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「リン、僕が持つよ」

「軽いから平気」

「リン」

「……」

 じっと縋るように見つめられて、リンはそっとため息をついた。畳んだタオル数枚なのに。しかし、こういう目をしたセドリックが折れないことは分かっているので、諦めてタオルを彼に渡す。セドリックはホッとした顔をした。

「あとの家事は僕に任せて、休んでて」

「でも、じっとしてると落ち着かないし……」

「お腹の子に何かあったら大変じゃないか」

「そんなにやわじゃないと思うよ」

「父親心なんだ。お願いだ、リン」

「……はい」

 根負けして、リンはソファにそっと腰を下ろした。せっせと動き回るセドリックを目で追いながら、丸い腹を撫でる。

(君だって、ぐうたらな母親は嫌だよね)

 返事はなかった。当然である。

 どこかの魔女が妊娠中に家事をしていて転んで母子ともに危うい事態になったらしい。そんな話を耳にして以来、セドリックの過保護に拍車がかかった。元々心配性なところがあり、妊娠が分かってから安定期に入るまでも面倒…とても過保護だった。

 いざとなったら超能力を使うから転んだり怪我したりするような事態にはならない。リンはそうと思っているが、セドリックはそれでも心配らしい。ジンですら……いや、彼も自分の妻が妊娠しているときはすごかったっけ。色々と思い出して、リンはふうと息をついた。

 ヨシノの血を引いている子はかなり丈夫らしいから、そこまで気にしなくてもいいだろうに。特に問題ないと思う。アキヒトの妻はたしか、第二子の妊娠中、ヒロトを襲った低級妖怪の群れを成敗したとかいう武勇伝を持っていた。いやでも、アキヒトもそれを知って真っ青になってすぐさま医者を呼んだとか。……どこの夫婦も似たようなものということだろうか。

 なんてつらつら考えていたら、なんだか眠くなってきた。昨夜も充分に睡眠をとったはずなのに。セドリックが頑張って家事をしてくれているんだから、ここで寝るのは申し訳ない。

「……眠いのかい?」

 うつらうつらしているリンに気づいて、セドリックが近づいてきた。うんともううんとも取れる声を出すリンに笑みをこぼして、ブランケットを呼び寄せ、ふわりとリンにかけた。

「夕飯まで寝てていいよ」

 隣に腰かけて、リンの肩に腕を回し、そっと引き寄せる。寝落ちしたくないリンがもぞもぞと抵抗した。セドリックが小さく笑う。かわいい。頭をぽふぽふとしてやった。

「……ねたく、ない」

「眠いときは寝たほうがいいと思うよ」

「いや」

 ほとんど眠りかけているくせに眉間に皺を寄せるリンを見て、セドリックはまた笑ってしまった。たぶん、セドリックに家事を押しつけて惰眠を貪るなんて自分を許せないとでも思っているんだろう。まじめな子だと思う。友人たちによると、セドリックもバカみたいにまじめなところがあるので、似た者同士らしいが。

 すり、と頭をリンの頭に寄せる。髪を指で梳くと、リンが不服そうに小さく唸った。セドリックが寝かしつけようとしているのが分かったみたいだ。無駄な抵抗はやめて大人しく寝てほしい。また頭をぽふぽふとしていると、唐突にリンが目を開けた。

「……会話、しましょう」

「えっ?」

「眠気覚ましに付き合って」

 そうまでして寝たくないなんて、いったい何と戦ってるんだろう。たまにセドリックはリンのことが分からなくなる。余談だが、セドリックも時おり似たようなことをしてリンを困惑させることがあるので、本当にどっちもどっちである。お互い自覚はあまりないが。

 それはともかく、どうしようか。セドリックは迷った。セドリックとしては、疲れているだろうリンには寝てほしい。しかしリンは寝たくないらしい。むずかしい。

「えっと……じゃあ、僕が話すね」

 迷いながら、ひとまず自分が話し手になると提案する。リンが話し手になると寝ないだろうから。しかし何を話そうか。どうせなら、楽しい話、おもしろい話のほうがいいだろう。じゃあ、先日のあれを話そう。

「先日、ちょっとおもしろいことがあったんだ」

「うん」

「同僚と『漏れ鍋』に行って、ウイスキーを頼んだんだ」

「うん」

「そのとき、少し離れたテーブルに小鬼が一人と魔法使いが二人いて、何やら話してたんだ。どうやら楽しい話だったみたいで、時おり三人そろって笑ってた。僕たちは何の話をしてるんだろうって気になったよ。だって、小鬼がジョークで笑うとかってあまりないから」

「うん……」

「でも内容はよく聞こえなかったし、気になるからって聞き耳を立てるのもマナーが悪いから、じゃあ推測してみるだけにしようってなって」

「うん……」

「同僚は、あ、彼は明るくておもしろいことをよく言うひとなんだけど、そのときの推測もすごく楽しくて」

「んー……」

「僕なんて、おもしろいことは何も言えなくて、だんだん恥ずかしくなって。それで、えっと……おもしろいことは言えなかったんだけど、彼が思わず笑ってしまうような、おもしろいことはしてしまったというか、なんていうか……彼が、家族に話してみたらきっと笑うだろうって言ったから、リンもおもしろく思うと思うんだけど、……あれ?」

 セドリックは恥ずかしそうに頬を染めながらリンを見て、キョトンとした。リンはいつの間にかすよすよと寝ていた。

 補足すると、セドリックはおもしろい話をするということが下手だった。エドガーや双子をはじめ、知人みんなのお墨付きである。前置きが長すぎてフラグも上手く散りばめられないのでオチが一向に見えず、聞く側がだんだん何の話を聞いているのか分からなくなる。いつものリンなら根気よく聞いていてくれるのだが、眠いときに聞くと睡魔の味方になるだけだった。

(……とりあえず、移動しよう)

 セドリックは浮遊魔法を使ってリンを寝室まで運ぶ。なるべく静かに、優しく。母子に何かあったら嫌だし、そんな事態になったら貴様の魂を地獄に落とすとジンに脅されている。彼なら絶対にやる。

 リンをそっとベッドに寝かせて、顔にかかる髪をよけてやる。相変わらずきれいな寝顔だなあと思う。頬を撫でるとすり寄ってきたので、セドリックの口から小さなうめき声が漏れた。かわいい。

 意味もなく咳払いをしたあと、セドリックは立ち上がった。しかしそのまま停止し、数秒して振り返り、リンの額にキスをした。


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 途中で方向性を見失いました。過保護を描写できたのは最初だけでしたね…。眠い夢主を寝かしつけるセドリックは書けたけど、なんか色々迷走しました。



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