「イツルちゃ―――ん!」

 大声で名前を呼ばれたので、とっさに立ち止まって振り返る。少し離れたところに第七班がいて、ナルトがブンブン手を振ってた。恥を忍んで振り返してあげるのが礼儀ですね、分かります。ちょっとだけ手を振ってから、駆けてくるナルトに歩み寄る。

「こんにちは。任務帰り?」

「そ! 命懸けで猫を救出してきたところだってばよ!」

「何が命懸けよ。あんたが勝手に足を滑らせて落っこちただけじゃない」

「サクラちゃん、し―――っ!」

 ジト目のサクラに、わたわたなナルト。サスケは嘲笑、はたけさんは呆れ顔。みんな安定だ。頭上の白銀があくびをする。手を伸ばしてぽふぽふ撫でていると、ナルトが「そーだ!」と私に顔を向けてきた。

「イツルちゃん、オレらこれから一楽でラーメンって話してたとこなんだけどさ、イツルちゃんもどう? カカシ先生のオゴリだってばよ!」

「行くのは問題ないけど、奢りは遠慮しておくよ。はたけさんに悪いし」

「いーのいーの。ラーメンくらい安いモンよ」

「おまえさっき奢らねーつってたろ」

「いやーたまには生徒に優しくしとこーかなってね」

 いつの間にか本を閉じてたはたけさんが、片目でニコニコしながら言った。サスケは「ホントかよ」ってジト目をはたけさんに向けてたけど、サクラとナルトは素直に喜んでた。かわいらしい。ほのぼのしながら、はたけさんを見上げる。

「はたけさん、すみません。ごちそうになります」

「ぜんぜんだいじょーぶ。行こっか」

 はしゃぐナルトを先頭に、ぞろぞろ歩く。客観的に見て、やっぱりカラフルだなぁと思う。ウチの班とは……あれ。いのが薄い金髪で、チョウジも茶髪だから、わりとカラフルなのかな。考えていたら、一楽に到着してた。

「おっ、イツルちゃんじゃねーか! 相変わらず別嬪さんだなあ!」

「こんにちは、大将。今日も元気そうで何よりです」

 椅子に座って、テウチさんとあいさつ。注文を終えたタイミングで、白銀が膝の上に降りてきて丸まった。尻尾がふさふさ揺れてて実にかわいい。ウチの子自慢ですが何か。

 話変わるけど、席順が気になる。奥の一つ空席からのナルト、サクラ、サスケ、私、はたけさん。まさかサスケが真ん中になる日がくるなんて驚愕。今度将軍に話してあげよう。

「何がおもしれーんだよ」

 無意識に笑ってたらしく、サスケににらまれた。悪いけどまったく怖くない。御影さんの睥睨に比べたらただの凝視レベルだ。その程度で私のHPやSAN値が削れると思わないでほしい。胸中で湧き上がる謎の優越感ないし余裕を押し込めて、口を開く。

「サスケが和気あいあいと真ん中でご飯を食べるのが予想外すぎて」

「うっせーな。いつもならカカシがいちばん奥に行く。それでオレは端の席だ。いつもならな」

「なるほど。いつもと違うことを忘れてたってことね」

 いつものクセでうっかりミス。よくあるパターン分かります。私もやりかねないから気をつけよう。わりと共感しながら真顔でうなずいたのに、しかめ面と舌打ちをされた。

 いったい何が気に入らなかったんだろう。バカにされたとでも思ったんだろうか。私にはそんなつもり毛頭なかったけれど、そういえば将軍が同期のメンバーについて「多感なお年頃」云々言ってたから、そんな感じなのかもしれない。私は「多感なお年頃」期は(たぶん)なかったから、気持ちは分かってあげられないけど、とりあえずたいへんそうなのは分かった。

「難儀だろうけど、つよく生きてね、サスケ」

「ウゼェ」

 盛大なしかめ面で一蹴されてしまった。解せない。多感なお年頃男子の取扱説明書がほしい。あるわけない? 知ってた。

「……イツルちゃん、ほんとおもしろい」

 隣のはたけさんが震え声で呟いた。見ると、顔をそむけて身体を震わせてた。総合的に判断するに、どうやら笑ってるみたいだ。私の何がツボったのかは疑問だが、笑う門には福来るというし、いいことだと思う。

「カカシ先生、何してんだってばよ……」

「壁に向かって笑ってるとか怪しいんだけど」

 ナルトとサクラが辛辣な視線と言葉の刃をはたけさんに飛ばした。サスケも無言で白い目を向けている。さすがに不憫なので、「私がなんか変なこと言ったみたいで」とフォローしておく。

「変なことって……あんたまた何したのよ」

「私にもよく分からない。ていうか『また』って言い方が解せない」

「だってイツルってばいつもなんだかんだズレてるから」

 いやいやと返そうとした矢先、テウチさんが「へいおまち!」とラーメンを出してきた。ナルトが歓声を上げる。私の前にもラーメンがどーんと置かれて、白銀がのんびり顔を上げた。チャーシューを狙ってる目だ。

「はたけさん、いただきます」

「うん、どーぞ」

 いつもの緩い表情に戻ったはたけさんが、にっこりした。にっこり笑顔を返して、チャーシューを半分に折る。白銀は期待顔で起き上がってテーブルに前足を乗せていて、本気でかわいい。目の前に差し出したら、大きく口を開けてかぶりついた。咀嚼して飲み込んで、また口を開ける。もう一枚もあげた。

「……白銀って肉食なのね……」

「小さいのによく食うってばよ……」

「超かわいいでしょ?」

「うん、すごくかわいい」

「はたけさん、私じゃなくて白銀を見てください」

「って、あ―――っ! また先生の顔見そびれたってばよ!」

「えっ嘘! もう食べ終わったの?!! サスケ君見た?!!」

「……見てない」

「おまえらが白銀に注目してるあいだに食べちゃったからね」

 悔しがるナルトたちに、はたけさんがピースした。はたけさんの素顔を拝めるかゲームでもしてるんだろうか。鍛錬を兼ねたレクリエーションみたいな感じかな。これが上忍の発想力。すごい。

 のんびり見てたら、サクラに「イツルもそう思うでしょ?!」と話を振られた。ごめん聞いてなかった。と返したら怒られそうな剣幕だったので、無難に「あーうん、そうだねー」と返しておいた。どうせ同意しか求められてないので、これで問題ない。

「ほら! イツルもこう言ってるんだし、ねっカカシ先生! 一瞬でいいから!」

「やーだよ」

 ふいっと顔をそむけるはたけさん。何それかわいい。思わず見つめてたら、はたけさんと目が合って、ぽふっと頭に手を置かれた。

「早く食べなさいよ君ら」

「はい」

 たしかに麺類を放置はまずい。ラーメンに向き合う私とは対照的に、三人は舌打ちをしていた。


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 第七班たまに一楽で食べてたらすごくかわいいと思ったので、ラーメン食べてもらいました。第十班だと甘味処か焼肉が多いので新鮮。サクラともう少し絡ませたいけど、サクラはナルトに絡まれながらサスケに絡みにいくので、なかなかチャンスがない。



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