突然ですが、他寮で一週間ずつ生活することになりました。経緯は複雑です。察してください。


「……って、わかるか」

 思わずセルフツッコミを入れてしまう。やや乱暴に羽根ペンを置くリンを見て、スイが労わるように尻尾で腕をぽんぽんとたたいてやった。リンはふうとため息をつく。その耳に苦笑が届いた。

「たいへんそうだな、リン」

 通りすがりらしいディーンが眉を下げてリンを見ていた。その横にいたシェーマスはシュバッと勢いよくリンの元へと駆け寄ってきて、「悩み事か?」と首をかしげる。リンは「母さんに手紙を書こうとしてたんだよ」と苦笑をこぼした。

「たぶん出さないけど」

「なんでだ?」

「不必要な便りを好まないひとだから」

「? リンからの手紙なら、ぜんぜん不必要じゃないと思うけど……?」

 不思議そうに目を瞬かせるシェーマスに、リンは眉を下げ、それより宿題はと話の流れを変える。シェーマスはしまったという顔をして、リンに手伝ってくれと頼んできた。リンは二つ返事で引き受けた。


 グリフィンドールでの生活はそんな感じで過ぎた。ハリーたちとの絡みが多いかと思いきやそうでもなく、もっぱらシェーマスやディーン、ネビルと行動を共にした。なにかと不安の多いメンツだったが、とくに問題なく乗り切ったと思う。

 強いていえば、シェーマスがすこしばかり鬱陶しかった。朝は「おはよう!」「リン、今日のクロワッサンはいつもよりおいしいよ、食べてみて!」とはしゃぎ、授業中は「ヤバい、リン、教科書を大鍋に落とした!」「ここ教えて!」「すごい、いまの魔法すごく上手だった!」と騒がしく、夜も「今日のアレすごかったよな!」「爆発スナップで遊ぼう! え、課題? じゃあ一緒にやる!」「じゃあまた明日! おやすみ!」と終始テンションが高いままだった。


「へー、たいへんだったんだな。おつかれ」

 軽いノリではあるものの労わってくれたテリーに、リンは「ありがとう」と返した。さりげなく蛙チョコレートをくれたアンソニーにも礼を述べる。パドマやリサは「お疲れ様」と言いつつクスクス笑いがこらえきれていなかった。

「フン、気を許しすぎてるリンの自業自得だろ。ああいうのはガツンと拒む姿勢を見せてやらないと調子に乗るんだ。甘やかすのも大概にしておけよ。そもそも我慢ばかりの関係なんてバカらしいし何の得にもならない。まあ、君がバカに見えようとストレスためようと僕の知ったことじゃないけど」

 ツンと澄ましてつらつら述べたマイケルを見て、テリーとパドマとリサがこっそりと笑い出した。スイも口元を押さえる。これアレだ、ツンデレだ。一方イマイチ理解しきれていないリンには、アンソニーがフォローした。

「リンが優しいのはいいことだけど、押しに弱いばかりじゃリンが損をしてしまうから、しっかり自分の意思は相手に伝えたほうがいい。じゃないと僕も心配。ってことを言ってるんだよ、マイケルは」

「言ってない!」

「でも言外にはそう伝えようとしてただろう?」

 にっこりとアンソニーが確認すると、マイケルは悔しそうな顔で視線を逸らした。どうやら図星らしい。リンは納得して、マイケルに礼を述べた。「だからヘラヘラ受け入れるなって言ってるだろ」と睨まれてしまったが、テリーが「相変わらず素直になれねーヤツ」と笑っていたので、ほんとうに怒らせてしまったわけではないのだろう。


 レイブンクローでの一週間は、グリフィンドールよりは静かに過ぎた。強いて言うならマイケルとテリーの言い合いがうるさかったが、ジャスティンとベティのケンカに比べたらかわいいものだった。表情的にも音量的にも内容的にも。

 たわいもない彼らの言い合いを傍観するほかは、基本的に勉強会くらいしかしていなかった気がする。たまに雑談をしたが、それは最終的に二人の言い合いに発展したので変わらないと思う。


「へえ、やっぱりレイブンクローはガリ勉ばっかりなんだな。こんなに美しい少女がそばにいるのに教科書を見てるなんて、どうかしてる」

「おまえの思考と手つきのほうがどうかしてるだろう」

 リンの腰を引き寄せようとしていたザビニの手を、ノットがたたき落とした。ザビニは気にした風もなく「思春期男子として健全と言ってくれ」と口角を上げる。ノットの眉間に皺が寄った。

「おい、僕らの周りで下世話な争いはするなよ」

 ソファで読書をしていたマルフォイがうんざりと言った。その隣のパンジーも険しい目を向けてくる。リンが「騒がしくしてごめんなさい」と謝り、ノットがため息をついて視線を滑らせ、ザビニは瞬きをしたのち艶やかな笑みを口元に浮かべた。

「騒がしくして悪かったな。さて、邪魔されないためにも、外に出ないか、リン」

「却下だ」

「まったく野暮な男だな、ノット。情緒ってものをまるでわかってない」

「貴様のやることなすことに情緒も何もあるか、この色情魔」

「ちょっと、うちの寮生をたぶらかしてんじゃないわよ、リン・ヨシノ」

「むしろ私は被害者な気がするんだけど」

「そもそもアンタが原因じゃない!」

 また騒がしくなる空間でマルフォイがため息をついたのを、スイは目撃した。


 スリザリンでの時間は濃かった。隙あらば寄ってくるザビニから逃げつつノットと話をしたり、ザビニとノットの口論をBGMにダフネと雑談をしたり。たまに謂れのない非難叱責罵声をパンジーやミリセントから受けたり、地味にしていろ火種になってくれるなとマルフォイから言われたり。

 基本的にだれかしらが口論を繰り広げていた気がする。だいたいの原因はザビニだと思うが、女子たちによるとすべからくリンのせいらしい。無慈悲である。とりあえず女性は刺激しないほうがいいと学んだ。


「……と、まぁこんな感じだったよ。かなり新鮮で濃い体験でした」

 あらかた語り終えて、リンは締めくくった。リンを甲斐甲斐しくも迎えにきて早々に取り囲んだハッフルパフメンバーは、互いの顔を見合わせる。ハンナがこわごわとリンを見つめて口を開いた。

「えっと、ほかの寮は楽しかった?」

「……まぁ、楽しい時間もあったとは思うよ。ただ」

 一度言葉を切って、リンは友人たちを見渡した。ずいぶんと久しぶりだなぁと感慨を覚えつつ、そわそわと言葉を待つ面々に笑みをこぼす。ポンと、いちばん近い位置にいるハンナの頭を撫でた。

「やっぱり、君たちのところがいちばん落ち着くし、いちばん楽しいよ。ほかじゃ……」

「リンッ!」

 話の途中でハンナが飛びついてきた。感極まっているらしく、ぎゅうぎゅうと首に腕を巻きつけてくる。息苦しいので剥がそうとしたリンの手を、ジャスティンが取って握り締めた。もう片方はスーザンが取り、ベティはリンの背をパシッとたたく。アーニーはおろおろしたあと、リンの肩をポンと優しくたたいて感激を示した。

「リン、大好き!」

「……あ、りがとう」

 ぎこちなく礼を言ったリンの顔を見て、避難していたスイはゆるく尻尾を揺らした。青春である。


**あとがき**
 紅麗様リクエスト“ハッフルパフ友情夢”でした。詳しい希望設定がありましたので、そちらに従って執筆させていただきました。楽しかったです。いろいろ書きたかったのですが、キリがないので省きつつ、まとめてみました。
 分量の都合で出しきれなかったキャラたちがいて残念でした。一応、紅麗様の要望にあったキャラたちは全員登場させきったと思います。ご不満でしたらご連絡くださいませ。



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