たかがジャンケン、されどジャンケン。まさかここまで盛り上がるとは思わなかったなあ。なんて感想を抱きながら、スイはのんびりとテーブルに寝転がり、下からのアングルで対戦を眺める。やけに緊張した面持ちのハリーとロンが、手持ちのカードから一枚選択したところだった。

「じゃあ、せーの」

 リンがのんびりした口調で合図を出し、互いにカードを裏返す。リンたちのカードは猫、ハリーたちのカードは雄鶏だった。ハリーが天井を仰ぎ、ロンが崩れ落ちる。ジンとリンは無言でカードを回収した。



 ジャンケンって何?という魔法界出身者からマグル出身者への問いから派生して、頭いい組の発想と工夫を経て、簡易的に作成されたゲームである。ルールとしては、猫、雄鶏、蛇が描かれたカードをシャッフルして、二人一組の各チームに配り、対戦時に手持ちから一枚選んで勝ち負けを争う(分かる人には分かるネタだが、三つの絵柄の相克関係は「秘密の部屋」騒動から持ってきた)。

 勝った場合は相手の出したカードが手に入り、持ち札がなくなったら敗退。そして最終的に持ち札が多いチームが勝ち。ただの運勝負かと思いきや、誰のところに何の絵柄が何枚渡っているのかを踏まえての確率計算なので、頭を使う要素があっておもしろい。らしい。ハーマイオニーいわく。スイにはサッパリだ。

「ジンとリン、強すぎ……」

「なんでそんなチート組作ってるんだよ」

 うめくハリーの横で、ロンが恨めしげな視線を向けてくる。ジンは華麗にスルーして、リンは肩をすくめた。なんでと問われても、クジで決めたんだから仕方ない。ロンのクジ運がなかったということだろう。

 ちらりと視線を移すと、少し向こうでハンナとジニーが抱き合って跳ねていた。見事マイケル・ジャスティン・チームに勝ったらしい。負けた男子二人でにらみ合っている。その奥では、シェーマス、スーザン、ネビル、アンソニーが苦笑していた。あの反応はアイコか。なんとなく頭のなかで整理しながら、リンは、唐突に歩き始めたジンのあとを追った。しかし数歩も動かないうちに、通せんぼをされる。

「勝負だ!」

 エドガーとフレッドの顔をまっすぐ見返して、ジンが露骨に顔をゆがめてため息をついた。至極面倒そうな態度である。さすがに怒るのではとリンが視線を向けるが、エドガーもフレッドも「そうつれない態度とるなよ」「照れるなよ」とジンに絡んでいる。杞憂であった。

「ちなみに俺ら最後の一枚だから。フレッドが馬鹿なせいで」

「いやあ、まさかジョージとアンジェリーナに四枚連続で取られるとはな」

「おまえ自信満々に相談なしでカード選びやがって」

 愚痴りつつも笑顔でフレッド肩をたたき(しかし肩から盛大に痛そうな音が鳴った)、エドガーがカードを差し出してきた。ジンがリンを見下ろしてくる。リンは小さく首をかしげた。

「蛇ですよね」

「だな」

 ということは雄鶏か。目当てのカードを手に取って、表を向けたまま差し出す。フレッドとエドガーがそろって拳を突き出した。ジンに。無表情のままきれいに避けて、ジンが何度目かのため息をつく。

「クィディッチ同様、負けは潔く認めるべきだ」

「うっせ、すました顔しやがって。ちなみになんで蛇だって分かった?」

「フレッドならスリザリンモチーフはなるべく最後まで使わないかなと思って」

「俺そんなに分かりやすいか?」

 珍しく真顔になったフレッドが、リンの両肩をつかんで見下ろしてきた。まぁけっこう分かりやすいほうだと思う。努めて和やかに返して、リンは離してもらおうとフレッドの手に手を伸ばす。瞬間、フレッドの腕が離れ、ついでにエドガーに激突した。

「リンを困らせるな」

 眉間に皺を寄せたジンがフレッドをにらんだ。なんとか体勢を整えたフレッドが「怖いねえナイト様は」と茶化すように呟いて、ぐぐっと身体を伸ばしてから歩き出す。敗退して暇になったので、ほかのチームを冷やかしにいくらしい。エドガーも軽く首を回してほぐしたあと、「じゃあな、リン」と手を伸ばしてきた。その手がジンによってたたき落とされる。エドガーが楽しみそうに笑って去っていった。

「……そんなに警戒しなくても、彼らは危害を加えてきたりはしませんよ。いつも何事もないし」

 心配性を発動しているらしいジンを見上げてみる。ジンは無言で瞬きを繰り返したあと、静かにリンを見下ろしてきた。

「……敵意じゃないほうが危ない」

「うん……?」

 ちょっとよく分からない。つまりどういうことだろうと考えようとした矢先、名前を呼ばれる。顔を上げれば、ルーナが近づいてくるのが見えた。あれ、手ぶら?と疑問に思った瞬間、慌てた様子のセドリックが駆けてくるのが視界に入る。カードはすべてセドリックが所持しているらしい。たいへんそうだ。

「ジン、リンになってほしくないもの選んでね」

 セドリックの手元から迷わず一枚選んだあと、ルーナが言った。考え事をしていたジンが一拍おいて「……は?」と声を出す。ルーナはいつも通りの静かな表情のまま、「早く」と急かした。相変わらずマイペースだ。

 それにしても、「リンになってほしくないもの」か。ルーナの性格を考えてストレートに取るなら、たぶん蛇を選ばせたいんだろう。だとしたら雄鶏に勝つ猫を選択すべきか。リンが無言で考えていると、ジンがため息をついた。

「………」

 眉間に皺を寄せたまま、ジンがリンを一瞥し、カードを選んだ。蛇だった。目を丸くするリンの前で、二枚のカードがひっくり返される。雄鶏と蛇。ルーナたちの勝ちだ。

「ジンは作戦でもリンに嘘つけないと思ってたもン」

 ニッコリと笑って、ルーナが言った。そこでちょうどゲーム終了の合図が鳴る。ジンが苦虫を噛み潰した表情をしたが、すぐ無表情に戻ってリンを見る。目を合わせたまま、リンは瞬きを繰り返した。

「……大事なひとに嘘はつけない」

 小さく呟いたジンが手を伸ばし、リンの頭をポンとした。髪を梳くように動かして、そっと離れる。珍しく柔らかい目で見つめられ、リンは少し困惑する。それを知ってか知らずか、ジンが小さく笑みをこぼし、さりげなくリンの手を取った。

「集計、行くか」

「……はい」

 うなずいて歩きながら、なぜ手をつなぐ必要があるんだろうと疑問に思う。この距離ではぐれるほど子どもではないのに。質問しようと思ったが、見上げたジンの横顔がこれまた珍しく穏やかすぎて、なんとなく水を差せなくて言葉を呑み込む。

 よく考えたら、ジンと手をつなぐのなんて初めてだ。思い当たった瞬間、気恥ずかしくなる。ウロウロと視線をさまよわせるリンの横で、ジンも耳を赤くしていたが、気づくことはなかった。

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 ゲームをいろいろと考えたのですが、ガチすぎるとキャラとの絡みが書けないので、ほどほどのレベルにしました。そのせいで頭脳戦要素が少なくて申し訳ない。いろいろ書ききれなかったし、力量不足つらい。反省点。



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