「三人仲良く同じ寮でよかったな!」 「うふふ、僕たち仲良しだもの。ねー、リン」 「そうだね、仲良しだね」 両隣でニコニコとご機嫌なケイとヒロトに、リンは無難に相槌を打った。組み分け帽子はグリフィンドールかハッフルパフかで少し迷っていたので、もしかしたら離れていた可能性もあるが、まあ言わなくていいだろう。ちなみに伯父とジンも、二人のことをしっかり制御するようリンに言ってきたので、同じ寮だと思われていたんだと思う。そんなに仲良しに見えるかな。 リンと目が合い、視線だけで問われたスイは、しっかり頷いた。一緒に暮らしてこそいないが、顔を合わせれば一緒に遊んで勉強し、大事にならない程度の悪戯であれば一緒に計画して仕掛けて怒られる。これで仲良しじゃないと言われても困る。 「なあ、君たちってジンの兄弟なのか?」 翌朝三人で朝食をとっていたとき、後ろ(上)から声をかけられた。見上げると、まったく同じ顔をした赤毛のグリフィンドール生だった。 「わぁお、そっくりー」 「ご兄弟ですか?」 「双子さ。君らは三つ子?」 「そうだとよかったんですけど、あいにく母はみんな違うんです……」 「えっ」 「誤解です。父親も違います。従兄弟なんです」 目を伏せて力なく呟いたヒロトの足を軽く蹴って、リンが訂正した。ギョッとしていた双子が、一瞬キョトンとしたあと半眼になった。ケイとヒロトはキャッキャと笑っている。スイも半眼になった。 「……そういう悪ふざけはよくないぞ」 「おっしゃる通りです。お詫びいたします。ほら、ヒロト」 リンはヒロトの足をもう一度軽く蹴った。ヒロト(とついでにケイ)がごめんなさーいと口だけで謝罪した。たしなめたほうの双子がため息をついた。 「君らはジンの弟じゃなさそうだな。君が妹かい?」 「バカだな、ジョージ、むしろどっちかが弟だろ。俺らとパースみたいなもんだ。な」 「ええ、ケイがジン兄さんの弟で、私とヒロトは従兄弟です」 ほら見ろ。うるさい。とやり取りしたあと、双子がそろってこちらを見た。 「グリフィンドールへようこそ。俺たちはフレッドと」 「ジョージ・ウィーズリー。道が分からないとか、誰かにいじめられたとか、困ったことがあれば俺たちに言えよ」 「迷子は送り届けてやるし、いじめっ子には仕返ししてやるよ」 ケイ、ヒロト、リンは瞬きをした。それから、それぞれ違った表情で微笑む。 「お気遣いなく! 相応のお礼なら、自分たちでできるので!」 「それこそぉ、先方が涙するくらいキッチリと、ね」 「寮の評価を下げたり減点されたりしないよう上手く事を収めるので、ご安心ください」 フレッドが口笛を吹き、ジョージはちょっと不安そうな顔をした。分かるぞ、ジョージ。努めて空気になりながら、スイは内心で頷いた。 この三人、復讐は負の連鎖なのですべきでないとしても、泣き寝入りは己の価値を下げるのですべきでないという理論の持ち主なので、仕返しはキッチリする。リンも昔は仕返しするのも面倒だと相手を無視する傾向にあったのに、ケイとヒロトのお礼に付き合ううちに楽しくなったのか何なのか、近頃は一緒になって仕返しを計画実行している。スイはいつも泣きそうになる。 「ウィーズリー、うちの子どもたちに何か用か?」 淡々とした声が振ってきた。無表情のジンが双子を見つめている。双子が朗らかに挨拶したが、ジンは「ああ」とそっけなく返すだけだった。 「兄さん、ダメですよ! 挨拶には気持ちをこめて返さなきゃ!」 「そうですよぉ、無愛想な兄様にこんなに明るく挨拶してくださる同性の方々なんて多くないんですからぁ」 「西洋流にハグしましょう、ハグ!」 ジンの両拳がケイとヒロトの頭に落ちた。痛いと泣き真似をする二人の肩をポンとして、リンはアップルパイの最後の一切れに手を伸ばした。誰かの手と鉢合わせた。視線を上げる。赤毛の男子生徒だ。リンが手を引っ込める。 「どうぞ」 「僕こそいいよ! 君が食べなよ」 「あっちのテーブルのパイを取ってくるから大丈夫」 「僕が取ってくるよ!」 男子生徒が勢いよく立ち上がりすぎてテーブルにぶつかり、食器類が音を立て、グラスが傾く。リンが超能力でグラスを浮かせたのと同時に、男子生徒の隣にいた眼鏡の男子生徒がグラスを掴んで戻した。彼らの向かいにいる栗毛の女子生徒が「ロン!」と赤毛の男子生徒を睨んだ。スイもさすがに呆れた。 「何やってんだ、ロン。かわいい女の子と目が合って舞い上がっちゃったか?」 「うるさい!」 「ほら、リン、これ食べろよ。そのパイは今ロンの唾が飛んだからやめとけ」 フレッドがからかっている間に、ジョージがアップルパイを取ってきてくれた。優しい。お礼を言って受け取ると、ポンと頭をなぜかフレッドに撫でられた。すぐさまジンがその手を捻り上げた。フレッドの悲鳴をBGMに、リンは早速一口頬張る。美味しい。咀嚼していると視線を感じて、顔を向ける。ロンと目が合った。パイを飲み込む。 「さっきはお気遣いありがとうございました。私、リンです。どうぞよろしく」 「えっ……アー、僕、ロン・ウィーズリー。四年生。よろし…」 「ね、それおいしーい?」 ヒロトが唐突にくっついてきた。すでに口を開けているので、リンは一口分フォークに乗せて口に運んでやった。ケイも便乗して口を開けてきたので、同じように分けた。二人そろって美味しいと頬を緩ませて、フレッドにパイを取ってきてくれと頼む。図太い。スイは頬を引き攣らせた。フレッドは特に気にした風もなく、快くパイを取ってきてくれた。ちなみにジンは珍しく止めなかった。 「あ、ロン先輩、さっきは遮っちゃってごめんなさぁい。あまりにもおいしそうだったので、つい」 思い出したようにヒロトがロンにニコニコ笑いかけた。ちょうどアップルパイを大きく頬張ったロンが軽く咳き込む。わざとだな……とスイは思った。 「僕、ヒロトです。これからお世話になりまぁす」 「僕はケイです! よろしくお願いします!」 「ちなみに隣の眼鏡がハリー・ポッターで、向かいの栗毛の女の子がハーマイオニー・グレンジャーな」 「ハリーはうちのクィディッチ・チームのシーカーで、ハーマイオニーは学年主席だ」 「もし頼るならロンより二人に頼ったほうがいい」 「うるさいな! 割り込んでくるなよ!」 「おまえが二人を紹介しないから、優しい兄上たちがフォローしてやったんだ」 フレッドがいかにもまじめそうな顔で言った。ロンが抗議したが、ジンがおもむろに時計を確認してため息をつくと、自分に向けられたと思ったのかビクッとして黙った。しかしジンはロンに目もくれず、リンの頭をポンとした。 「そろそろ出ないと遅刻するぞ」 「はい。ケイ、ヒロト、食べ終わった?」 「んーふほひ」 もごもごと最後のひとかけらを咀嚼する二人にとジュースを注ぎ足して、リンはスイの頭をぽふぽふ撫でた。ジンが立ち去り、双子ものんびり歩き出す。ハリーたちも咀嚼しながら支度を整えている。 ひとまず、居心地は悪くない寮のようで安心だ。内心で満足げに頷いて、リンは立ち上がった。 **** ケイとヒロトと同い年で仲良く育った場合、夢主はグリフィンドールの素質が強くなると思います。頑張って想像したけどハッフルパフにいるのが想像できなかった。あの学年のハッフルパフ生は原作にあまり登場しないのもある。 本編と違ってジンは夢主と気まずい過去はないし、ハリーに恩を感じるエピソードや双子たちと絡むきっかけも特にないので、夢主には割と気さくに接するし、他の生徒には態度が淡泊。 Others Main Top |