せっかくの休日の朝だというのに、なぜこうギスギスしなければならないのか。火花を散らす友人たちを見て、リンは思った。いつも通り朝食を取りに大広間に来ただけなのに。

「……いつもいつもリンを呼び出して、いったい何のつもりだ? 僕たちを差し置いてリンと交流するだなんておこがましい。心優しいリンが断らないからって調子に乗るなよ。はっきり言って迷惑だ。自重したらどうだい」

「そ、れは、悪いと思ってる。だけど、こっちは大事な話なんだ」

「ああ、アレね。アタシたちのまえでは話せない内容のおしゃべりね。天下のハリー・ポッターがコソコソと、怪しいわあ」

 威圧するジャスティンに、ハリーがたじろぎながら反論する。それに対してベティが鼻を鳴らし、わざとらしい仕草で発言をした。それが癪に障ったのか、ロンが眉を吊り上げる。

「べつにふつうだろ。君らだって部外者には言わない話あるだろ?」

「部外者? なぁに、まるで私たちが邪魔みたいな言い方! 言っておくけど、リンはハッフルパフ生なんだから!」

「わかってるわ。それを否定するつもりはないの。ただ、話の内容から判断して、」

「それなら、せめて主題くらいは教えてくれてもいいんじゃないかしら。何も伝えられずに『ちょっとリンを貸して』って連れていかれるのは気分がよくないの」

 憤然とするハンナを慌ててなだめるハーマイオニーの言葉を、スーザンがバッサリと切った。ふだん温和な彼女にしては珍しく、眉をひそめて不機嫌そうだ。場の雰囲気が悪化していく。

 ひっそりと身を縮こまらせていたアーニーが、救いを求めるようにリンへと視線を向けた。しかし当人は空腹のスイに食事を用意してやっている。アーニーがずっこけかけたが耐え、せかせかとリンへと寄った。

「リン、なんとか言ってくれないか? みんなギスギスしてるんだ」

「ギスギス……? ジャスティンもベティも珍しく一致団結してるけど」

「ああうん、グループ内はまとまってるんだけどね。グループ間で対立してるんだよ」

 かなりズレているリンに、涙をこらえつつ丁寧に説明する。ようやく合点がいったらしいリンは、のんびりと渦中へ視線をやる。なぜこうも落ち着いていられるのか、アーニーにはわからない。僕は胃が痛い。ジャスティンの剥き出しの敵意とスーザンの遠回しな毒舌とベティの辛辣な皮肉とハンナのヒステリック気味な独占欲が身にしみる。

 なんだか追いつめられているアーニーを労わって、スイがそっとバターロールを差し出した。アーニーはなんとも言いがたい気持ちで受け取る。ぱちくりしたリンが、同じようにバターロールを手に取った。

「とりあえずご飯食べない? 私、おなかすいた」

 そっと渦中のど真ん中にバターロールを差し出したリン。アーニーは内心で「なんで」と激しくツッコミを入れた。リンの思考回路がわからない。リンとしては、単純にスイの真似をしただけであるのだが。

「リン、あなた何がした、」

「……そうね、食べましょう! 私たちと一緒に!」

 いち早く硬直を解いたハーマイオニーのツッコミを遮る形で、ハンナがご機嫌な声を上げた。ひしっとリンの腕に抱きつく。小柄でかわいらしい無邪気な少女だからこそ許される振る舞いである。ハンナをガン見しているジャスティンを見てスイは思った。

「そうね、食べましょ。グリフィンドールのみなさんはご自分の寮のテーブルにお戻りになったらー?」

 上から目線の高飛車風に発言したベティに、ロンがカチンときたという顔をした。が、ハーマイオニーに足を踏まれて押し黙る。その横で、ハリーがリンの名前を呼んだ。

「いつでもいいから、話聞いてくれないかな」

「だから自重しろって言ってるだろう」

 ジャスティンが即座にかみついた。リンが音を発する間もなかった。さりげなくリンのまえへと移動して彼女を隠し、ぐぐっと眉間に皺を寄せてハリーをにらみつける。

「君たちがそうやって話しかけるから、心優しいリンは君たちの元へ行かざるを得なくなるんだ。やめてくれないか、ほんとうに。迷惑なんだ。僕たちのリンを取らないでくれ」

 いや迷惑じゃ……と口をはさもうとして、リンは失敗した。思わぬ言葉を聞いてしまい、ぽかんとする。僕たちのリンを取らないで……? 呆然とするリンの腕が不意にギュッと握られた。

「ジャスティン、その言葉とってもすてき。そう、私たちのリンなの。取らないで」

「取る、って……ガキかよ」

「ガキでけっこうよ。リンにかまってもらえなくて寂しいのはほんとうだもの」

「そうよ。アタシたちの親友なんだから」

 呆れ顔のロンに、スーザンが恥ずかしげもなく返す。ベティまで便乗した。ふだんは気が強い彼女の口からデレ的セリフが出てきたことに、スイは驚く。リンのほうはじわじわと頬を染めていた。そこに追い打ちをかけるように、復活したアーニーが「そうだとも!」と声を上げる。

「リンは僕たちにとってかけがえのない存在だ。だから、言い方が不適切かもしれないけど、だれかに取られるのはイヤなんだ。心がせまいと思われるだろうが、事実、僕たちはリンに対する独占欲が強い。リンのことを大切に思っているぶん、リンからも大切にされたいと思ってる。つまり、きちんと優先してもらいたいんだ」

「そうよ、私がいちばんにリンと仲良くなったんだもの」

「リンの魅力をもっとも知っているのは僕です」

「一人称のあとに『たち』をつけなさいよ、アンタら」

 主張するハンナとジャスティンに、ベティがツッコミを入れた。仲間意識(執着)が強すぎるんじゃ……とハリーたちが呆然とする。リンはというと、口元を手のひらで覆って顔をそむけていた。視線は泳いでいるし、隠しきれていない顔は真っ赤だ。

「……あら、リンったら照れ屋さんね」

 目ざとく気づいたスーザンがクスクス笑った。その言葉で気づいた面々もそれぞれの気持ちに従った表情を浮かべる。スイは「なにこの子たちかわいい」と震えた。

「………とりあえず、ありがとう。うれしい」

 依然として視線をさまよわせたまま、リンがぼそぼそと呟いた。いつになく歯切れが悪いのは、きっと照れているからだろう。

「ただ……その、心配しなくても、私はちゃんと君たちを大切に思ってるし、緊急性や必要性で劣らない限りは常に君たちのほうを優先してるよ。だからそんなにピリピリしなくていい、と、思います。はい」

 感情の限界なのか変な語調になる。しかしハッフルパフメンバーには何の問題もないらしい。おのおの感激した様子でいろいろと呟いている。とくにハンナは感極まってリンに抱きついていた。

「………出直そうか」

 呆然、疎外感、虚無感、脱力感、エトセトラ。気力を奪われたハリーは親友二人にそう提案した。無言でうなずきが返ってきたので、そっとその場をあとにする。……それにしても、大広間中の視線を集めてよくやれるなあ。



**あとがき**
 雪様リクエスト“世界連載(中略)ヒロインの取り合いになる話”でした。ハッフルパフ寄りとのことでしたので、ハッフルパフ組に花を持たせて(?)みました。友情っていいなって思います。いちばん書きやすい。
 ハッフルパフ生は団結力とか仲間意識が強そうなイメージです。恋愛とかより友情のほうが強そう。卒業しても連絡取り合って仲良くしてそう。
 アーニーはメンタル弱めだけど、決めるところでは決めてくれる。と信じてます。



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