「………」


「…………」


 部屋の隅に膝を抱えて座り込み、むすーっと不機嫌顔でふてくされている**。それを見て、ハリーは困惑した。いつも呑気で明るい彼女に、いったい何があったのか。突っ立って内心あたふたするハリーを見て、横を通りかかった双子がニヤニヤ笑った。


「どうした、ハリー」


「我らが妹と喧嘩でもしたかい?」


「ちがうよ。僕が談話室に来たときからこうだったんだ」


 両肩にのしかかってくる二つの顔に言うと、二人は「あれ?」と目を丸くした。不思議そうに「じゃあ何が原因だ?」と首を傾げ、おもむろにハリーの背中を押す。


「とりあえず聞いてこいよ、ハリー」


「え、ちょっ、なんで僕が……君たちが行ったほうがいいんじゃないの?」


「はいはい。建前はいいから行った行った」


「ほんとはすぐにでも抱きしめて慰めてやりたいんだろ?」


 再びニヤニヤ笑いを浮かべて、双子は、図星を指されて閉口するハリーを送り出した。ハリーは悔しく思いながら深呼吸をひとつして、**の前にしゃがみ込んだ。名前を呼ぶと、壁を睨んでいた目が瞬いて、ハリーをとらえた。


「…………」


「……どうしたの? すごく機嫌悪いみたいだけど」


「……ハーマイオニーが」


「ハーマイオニー?」


 きょとんとハリーは首を傾げた。ハーマイオニーと**は親友で、とても仲が良い。**に至っては何かにつけてハーマイオニーハーマイオニーと彼女を慕っている。ぶっちゃけ慕われるハーマイオニーが憎らしいがそれはまあ置いておく。


 仲の良いハーマイオニーが不機嫌の理由とは、珍しい。喧嘩でもしたのだろうか? そう尋ねると、**は首を横に振った。じゃあどうしたのか。重ねて問うと、**は渋面をつくった。


「……ハーマイオニーが、ダンスパーティー、クラムと行くって。それで、クラムに悪いから、私とは一緒に行動できないって」


 一瞬の沈黙。そののち「あっはっは!!」と爆笑が轟いた。言わずもがなフレッドとジョージである。腹を抱えて「理由くっだらねー!」「ガキかよ!」と笑い転げる。**は頬を染めて「ガキじゃないもん!」と声を張った。


「理由だってくだらなくないし! ねっ、ハリー? ハリーだって嫌だよね、ハーマイオニーのパートナーがクラムなんて」


「う、うん。そう思うよ」


 ぎゅっとハリーのローブを掴んで迫ってくる**に、ハリーは反射的に返事をした。突然の近距離に心臓と脳がびっくりしていて、思考がうまく働かない。とりあえず「ほら!」と満足げに双子を見る**がかわいいのは分かった。


「バーカ、無理やり言わせてんなよ」


「無理やりじゃないし!」


「いーや、ハリーは優しいからおまえの味方をしてくれてるだけだ」


「……そうなの、ハリー?」


「まさか。心の底から**に同意してるよ」


「だめだフレッド、ハリーは使いものにならない」


「うーん、我らが妹はハリー限定で絶大な影響力を発揮するなあ」


 やれやれと肩を竦めて首を振り、双子は歩き出した。よそに行くらしい。その背中に「いーっ」として、**はふとハリーを見た。


「そういえば、ハリーはダンスパーティーだれと行くの?」


「ま、まだ誘ってない」


「えっ、何やってるの! もう女の子はみんな相手決まっちゃってるよ!」


「えっ、**も決まっちゃってるの?」


「ううん。踊る気ないし、ハーマイオニーと壁の花するつもりだったもん」


「そ、そっか。よかっ、」


「それよりハリーの相手見つけなきゃ。待ってて、とりあえずジニーに聞いてくる!」


「あ、ちょっ、待って!」


 パッと立ち上がった**の手を、ハリーは咄嗟に掴んだ。いまにも駆け出そうとしていた**が動きを止め、不思議そうにハリーを見上げてくる。ハリーは自分の心臓がバクバクしだすのを感じた。


「あ、のさ。僕、誘いたい子がいて。その子、まだ相手いないみたいで」


「そうなの? よかったじゃない、大チャンス! じゃあいまからその子のとこ行こうよ。なんなら私、呼び出し手伝うし」


「え、と。僕、**と行きたいんだけど」


「え? うん、だから誘いに行くの付き合うってば。大丈夫だよ、フレッドとジョージとかマルフォイとかが邪魔しにきても撃退するから!」


「………」


 あれ、なんでだろう、伝わらない。天然なのか鈍感なのか、それとも自分は完全対象外ってことだろうか……。ハリーは切なくなった。しかし、ここでは引けないのだ。ここで誘わずにいつ誘うのか。


 ぎゅっと**の手を握りしめて、ハリーは**の目を見つめた。**は「なに?」と首を傾げる。ハリーはありったけの勇気を振り絞って言葉を発した。


「僕、**が好きだ。だから、**、僕とダンスパーティーに行ってくれないか」


 ……言えた。誘えた。がんばった僕。第一関門突破だ。ハリーが人知れず感動を覚えている眼前で、**はきょとんと瞬きを繰り返し、やがて首を傾げた。


「予習してるの?」


「……ち、ちがうよ! 本気!」


 ハリーは焦って否定した。冗談にされるとか、それこそ冗談じゃない。思わず大声を出してしまったハリーを見つめて、**は「本気……」と呟いた。数秒後、その顔がボッと赤くなった。


「えっ、えっ? ちょっ、嘘?!」


「嘘じゃないよ! 本気だってば!」


「ムリ、信じられない! だって私だよ?! ジニーみたく美人じゃないし、ビルやパーシーみたいに頭よくないし、チャーリーとちがって運動神経よくないし、フレッドとジョージほど明るくおもしろくないよ! 好かれる要素ない!」


「あるよ! **のいいとこなんて、僕がこの三年ちょっとで数え切れないほどいっぱい見つけてる。だから、好かれる要素ないとか言わないでよ」


 懸命に言い募るハリーから、**は一歩下がった。髪に負けないくらい真っ赤な顔で、口がパクパクしている。ハリーは空いた距離を詰めるように一歩近づいた。


「……本気だよ。**が好きだ」


 突然、**がバッと両手で顔を覆った。ハリーの手が衝撃で離れる。行き場を失った手を空中で静止させて硬直するハリーの耳に、小さな声が届いた。


「……夢みたい。すごく、うれしい」


 言葉の意味を理解した瞬間、ハリーの腕が勝手に**を引き寄せて抱きしめていた。




**あとがき**

 K.Hの手記様リクエスト“ロン成り代わり女主でハリー夢”でした。恋愛要素があるか指定はされていなかったのですが、入れてしまいました。いつも書いてる「世界」主とちがった初々しい反応が書けて楽しかったです。

 女の子になるとクラムに対する嫉妬が書けなくなるんですが、書きたかったので「親友が取られて拗ねる」感じで書きました。でも書いた意味がイマイチなかった。だめだめだ。

 原作のロンが「鈍感」「恋愛経験なし」という感じだったので、この話の夢主もそんな感じになってもらいました。どこの少女漫画少年漫画の天然鈍感ヒロインだってくらいに書きました。そこと双子にいじられるあたりにロンっぽさが出てるとうれしいです。(チェスシーンがうまく入らなかったものでして……)



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