| 「ねえ、リン、僕らが付き合ってるってこと、いつみんなにバラす?」
二人きり(ただしスイが間にいる)の室内で、ハリーが聞いてきた。読書をしていたリンは、意識を本から外してハリーへと向け、間髪入れず、思ったより近くにあった彼の顔に驚いて身体をひいた。
「なんで避けるんだい? いい加減に慣れてよ、僕ら恋人同士だよ?」
「ご、ごめん」
不満げな顔で言うハリーに謝罪して、リンは身じろいだ。すぐ傍にある体温が落ち着かない。とりあえず栞を挟んで本を閉じ、その表紙の縁に指先をかける。そわそわするリンを見て、スイが尻尾を振った。
「話を戻すけど、ハリー」
「うん」
「付き合ってること、隠してたの?」
「ううん。ただ、付き合ってすぐは屋敷の大掃除とか監督生のお祝いとか、学校に戻ったらアンブリッジの虐めとの戦いとかに邪魔されて、報告するタイミングを逃してたから」
「たしかに報告というか宣言みたいなことはしてないけど……でもみんな薄々気づいてるんじゃないかな」
「いや、けっこう気づいてないよ。この前、双子が僕に『いつリンに告白するんだ?』『早くしないと』とか言ってきたし。ロンとハーマイオニーまで便乗してきて、疲れたよ」
思い出したのか溜め息をつくハリーに「ご愁傷様」と返し、リンも思案した。たしかに、ハリーの言う通り、みんな気づいていないかもしれない。ハンナたちも気づいているような素振りを見せないし。というか、気づいたら女子三人が騒ぐだろう。
「……なんで気づかないんだろ」
「そりゃあ、リンがいちゃつくのを嫌がるからだろ? 僕らキスすら一回もしてないよ」
再び不満顔をしてハリーが呟いた。リンの頬が染まり、スイがニヤニヤ笑いを浮かべる。スイの頭を軽く叩いて、リンはハリーへと視線を向けて「だって」と声を上げた。
「ひととベタベタするの慣れないし、そもそもあまり人前でするものじゃないでしょう」
「二人きりのときでさえ、あんまり恋人らしいことさせてくれないじゃん。双子とかシリウスとかルーピンには触らせてるくせに」
「あれは、向こうが勝手に触ってくるんだよ」
「……じゃあ僕も勝手に触る」
「え、」
ずいっと近寄ってくるハリーに、リンは慌てる。腰かけているベッドから立ち上がろうとしたが、その前にハリーが彼女の腕を掴んだ。
「……逃げないでよ」
囁いて、ハリーは、本を握っているほうの手も押さえてきた。蚊帳の外になってしまったスイは「ハリーが珍しく攻めてる」と呑気に観賞する。攻めるというより、拗ねて自棄になっているだけだが。
「……キスしてもいい?」
こつんと額同士を合わせて、ハリーが囁いた。勝手になどと言っていたくせに結局紳士なのかとスイはおもしろがるが、リンはそれどころじゃない。視界をアップで占領され、顔を真っ赤にしている。
「……我慢できないから、しちゃうよ」
ハリーが顔を傾ける。リンは咄嗟に目を閉じた。そのすぐあと、柔らかいものが唇に触れ、数秒で離れた。リンは目を開けた。緑の目と視線がかち合う。ハリーの顔も真っ赤だった。
「………もっかいしてもいい?」
「……う、ん」
小さく頷いて、リンは目を閉じた。眼鏡が外される音がして、再び唇が重ねられる。また数秒のち離れるかと思ったら、角度が変えられるだけで離れない。リンがハリーの服を掴むと同時に、恐る恐るとハリーの唇がリンの唇を軽く食んだ。
びくっと思わず身体が跳ねる。リンが反射的に目を開けた直後、ハリーの唇と身体が勢いよく離れた。わたわたと眼鏡がかけられる。
「ご、ごめん! ちょっと、あの、つい、我慢できなくてっ、」
「いや、私もその、驚いちゃって、あの、ごめん……」
二人そろって真っ赤な顔で口元を押さえる。その様子を見て、スイは思いきりシーツに突っ伏して身体を震わせた。なんだこいつら、うぶすぎてかわいい。触れるだけのキスで真っ赤とか、かわいすぎる。
スイが悶え苦しんでいる間、ハリーとリンは目を見合わせた。「どうしよう、もっかい仕切り直す?」「……いいけど、でも恥ずかしいね」「でも、なんか……なんていうか、幸せな気分だった」「……うん」などと会話が交わされる。
やめろボクを殺す気か。かわいらしい会話を聞きながら、スイはさらに身体を震わせた。見てる(聞いてる)こちらが恥ずかしい。
ハリーとリンがそわそわして、そのくせ何もアクションを起こさずにいること数十秒。「だぁっ、もう!!」という大声が二人(と、スイ)の身体を跳ねさせ、部屋の中の空気をぶち壊した。とどめとばかりにバァンとドアが開けられる。
「するのかしないのかどっちだ、はっきりしろ!! 見てるこっちがヤキモキするだろう!! おまけにハリー!! なんだ、あのキスは!! 子どもじゃあるまいし、男ならもっと、ごふっ!!」
「おめでとう、そして邪魔してすまない二人とも。シリウスは私が責任を持って叱っておくから、気にせず続けてくれ。さあみんな撤収だ」
「えー、俺たちもっと見てたいんだけど」
「そうだぜ、ハリーとリンのラブシーンだぞ?」
「見なきゃ損よ。ねえ、ハーマイオニー」
「わ、私はもういいわ」
「僕もだ。おい、君らもそっとしとけよ」
「モリー! 今日の夕飯は豪華にしない? お祝いパーティーしよう! 私も手伝うからさ!」
「いい案ね、トンクス! でも手伝いは遠慮するわ……」
派手に吠えるシリウスを殴って黙らせ、爽やかな笑顔でリーマスがドアを閉めた。そのドアの向こうから、たくさんの声が聞こえる。どうやらシリウスやリーマス、ウィーズリー家をはじめとして、騎士団本部で見かけるメンバーのほとんどがドアの隙間から盗み見をしていたらしい。
声が聞こえなくなってしばらくして、ハリーが呟いた。
「……僕、ちょっとシリウスたちのこと嫌いになったかもしれない」
無言で頷くリンを見やって、スイはひょいと尻尾を振った。
**あとがき**
藍璃様リクエスト“もし世界主とハリーが恋人になったら(甘)”でした。甘くできたかどうかは自信持てませんが、とりあえず初キス場面を書けたので sincere は満足です。唇食むまでが限界でした。それ以上したら止まらなくなる。ハリーが ←
付き合って一定期間が経ったら、ハリーは急に大胆になると思います。抱きしめたいなキスしたいなって思い始める。そういうことが苦手な「世界」主に遠慮するけど、いつか我慢できなくなる。そんなイメージ。でもふだんはハリーのほうがドキドキする側だといい。「世界」主の何気ない言葉にときめいてたりするといい。私得。
乱入したシリウスあんなこと言ってますが、覗き見して一番(小声で)騒いでたの彼ですから。「よっしゃ! いったぁぁあ! キスした!!」「シリウスうるさい、シレンシオ」みたいな。
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