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 柔らかな声で名前を呼ばれて、顔を上げる。とびきり優しそうな顔をした彼が、自分に手を差し出している。もう一度名前を呼ばれる。そして、好きだよ、と言われた。

 パッと目を開く。視界に入ったのは見慣れた天井で、視線を滑らせても誰もいない。時計を見る。いつもの起床時刻より一時間以上早い。寝直そう。リンは目を閉じた。



 同じことを二回繰り返して、リンは耐えられなくなって起き上がった。もう起きてしまおう。支度を整えてキッチンに向かうと、ウィーズリー夫人とディゴリー夫人が仲良くおしゃべりしながら朝食の用意をしていた。だいぶ見慣れてきた光景だ。彼女たちと挨拶を交わして、リンもいつも通りサラダを作り始めた。

 トライウィザード・トーナメントで辛くも生還した息子に何か思うところがあったらしく、ディゴリー夫妻は「不死鳥の騎士団」に加わり、ウィーズリー家と同じく子どもたちの夏休み期間中は本部で生活することにした。メイガや他のヴォルデモートの配下たちが良からぬことを画策していないか調べる必要があるとか何とか。騎士団に入らずとも騎士団員が警護するなら本部に滞在する必要はないのではと、シリウスが何やら騒いでいたが、最終的に否決されていた。リンにはよく分からない。とにかくみんなで共同生活となり、実に賑やかだった。

「おはようございます」

 ぼんやり考えていたら、セドリックが入ってきた。いつもよりかなり早い。ドギマギしつつ、リンは夫人たちと一緒に挨拶を返した。セドリックが手伝いを申し出たが、彼が充分な睡眠をとれていないことを察したディゴリー夫人に却下され、リンと一緒に座ってホットミルクを飲んでいるように言われていた。

「いえ、私は大丈夫です」

「あなたもいつもより早かったから、その分早く休んでいいのよ」

「そうしなさい、リン。よく見たらあなたも眠れなかった顔をしてるわ」

 ウィーズリー夫人にまで言われてしまった。仕方なくホットミルクを受け取って、食卓に向かう。セドリックが立ったままリンを待っていた。

「……座ってて良かったのに」

「僕が先に座ったら、リンが離れた席に座るんじゃないかと思って」

「……」

 正解である。なんだか最近のセドリックはビルに似てきている気がする。リンはギュッと唇を結んで、適当な席に着いた。その隣の椅子を、セドリックが引く。リンは思わず彼を見上げた。

「隣? 正面じゃなくて?」

「……寒いから。っていうのは言い訳で、ただ君の隣にいたくて。迷惑かな」

「……緊張するから困るけど……迷惑では、ない、というか」

「ありがとう」

 セドリックは嬉しそうに笑って着席した。自分がごちゃごちゃ考えずにまっすぐ気持ちを伝えれば、リンも嘘をつかない。彼女が赤面してもごもごしている間に言質を取れた時点で行動してしまえばいい。皮肉だが恋敵の言動から学んだ。プライドとか恥とか言っている間に取られてしまうほうが嫌だった。両親に発破をかけられたのもある。

「よく眠れなかったみたいだけど、大丈夫かい? 悩みでもあった?」

「……心臓に悪い夢を三度も見たので、目が覚めてしまって」

 ちらりと横目でリンを見ると、頬が赤かった。どことなくそわそわしていて、目も揺れている。悪夢ではなさそうで安心したが、嫌な予感を覚えてしまう。

「好きな人の夢?」

 ポロッと口からこぼれた。我に返って口を閉じたセドリックの横で、リンはホットミルクが変なところに入りかけたらしく、咳き込んだ。慌てて彼女の背中を摩ってやりながら、大丈夫かと声をかける。リンが頷いて、涙がにじんだ目を上げる。目が合った。途端、彼女の顔が赤くなった。

「べつに、あなたが好きと決まったわけじゃ……」

「僕?」

「えっ?」

 沈黙が降りた。数秒して、まずセドリックが赤面した。それにつられるように、リンの頬もより深く染まる。口を開くが何も言わない……つまり否定しないリンを見て、セドリックは唾を呑んだ。

「あの、学期末にも伝えたけど……僕は、君の恋人になれるかな」

 期待と不安とをにじませた表情でそっと聞かれて、リンは困ってしまった。

「……性格、変わりました?」

「うん?」

 本部に来てから、以前よりたくさん目が合うし、よく話しかけられる。リンが何かをしていたら手伝ってくれる。階段で出会えば手を差し伸べられ、食卓で近くの席になればリンが座るときに椅子を引いてくれる(ディゴリー氏が夫人によくしているので、つられているんだろうとは思った)。リンと冗談交じりの会話をすることも増えて、年相応な表情もたくさん見せてきた。

「……」

 違うな、とリンは思った。変わったのはたぶんセドリックじゃない。リンはぎゅうと手に力を入れた。緊張する。

「……私も、あなたの恋人になれるでしょうか」

 セドリックは目を丸くして、心底嬉しそうに笑った。



「……おまえって実は父親似だったんだな」

 ホグワーツ特急のコンパートメントの中で、エドガーが呆れたという顔で言った。言われたセドリックは「そうかな」と首をかしげ、リンは赤い顔でエドガーに同意した。監督生用の車両から恋人繋ぎで連れ出され、挙句コンパートメントでセドリックの膝の上に乗せられるとは思わなかった。穴があったら入りたい。

「座席に菓子のゴミを積んでたのは悪かったよ。まさかリンを連れてくるとは思わなかったからさ」

「ほら、片づけたから、一人で座席に座らせてやれよ」

「でもゴミがあった席にリンを座らせるのはちょっと……」

「おまえがそこ座って、そっちにリンを座らせればいいだろ」

 セドリックはきょとんとしたあと、なるほどと頷いた。エドガーとローレンスは疲れた顔をした。ロバートは「俺も恋人ほしい」と呟いてエドガーに足を蹴られた。

「つかリン探されてね? ジャスティンとか発狂してんじゃねーの」

「アーニーに伝えたから大丈夫だと思うよ。リン、何か食べるかい」

 今頃友人たちを相手に苦労しているであろうアーニーに思いを馳せて、エドガーは今度会ったら蛙チョコレートでもあげようと思った。目の前では、お菓子の話からどう転がったのか、セドリックがリンの髪を指で軽く梳きながら楽しそうに笑っていて、リンは赤い顔を片手で覆って隠そうとしている。ちなみに片手はセドリックと恋人繋ぎされている。俺たちは何を見せられているんだ。半ば真顔になりながら見守っていると、セドリックが目を細めてリンへと顔を近づける。

 スイがリンの膝の上から跳んでセドリックの胸へと激突した。ちなみにずっとリンの肩や膝の上にいた。先ほどまで完全に空気になっていたが、さすがに抗議する気になったらしい。うっと呻くセドリックにフンと鼻を鳴らして、スイはリンの肩に上った。べつに敵意はないが、リンの羞恥心への配慮は必要だと思う。やれやれと首を振って、未だに赤面しているリンの背を、労わるようにポンポンとした。


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 本編4章で告白してたら、みたいな。本編よりかなり積極的なセドリックを意識してみました。自分の中でのセドリックのイメージが崩れないギリギリ。思春期相応にプライドとか恥は持ってそうな印象ですが、ifなのでということで。



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