「イツル、おまえ女心って分かるか」

「女性の心情を指す言葉だね」

「おまえに聞いたオレがバカだったわ」

「ちょっとした冗談じゃん」

 はたけさんには吹き出されて、シカマルには心底苛立ってますという顔をされた。解せない。重苦しいオーラをまとっていたから、少しでも軽くしてあげようという心遣いだったのに。

「ていうか火影の執務室で任務報告してる忍に火影補佐が投げかける質問じゃないでしょ。TPO考えてよ」

「それはワリィと思ってっけど、仕方ねーだろ。おまえとゆっくり話す時間取れねーんだからよ」

「二人とも忙しいもんね」

「………」

 シカマルが無言ではたけさんを見た。はたけさんが乾いた笑みをこぼして、書類を持ち上げて向き合う。また何か休憩中にやらかして𠮟られたらしい。いったんスイッチが切れるとフワフワゆるゆるするクセをそろそろ直したほうがいい気がする。

「ときにシカマル」

「あ?」

「二人で食事に行って『おいしいな』って話を振るのに『ん』とか『おー』で会話終了して食事だけに集中されるのムカつくって、風影の姉君から愚痴を聞いたんだけど、君のさっきの質問に関係してる?」

「そっちかよ! オレぁてっきり買い物中に『どう』って聞かれたとき『べつに』とか『いーんじゃね』って返しちまうのに怒られてんだと……」

「そっちはね、たぶんもう怒りを通り越して見限られてるんだと思うよ」

 ていうか自覚あるなら改めればいいのに。うつむいて盛大にため息を吐き出すシカマルを見てたら、はたけさんが「いやー……」と声を震わせる。

「シカマルの頭脳でも導き出せない答えってあるんだね」

「あんたは無駄口たたいてないで仕事しろ」

 しゅんとした雰囲気で、はたけさんが書類に視線を戻した。なんだろう、かわいい。火影相手に使う形容詞じゃないことは分かってるけど。これが癒し系。え?違いますかね、そうですか。まぁそれは置いておこう。

「食事中の会話はマナーとか時間の面から見てグレーゾーンかもだけど、デート中に相手から話を振られたら膨らませる努力をしないと、関係が冷めていきかねないよ」

 あ、これ、ご飯が冷めるって表現とかけて何か上手いこと言えないかな。思いついたので考えてみる。寒くならない程度に、でも上手いって言ってもらえる程度に。……意外とむずかしい。

 悩んでるあいだに次の訪問者がきたので、上手いことは何も言えないまま去った。遺憾。

**

 女心云々の話をしてから、半月くらいたったころ。のんびり白銀と散歩してたら、いのにつかまった。

「シカマルのデート尾行するから結界貸して!」

「えー……」

 シカマルはともかくテマリさんがかわいそう。と思ったけど、いのの後ろでチョウジがなんでかボロボロで困り顔をしてたので、協力することにした。恋愛に関して女子には逆らうべからず。やれやれと白銀を見たら、いなかった。ひどい裏切りに遭った。

「……ちなみにどんなデートしてるの?」

「えーなんかフツー。ご飯食べて、今いろいろお店見て回ってるとこー」

 どことなく不満そうないの。相づちに困る。デートなんて無難がいちばんだと思う。私この世界でデートしたことないから相場とか分からないけど。

「ふつうでも上出来じゃない?シカマルにしたら。ねぇチョウジ」

「うん、シカマルはがんばってると思う」

「でも手もつながないのよ?!」

「まだボクらには早いんじゃないかな……」

「片手ふさがってるとしばしば不便だしね」

「もーほんっとウチの班員どもは!」

 なんでか怒られた。チョウジと顔を見合わせる。チョウジもわけ分からないって顔をしてた。よかった、私だけ置いていかれてるわけじゃなかった。ひっそり感動。いののぼやきをスルーして(チョウジは律儀につき合ってた)、シカマルを見る。テマリさんと何やら話してた。さすがに結界使ってまで盗聴はしたくないので、我慢。

「あ。手つなぎそう」

「え?!!」

「えっ?!!」

 いのとチョウジがそろって振り返って、結界に張りつく勢いでのぞき込む。視線の先では、シカマルが首の後ろを掻きながら、片手をテマリさんに差し出してた。テマリさんも頬を染めて、シカマルを見つめてる。それから、ちょっと照れくさそうに笑って、そっと手を重ねた。甘酸っぱい。決定的現場を目撃してしまいました。

「やだやるじゃないシカマルったら!」

「お、お祝い! お祝いしよう!」

「バカね、お祝いするならせめてハグとキスまでしてからよ!」

「えっハグとキスまで見守らなきゃいけないの?」

 さすがにそこまで観察するのは、二人の何かを侵害してしまう気がする。悩んでたら「そこまではしないわよ、シカマルのなんて見ても参考にならないし」いのがため息をついた。何の参考にするんだろう。サイかな。

「ねー、いの……ボクもう帰ってもいい? これ以上はシカマルに悪いし……」

「あぁうん、いいわよ。私も満足したし」

 お許しが出たので、テキトーに二人と反対方向に進んでから結界を解いた。それから三人で団子を食べることになって、茶屋に寄り道。チョウジが食べ終わるのを待ってたら、図らずもシカマルとテマリさんと遭遇。電光石火、二人の手が離れる。見なかったフリをしようとした私の横で、いのがニヤニヤした。

「シカマルってば、昼間の商店街でずいぶんと見せつけてくれるわね〜」

「うっせ」

「テマリさん、さっきの表情とてもかわいかったですよ」

「は?!! そ、そんな顔に出て、あ、いや! いつも通りの顔しかしてない!」

 わたわたするテマリさんがおもしろい。思わず笑みをこぼしたら「おい、その人からかうなよ」シカマルに釘を刺された。肩をすくめる。

「……愛されてますね、テマリさん」

 なんとなく言ってみたら、テマリさんがじわじわ頬を染めた。シカマルも頬を薄く染めて「うっせーよ!」と怒鳴る。いのと顔を見合わせたら、何とも言えない渋さの表情を浮かべてた。たぶん私も似たような感じだろうな。

「もうお邪魔しないから、二人で楽しんでおいでよ」

「……おー」

「ま、またな」

 シカマルとテマリさんを見送って、ため息。単体ならともかく、二人一緒に冷やかしたり見守ったりするのは居心地が悪い。今度から頼まれても尾行はやめよう。


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 二人にとって夢主はちょうどいい距離感と性格なので、いろいろ相談とか愚痴とかしてくる。いのも、それを知ってて尾行とかに巻き込んでくる。チョウジは完全とばっちり。そんなイメージ。



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