「……で、なにか言うことは?」

「すいませんでした」

 拳を握ったままのアンジェリーナに問われ、フレッドとジョージは異口同音に謝罪の言葉を口にした。頭を下げるタイミングまで同時。さすが双子だ。そんな場違いなことを、リンはぼんやりと思った。

 階段から降りてきたリンにいち早く気づいたスイが駆け寄ってくる。それを合図に何人かが顔をこちらに向け、大半がポカンとし、残る数人は勢いよく顔をそむけた。ハンナやジャスティンに至っては手で顔を覆っている。……そんなにひどい見た目なのだろうか。首をかしげるリンのところへ、復活したリーが朗らかに歩み寄ってきた。

「ずいぶんとハンサムになったなあ。男子の制服、すげーサマになってる」

「そりゃあまぁ、いま男ですし」

「……おぉ。それだけじゃねーけどな……」

 リーの呟きを無視して、リンはため息をついた。動いてしゃべってみて思うが、いつもより声が低い。目線も高いし、なんとなく身体の動作もちがう。……それもこれも、双子が製作した薬によって身体が突然変異を起こし、俗にいう性転換というものをしてしまったせいだ(諸悪の根源は冒頭の通りアンジェリーナの鉄拳制裁を食らった)。

「……それで、薬の効果はどれくらいなの?」

 肩に乗るスイを撫でながら問えば、ジョージから「だいたい数時間だ、たぶん」とアバウトな答えが返ってくる。フレッドは「いっそそのまま暮らしてみても支障ないんじゃないか、リンなら」と発言し、アンジェリーナから三発目のゲンコツを脳天に食らった。

「数時間しかもたないの?!! じゃあ……じゃあ、リン、デートしましょう!」

「ハンナ……なんでそうなる」

「リン! リンッ! こっち向いて!」

「写真はやめてくれるかな、コリン」

「ぜひ僕とツーショットをお願いいたします」

「あっ私も!」

「僕も!」

「ジャスティン、ハンナ、シェーマス、とりあえず離れてくれる」

「僕もあとで、」

「写真はなしって言ってるだろコリン」

 わあわあと群がってくる面々を抑えにかかるが、どうも手がつけられない。なんだろう、いつになく興奮しているんだが。いきなり性転換をした人間が気持ち悪くないのか、こいつらは。わけがわからない。

「……僕、リンが女の子で心底安心してる」

「うん……なんだか自信なくすかも」

「そうか? 僕はリンが男でも友だちになってたと思うけどな」

「うん、僕も。リンはリンだし……それに、女の子でもリンは僕らより男前だしね」

「……たしかに」

 ロン、ネビル、ディーン、ハリーがぼそぼそ呟いて、最終的にうなずき合う。そんな図を見て、なんとも言えない気分になった。ため息をつくと、スーザンとアーニーが苦笑まじりに「気にしなくて大丈夫よ」「ああ、悪口ではないからね」と肩をたたいてくる。二人には礼を言い、爆笑しているベティには羽根ペンをダーツのごとく投げつけておいた。

「……ねえ、リン」

 後方でひそひそしていたハーマイオニーとジニーが寄ってきた。やけに目がキラキラしていて、イヤな予感を覚える。リンが制止すべく口を開いたが、ガシッと手を取られて言葉を呑み込んだ。ひるむリンに、ジニーがにっこりした。

「私、絶世のイケメンを連れて歩くのが夢だったの!」

「お願い、リン、ジニーの夢のために付き合ってあげて。それで……その、ついでに私とも、ほんのちょっとだけでもいいから、散策してくれたらうれしいんだけど」

 冗談じゃない。リンが思ったと同時、ジョージが「ちょっと待てジニーどういうことだ、おまえはハリーじゃなかったのか」と声を上げた。「それとこれとは別よ」「別なのか……スゴいな」「そのまえに、イケメンなら俺とジョージがいるだろ」「二人は絶世レベルじゃないわ」「手厳しいな!」「兄ちゃんたち悲しいぞ!」「ロンに至ってはただのフツメンだし」「なんだって?!!」といった赤毛たちの口論が繰り広げられる。

「……ごめん」

 腕に力をこめてジニーの手を引き剥がし、リンは片手でスイをしっかり押さえつつ瞬間移動を発動した。



 図書館前の廊下へと出現して、リンは一息ついた。スイがジタバタとリンの手から脱出して、反対側の肩へと移動し、窓枠へと飛び移って落ち着いた。じろっと恨みがましい視線を送ってくる。

「予告なしに瞬間移動するのやめろよ。ボクは魔法による移動は苦手なんだから」

「ごめんよ」

 謝ったとき、背後のドアが開いてだれかが出てくる音がした。なるべく接触しないで済むようやり過ごそうとした矢先、「ウィイイイ!」と声がした。リンはため息をこぼして、振り返りがてら防音の結界(マダム・ピンス対策)を張り、投げつけられた数個の松明の炎をピーブズへと返却する。

 火の玉を連弾で食らったピーブズは悲鳴を上げてフェードアウトした。たったこれだけの出番だなんて、なぜ出てきたのかわからない。観戦していたスイは思った。やられキャラにも程がある。

「……すごい」

 不意に感嘆の息が聞こえてきた。スイとリンは一緒に視線を向ける。図書館側の壁に、スリザリンのお馴染みの面々が並んでいた。どうやらピーブズの火の玉に身構えて巻き込まれまいと壁に張りついた状態で一部始終を見届けていたらしい。

「……ごめんなさい、通行の邪魔でしたね」

 困ったように苦笑して「もう終わったのでどうぞ」と続けながらリンは道を空ける。マルフォイ、パンジー、ミリセント、ダフネの頬に赤みがさしたのを、スイはしっかり見た。女子三人が顔を見合わせて無言できゃあきゃあはしゃぐ。その向こうのマルフォイがリンを眺め渡し、ふとスイに目を留めて硬直し、やがて頬を引き攣らせた。

「……その猿……まさかおまえ、リン・ヨシノか?」

「え? ああ、うん。ちょっと諸事情でこんな見た目してるけどね」

 スイの視線の先で、パンジーとミリセントがピシッと固まった。ぎこちない動きで振り返り、スイとリンとを見比べ、そして深く息を吸い込んだ。

「こんの詐欺師ぃいいいい!!!」

「あたしのときめきを返せぇええええ!!!」

 見開いた目でにらみつけながら声の限りに絶叫され、リンはのちに「心臓が止まるかと思った」と語った。



**あとがき**
 悠様リクエスト“「世界」で夢主が双子の作った薬を間違って飲んでしまい、男の子になってしまう話”でした。ご指定された「スリザリンの女子メンバーやマルフォイ、ハッフルパフのメンバー、ハリーたち」と、その他の方々に登場してもらいました。
 みんなの反応はだいたいこんな感じです。基本的にはカッコいいので見惚れられる。その後、適応力の高いひとはすぐ受け入れるし、ミーハーなひとは騒ぐ。その他いろいろ。
 けっこう楽しかったです。人物を多くしすぎて書ききれなかったのが残念。セドリックやルーナやレイブンズも出したかったです。



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