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 ふわり、ふわり。

 ぬくぬくと心地よい温かさの中で、まどろんでいた**は、ふと、自分の頭が撫でられているような感覚を覚えた。



「………?」



 ゆっくりと意識を浮上させ、瞼を持ち上げる。誰かが、自分の上に覆いかぶさっているのが分かった。

 誰だろう? ぱちりと軽く瞬きをして、人影を見つめる。だが、寝起きのためか、視界がぼやけてして、よく分からない。


 だけど、この手つきは、もしかして。


 だんだん覚醒しつつある意識で考えながら、片手で目を擦る。そのとき、**の頬に、柔らかいものが触れた。



「………起きないと、食べちゃうよ?」



 **、と、耳元で名前を呼ばれたと同時に、**は勢いよくバチッと目を見開いた。



「レジュ……ッ!! ………」



 ………噛んだ。相手の名前を呼ぼうとした**は、パッと口元を手で覆った。そのまま、自分の上にのしかかっている人物から、目を逸らす。


 いたたまれない。恥ずかしい。


 クスクス、なんとも上品な笑い声が降ってくる中、**は思った。穴があったら入りたい。


 真っ赤になっていると想像がつく顔を、必死に彼から背けて、隠す。

 本当は、シーツを被るか、いっそ潜り込みたいところだ。しかし、のしかかっている彼の身体が、それを許してはくれなかった。**の力では、シーツを引っ張り上げることすら、できなかった。


 もう少し、寝起きの自分の滑舌がよければ、こんな思いはしないのに………。うう……と内心で唸る**の髪に、再び彼の手が触れた。



「ごめんね、**。もう笑ってないから、機嫌直してくれるかい?」



 もう笑わない、ではなく、もう笑ってない。その言い方に、彼の性格が垣間見えるような気がする。……いや、それは、いまはどうでもいい。


 脱線しかけた思考回路を修正して、**は、視線を彼へと戻した。綺麗に整った顔が、自分を見つめている。

 なんとなく敗北感を覚えながら、**は、努めて微笑んだ。



「………おはよう、レギュラス」



 今度は噛まずに言い切った。ほっと安心する**の顔に、柔らかいキスが降ってくるのだった。








 一通りの挨拶(スキンシップ)を終え、**が支度を済ませたあと、**とレギュラスは、リビングへと向かった。



「ご主人様! 若奥様! おはようございます!」



 ドアを開けた途端、屋敷しもべ妖精が一人、飛ぶようにやってきた。名前はクリーチャー、レギュラスの大事な家族の一人だ。

 聞けば、レギュラスが生まれたときから、彼に仕えているらしい。ということは、相当な年であるはずだ。それなのに、こんなに細々と甲斐甲斐しく働いて……とても立派だ。


 **は、たまに、彼を見ているとき、言いようもない敗北感と虚無感に襲われることがある。なんだか、もういろいろと負けた気しかしないのだ。



「**、どうかした?」



 じっとクリーチャーを見つめていると、レギュラスに声をかけられる。**は、緩く首を横に振った。



「なんでもないの。ただ、クリーチャーは私よりずっと立派だなぁって思って」


「そん ――― 」


「そのようなことはございません!!」



 割って入ったクリーチャーに、**は瞬いた。


 ……まさか、クリーチャーがレギュラスの声を遮るときが来ようとは……正直、驚きだ。心なしか、レギュラスも、半ば信じられないという目で、クリーチャーを見ている。


 敬愛する主の、当惑した視線に気づいていないのか、無視しているのか、クリーチャーは、**だけを見つめて、ぐっと拳を握りしめた。



「若奥様は、素晴らしい方でございます! 大奥様ほどではありませんが、お綺麗で、お優しく、クリーチャーめにもよくしてくださる、立派な方でございます! そうですとも。レギュラス様が、純血でなくともと、大奥様を説得なさってお選びになられた方なのですから、立派に違いないのです!」


「……あ、ありがとう、クリーチャー。そう言ってもらえて嬉しいわ」



 言葉の節々に、無意識な棘っぽいものを感じ、**は、義母の隣に並べるとは思わないでおこうと思った。



「………クリーチャー、僕、早く君の料理を食べたいな」



 不意に、レギュラスが呟いた。クリーチャーは、ハッと我に返り、慌てて厨房へと駆け込んでいく。彼の姿が見えなくなったところで、**の視界が反転した。



「……ん……!」



 唇が二つ、柔らかく重なる。触れるだけで離れたそれを目で追う**の頬に、レギュラスの手が触れた。親指の腹で優しく撫でられて、くすぐったさを感じる。

 雰囲気に促されるように、視線を上げる。レギュラスの瞳に、**が映って見えた。その小さな鏡が、柔らかく細められる。



「僕は、母上より**の方が可愛いと思ってるよ」


「……き、綺麗だとは思ってないのね」


「うん。美しさなら、母上が最高」


「…………」



 複雑そうな表情を浮かべる**を見て、レギュラスは口元に手を当て、クスクス笑う。やけに様になる姿に、**は再び敗北感を胸に宿した。

 なんだか、いつも彼に振り回されている気がする。甘やかされたり、意地の悪いことをされたり……事あるごとに胸を高鳴らせているのは、いつだって**の方だ。


 ………なんというか、悔しい。


 ぎゅっと唇を引き結んで、**は踵を持ち上げた。背伸びをして、そっと、レギュラスの頬に口づける。

 彼が(少しだが)驚いた気配を感じ取って、緩く笑う。



「……私は、お義母様より、レギュラスの方が綺麗だと思うわ」



 珍しく面食らった顔をするレギュラスがおかしくて、**はクスクスと笑った。そこに、クリーチャーの声が被さる。朝食の支度が整ったらしい。


 返事をして、彼の方へ向かう。その途中で、**は、後ろから腕を引かれた。すっぽりと、レギュラスの腕の中、彼の胸元に、捕まえられる。


 ぎゅうと**を抱きしめて、レギュラスは、彼女の耳元に顔を寄せた。



「………愛してるよ、僕の**」

 


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