「リン、今日もかわいいね!」


 まったく同じタイミングで、同じ言葉を発した、同じ顔。にこにこ愛想のよい二つの笑顔を前に、リンは内心「またか」と溜め息をついた。


「おはよう、フレッド、ジョージ」


「ああ、おはよう!」


「一緒に朝食を食べないかい?」


「俺の隣に座ってさ」


「バカ、リンは俺の隣に座るんだ」


「バカはそっちだろ。リンは俺の隣だ」


「いいや俺だ」


「俺だ」


「俺!」


 バチバチと火花を散らして睨み合う双子に、リンは辟易した。肩の上にいるスイもウンザリした顔をしている。放置してハンナたちと席に着こうとしたリンは、振り返って瞬きをした。友人たちがいない。


 視線を巡らせると、ハンナたちはすでに朝食を取っていた。ただし、ジャスティンはなぜか気絶して机に突っ伏している。不意に目が合ったベティがグッと親指を立ててくることから判断して、ほかの五人が何かしたらしい。眉を寄せて一歩そちらに踏み出したとき、両腕が何かに掴まれた。


「どこ行くんだい、リン」


「君のために争っている俺たちを置いて、ほかの誰かと食べるつもりかい?」


「なんて罪作りな女の子なんだ、リンは」


「……じゃあ早く席順を決めてくれる」


「それが決まらないんだよ、誰かさんが頑固なせいで!」


 最後のセリフは、見事な異口同音であった。声の調子まで一緒だ。それだけ息が合っていて、なぜスムーズに事が運べないのか……いや、あまりにも似すぎているからこそ、妥協点が見つからないのか。


 なんて思いながら、リンは腕時計を見た。彼らから挨拶をもらって、もう五分近く経過している。このくだらない言い争いで五分も無駄になったのか。怒りを通り越して呆れる。


「……私が間に入って、三人で並ぶっていうのは?」


「ダメ。俺たち、お互いとも並んで食べたいんだ。なあ、相棒」


「そうとも。つまり俺たち、リンと相棒とに挟まれて食べたいんだ」


 めんどくさい。意味が分からない。リンは思った。スイも同様らしい。大振りに尻尾が揺れている。はぁと溜め息をこぼして、リンは妥協案を提案した。


「じゃあ、三人で円形に座って食べよう」


 一瞬の静止ののち、双子が「さすがリン! 頭いい!」と叫び、この問題は解決した。



 そして場所を移動し、一行は厨房で朝食を取っていた。甲斐甲斐しく給事をする屋敷しもべ妖精たちというオプション付きである。すごく居たたまれないとリンは感じた。


 ふだん(日本の家で)自分が給事する立場であるため、余計に居心地が落ち着かない。何人もの給事たちに見られるなか平然と食事をしている双子とスイの神経はすごい。


「リン、食欲ないのかい? あんまり食べてないけど」


 不意にジョージが言った。リンの皿にある料理が減っていないのを見て、心配そうに眉をかすかに下げる。その横からフレッドが、ベーコンを突き刺したフォークを差し出してきた。


「ほら、リン、あーん」


「………」


「……あー、ほら、リン、これ食えよ」


 瞬きをするだけで動かないリンと、尻尾をヒュッと振り下ろしてフレッドの腕を叩いたスイ。数秒の沈黙ののち、見かねたジョージがバターロールを差し出す。リンは礼を言ってそれを受け取り、口に運んだ。途端、フレッドが泣き真似を始めた。


「ひどいぜ、リン! 俺の愛は拒んで、ジョージの愛だけ受け取るなんて!」


「いや、ベーコンは油っこいし餌付けされるの慣れてないしで、いまいち反応しづらかっただけ。愛だなんて大層なこと考えてない」


 泣き真似に動じず淡々と述べるリンに対し、フレッドとジョージが「餌付けって」と笑う。微妙に反応する箇所がズレてるなと、第三者のスイは思った。というか、フレッドの立ち直りが早すぎる。嘘泣きだからこそだろうが。


 下からのアングルで見やれば、フレッドはフォークを片手に頬杖をつき、楽しそうにリンに話しかけていた。ジョージの方は、料理を咀嚼しながら二人の会話に耳を傾けている。性格が表れるものである。


 スイがぶどうジュースを飲んだとき、ふと静寂が訪れた。何事かと顔を上げると、三人ともせっせと料理を食べていた。それぞれの食事に集中し始めたらしい。スイはのんびりと尻尾を揺らす。


 みんなで黙々と食べているさまは、なぜか見ていてかわいらしい。そんな感想を抱いて、スイは「自分も年だなあ」と切ない感傷に浸ったのだった。



 朝食を終えて厨房を出て授業に向かう途中、リンは腕時計を見た。始業ベルが鳴るまで、あと十分ほどだ。少しだけ急いだほうがいいかもしれない。そう思っていると、廊下の分岐点に差しかかった。ここで双子と別れる予定だ。


「じゃあな、リン」


「授業がんばれよ」


「うん。君たちも授業がんばってね」


「任せろ。いかにスネイプを怒らせるかに全力を費やしてくるぜ」


「……ほどほどにね」


「大丈夫さ。そのあとのビンズの授業で休憩が取れるからな」


 ……そういう意味の「ほどほどに」ではないんだけど。リンは思ったが、何も言わないでおくことにした。こちらが何を言ったところで、彼らは自分たちのしたいように行動するだけだろう。


 手を振って、階段に足をかける。そのとき、双子に名前を呼ばれた。振り返ると、双子がリンを見つめていた。リンと目が合うと、いったんリンから視線を外して互いに目を見合わせ、わざとらしく「せーの」と口をそろえる。


「大好きだぜ、リン!」


 ニッと笑顔が向けられる。リンは目を丸くして、それから頬を染めて、ふいと顔を背けた。足早に階段を上る最中、背後から「よっしゃ!」「リンの照れ姿ゲット!」とハイタッチする音が聞こえたが、聞こえないフリをした。


 手の甲を口元に当てて顔を隠しながら駆けるリンの肩の上で、スイが尻尾を一振りした。




**あとがき**

 ナツキ様リクエスト“「世界」で双子に好意を寄せられてて奪い愛される話”でした。「甘い感じで、ギャグっぽいものも入っていたら嬉しい」とのことでしたので、そんな感じを目指して書いてみました。ご要望にお応えできているでしょうか……。

 (一応)恋愛的好意のつもりで執筆していたのですが、なぜか友情的好意っぽくなってしまいました。なぜでしょう。ギャグ(?)要素のせいですかね。むずかしい。

 奪い合い、じゃない、奪い愛ですが、フレッドのほうが攻めでジョージは少し控えめな感じに書きました。なんとなくそんなイメージを持っていたので。ナツキ様のイメージと違いましたら申し訳ないです。



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