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「ねぇシリウス、ちょっと聞きたいことが……ごめん出直す」

 ドアを開けた先に殺伐とした空間が広がっていたら、ドアを閉めて見なかったことにするのがふつうだと思う。しかし即行でドアが内側から開けられて、入ってくるよう促される。うわあ面倒事。と若干の憂鬱を感じながら、****は諦めて厨房に入った。

「今度は何事?」

 空いているシリウスの横に腰を下ろし、さっさと本題を問えば、ブラック家の家督相続の話だった。クリスマスの午前中からなんて重苦しい話題なんだろう。

「相続って、まだ早いんじゃ……」

「人間いつ死ぬか分からないぞ」

「そんなこと言わないでくださいよ、叔父上。俺シリウスにはもっと長生きしてほしい」

 あまり考えずに口に出すと、シリウスに「さすが俺の息子」と頭を撫でられた。なぜここで唐突に子ども扱い? 疑問符を飛ばしつつ、さりげなく手をどかす。思春期男子として単純に恥ずかしいし、絵面的にも怪しい。

 引き剥がされたシリウスは若干不満そうな顔をしたが、反対に満足そうなアキヒトとハルヨシを目にとめて、一転挑発的な笑みを浮かべた。

「どうだ、アキ、ハル。俺は****にちゃんと慕われてるぞ」

「そうだなあ、うちの****は本当に優しい子だろう?」

「うっかり油断してハメられて無様にも十二年間アズカバンに収容されていたような男をきちんと尊重してあげられるようなできた人間に育ってくれて喜ばしい限りだな」

 にこにこ口元だけで笑うアキヒトと、鉄壁の無表情で息継ぎなしの発言をかますハルヨシ。厨房の体感気温がまた数度下がったな。とジン(実はずっといた)が思った。まじめに居心地がよろしくない空間である。****は至って平然と「そんなできた人間じゃないですよ」と謙遜していたが。

「どこぞの男みたいに『だろ?』と自信満々に肯定しないのは本当にすばらしいな」

「そうか? 自己肯定感が低くてかわいそうに思えるけどな」

「貴様らの勝手な価値観で測るな。日本では謙遜は美徳だ」

「こっちじゃ浮くだろ」

「日本を拠点に生きていくなら問題ない」

「おい待てコラ。なに勝手に決めつけてんだよ」

「****は日本で生まれ育ち、日本人としてのアイデンティティを確立している。この点を踏まえると妥当な判断だと思うが」

「ホグワーツで友達ができて楽しく過ごしてるんだから、イギリスで暮らしたほうが幸せだろ」

「友情は国境を越えられる。それだけのために拠点をわざわざ移す必要性は感じない」

 ハルヨシとシリウスのあいだで、ポンポンと棘まみれの言葉が交わされる。憂鬱が溶けた息がジンの口から漏れる。その横でアキヒトはのんびりスコーンを頬張る。一方の****は伯父が饒舌なのは珍しいなあと場違いな感想を抱いていた。スイがいたら呆れ顔でたたいてくれそうだ。

「……相続の話はいいんですか」

 ため息まじりにジンが呟いた途端、会話がピタリと止む。息ピッタリだと考えた****を、大人三人が見つめてきた。****は首をかしげた。

「ブラックの跡を継げというなら、継いでもいいですけど」

「こらこら、早まるな。冷静に考えろ。この家だぞ? どう考えても絶やすべきだろ」

 快活な笑顔で容赦なくアキヒトがぶった切った。ハルヨシも無言でうなずく。シリウスは「俺だってそう思うさ」と苦々しげに呟いた。

「けど、この家を本部として使っていくなら話は別だ。確実に相続できる人間を指定しておかないと、最悪あの従姉の手に渡る」

「分かった。やつらの相続権をなくせばいいんだな。ベラトリックス嬢の息の根を止めるのはどうだ」

「叔父上」

「冗談だ」

 ジンの真顔を、アキヒトが笑顔で見つめ返す。いやどう聞いても冗談じゃなかっただろう……。ハルヨシは内心で呆れたが、ここで指摘するのもどうかと思ったので、胸のなかにしまっておくことにした。

「そもそもシリウスが生きててくれればそれで済むんじゃ?」

 ひょいと片手をあげて、****が言った。アキヒトが「それな」とうなずいたが、すぐに「でもシリウス頼りないからさ」とシリウスを見やる。シリウスが「悪かったな……」と半眼になった。

「べつにおまえに限らない。このご時世、誰がいつ死んでも不思議じゃないさ」

「ハル……」

「まぁその中でも群を抜いて無謀な直情型だから、おまえの生存率が低いという指摘は至極もっともだが」

「おまえやっぱり好きになれん」

 珍しく援護してきたかと思えば、数秒持たずにディスられた。イラッとしたシリウスが唸る犬のような体勢でハルヨシをにらむ。ハルヨシは平然と「俺も元々おまえと気が合うとは思っていない」と返す。

「よっしゃ、分かった。あいだ取ってハリーに相続させたらどうだ。名付け親として遺してやれよ」

 スコーンを飲み込んだアキヒトが、まさに名案と言わんばかりの顔で提案した。ハルヨシが「いいな」と賛同する。そのまま視線を向けられて、****も「俺はべつに何でも」と返す。正直本気でどうでもいい。

「俺の持ちうるすべての法知識とコネを駆使して、正式に相続できるよう手配してやるから。任せろ」

「……そんなに****にブラック家を継がせたくねーかよ」

「当たり前だろ。うちの子だぞ。最近になってようやく俺たちに甘えてくれるようになったかわいい甥に、ヨシノ以外の姓を名乗らせてたまるか」

「俺、叔父上たちに甘えたことあったっけ……」

 記憶にない。と考えこむ****に、アキヒトがフォークを取り落とした。スコーンのカケラがテーブルに散らばる。マナーが完璧な叔父が珍しい。なんて思う****の前で、アキヒトが「ひどい」と呟いた。

「このあいだ魔法法の書籍を借りにきたのは、身内への甘えじゃなかっただと……?」

「どう考えても甘えじゃないだろ。ただ単に利用してるだけだ」

「やめて、シリウス。その言い方は語弊がある」

「まあ俺は? さっき『シリウスには長生きしてほしい』って言われたけどな?」

 華麗に無視された。しかもよく分からないドヤ顔で。何の話なのかサッパリだ。困惑する****の向かいで、ハルヨシが「それこそ社交辞令だろう」と切り捨てる。しかしシリウスの機嫌は下降しない。

「自分たちが****に心配の言葉をかけてもらったことがないからって、ひがむなよ」

「や、叔父上たちはそもそも致命傷を受けたりしないから」

「だよな。俺たちのことは信頼してくれてるもんな、****」

 いや信頼というか単純に、魔法と超能力の実力を考慮した上での推量なのだが。言おうとした矢先、ジンから視線を感じて、目を向ける。口パクで「黙ってろ」と指示された。瞬きをして、****は殊勝に口を閉じた。

 相続の話が終わったなら帰っていいかなぁ。考えていると、不意に名前を呼ばれた。

「俺のほうが好きだよな?」

「いや俺たちだよな?」

 男子を取り合う女子か。思わず内心でツッコミを入れながら、****は眉を下げてみた。

「どっちも好きって言ったら怒る?」

 結論になってないと怒られるかと思いきや、意外にも怒られなかった。今度また似たような事態になったら使ってみよう。

****
 保護者組と絡ませると、なんでか大人たちの口論になる。で、その口論を蚊帳の外から眺めてる印象。男の子だと、より大人たちと距離を取るイメージ。たぶん思春期。



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