、あいにくと席順が悪い。左を向けば壁にもたれて眠るピーターで、右を向けばリーマスとリンである。いま二人の雰囲気をぶち壊したらリーマスがこわい。かと言って左方から抜け出すのも不可能。ジェームズがリリーを追いかけるのを諦めて帰ってきて状況打破してくれるのを待つしかないということか。

 重苦しいため息を吐きつつ隣へ目をやれば、リンが「もう満足」と食事終了の旨を口にしたところだった。ナイスだ。そのままふつうの距離感に戻ってくれ。シリウスの願いむなしく、リーマスは食器をテーブルに置いただけで、リンを離す気はないらしかった。

 穏やかな笑みを口元に浮かべたまま、リーマスはリンを見つめる。リンがぱちくり瞬いて、気まずそうに視線をさまよわせた。リーマスの手が伸びて、リンの目元に落ちてきていた髪をサイドによける。一瞬びくっとしたリンは、そろそろと目を開けてリーマスの笑みを見つめ、ほっと肩の力を抜いた。

「今日は髪をアップにしてるんだね、リン」

「……リリーがやってくれた」

「だろうね。リンにすごく合ってる」

 瞬きひとつして、リンははにかんだ。それを見たリーマスも頬をさらに緩める。壁を通り抜けてこの場から脱出できたらいいのにとシリウスは思った。だれかピーブズを会場にうっかり侵入させてくれてもいい。

「……ルーピンは髪をセットしなかったの?」

「ああ、うん。軽く梳いただけだね。前髪をあげると、ほら、顔の傷が目立つし。せっかくのパーティーにみんな不快なものを見たくないだろう?」

 ちょっぴり自虐気味に笑うリーマスに、シリウスが思わず首ごと振り向いたとき、リンが「でも」と言った。

「私は、前髪をのけたルーピンの顔、見てみたかった」

 沈黙という名の硬直時間が三秒ほど。それから、じわじわとリーマスの頬に赤みがさしていった。どぎまぎと「み、見たい、って……その、つまり」と言葉を詰まらせ、リンから「傷も含めて君の顔でしょう。なら、せっかく親しくなれたのだし、見てみたいと思って」と返されて、片手で顔を覆ってうなだれた。しかし赤面は隠しきれてない。

 ……リンにしては何という殺し文句。という感想を抱きながら、シリウスはリーマスからリンへと視線を移した。何をどう勘違いしたのか、「傷つけてしまったならごめんなさい、見せたくないならいいんだ」とおろおろし始めている。

「いや……ちがうよ、傷ついてはないよ。うれしいなって思ってるだけなんだ」

 もごもごと言うリーマスに、リンがほっとした様子を見せる。ぼんやり眺めつつ、シリウスは、ほんと早くパーティーお開きにならないかなと思った。



 余談だが、リーマスとリンは付き合ってはないらしい。パーティーが終わったあとそれとなく聞いてみたら、「できないよ。断られて、せっかく築いた仲がこじれたりしたら、立ち直れない」と返された。

「……いや、いい線いくと思うぜ」

「あのね、シリウス。僕は君とちがって女の子を惹きつけるような魅力がないんだよ」

 呆れ顔をされて、シリウスは思った。呆れたいのはこっちだ。わけわかんねえ。



**あとがき**
 まどか様リクエスト“世界主セブルス成り代わりでリーマス落ちの話”でした。詳しい希望設定がありましたので、そちらに従って執筆させていただきました。
 いちゃいちゃって何をさせたらいいのか悩んだ末、こんな感じにしました。シリウスに「リア充オーラやめてほしい」「つらい」って言ってもらいたかった。楽しかった。こんなシリウスもたまにはアリだと思う。彼以外のギャラリーがあんまり出せなかったのが残念かも。



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