「あ、サスケだ。こんにちはー」 「え? あ、ほんとだ。やあ、サスケ」 「……よお」 Dランク任務の帰り道、コロッケを食ってるイツルとチョウジと出くわした。好き好んで話したいやつらじゃないが、あいさつを無視するほどキライなわけでもない。無難にあいさつを返してやれば、どういうわけかイツルがコロッケを見せてきた。 「さっき買ったんだけど、いる? こっちまだ口つけてないよ」 「いらねえ」 「そっか」 なら遠慮なく。と言わんばかりに、イツルがコロッケにかぶりついた。こいつのすごいところはこういうところだ。ほんとに女子か。思わず見つめてたら、目が合った。 「やっぱりいる?」 「……自分で買う」 食欲を刺激されたのはたしかだった。悔しいことに。あまり表情に出さないように、歩いてすぐのコロッケ屋に向かう。コロッケを買って戻ると、イツルが自分の横をポンとたたいた。……座れってか。せめてとチョウジの横を見たら、コロッケの山で埋まってた。 「………」 一人ぶんのスペースを空けて座り、コロッケを食う。美味かった。無言で食いながら、何やらポツポツ話してる二人を横目に見る。イツルとは、正直あまり話したことがない。 紬一族の女。容姿端麗。モテる。里の外を旅しながら育って、数年前に帰ってきた。山吹がやけになついて騒いで引っついてる。成績優秀。見た目に反して女らしくない。オレに媚びない。あと最近、カカシがチラチラ気にしてる(あいつはぜったい面食いのロリコンだ)……たぶんこれくらいの認識で事足りる。強いていうなら、いつか戦ってみたい。 視線をそらして、コロッケの包み紙を丸めながら、思考を完結させる。スッと白い手が差し出された。目をやる。イツルがオレを見ていた。 「ゴミ、よければ一緒に捨ててくるよ」 「……わりーな」 「大丈夫。一枚くらい増えたって手間は変わらないから」 たしかに何十枚の山に一枚増えたところで変わらねーだろうな。チョウジの横の山を見て思った。イツルはきれいに手早く整理して、チョウジと分担して、ゴミ箱まで歩いていった。ぼんやり見送っていると、ウザい黄色が視界に入ってきた。 「あっ、イツルちゃん! キグーだってばよ!」 「こんばんは、ナルト。慣れない言葉は使うものじゃないよ。あとチョウジをスルーしないでね」 「……れでぃーふぁーすとってやつだってば! よ、チョウジ!」 「やあ、ナルト。どこ行くの?」 「一楽! イルカ先生にラーメンおごってもらう約束してっからさ!」 「あーもうそんな時間かあ……イツル、ボク帰るね。また明日」 「うん、チョウジ、また明日」 「あ、サスケもー! また今度ねー!」 チョウジがわざわざオレを振り返って手を振ってきた。おかげでナルトにガン見されて、詰め寄られた。近い。ウザい。 「おっまえ何してんだってばよ! イツルちゃんにまで手ェ出しやがって!」 「誰にも出してねーよ!」 「たまたま見かけたから声かけたんだよ。コロッケ食べてた」 イツルがいつも通りの真顔で言った。ナルトが歯を食いしばってイツルを振り返る。こいつもこいつでワケが分からねえ。いつもサクラにベタベタしてんだろ。 「イツルちゃん! サスケなんかに気を許しちゃダメだってば! 女の子ならみーんなホレさせようとするやつだかんな!」 「私サスケみたいな子どもに惚れないよ」 「……あ?」 子どもってオレのことか、おい。ナルトからイツルに矛先を変えてガン見する。目が合ったイツルはまじめに不思議そうに首をかしげた。「だって私も含めてみんな子どもじゃん」と言われて、言葉に詰まる。 (……オレは早く大人になりたいけどな) イツルはオレから目をそらして、何やら考え込むナルトの肩をトンとたたいた。 「ナルト、待ち合わせは大丈夫?」 「へ? ああ! 大丈夫だってばよ! ヨユーもって出てきてるし! あ、イツルちゃんもラーメン食う? イルカ先生のおごりだしさ!」 「ラーメンかー……魅力的だけど、今日は修行で狩った熊を捌かないとだから、せっかくだけど遠慮しておくね」 女はラーメンイヤがんだろ。と思った矢先に、イツルがそんなことを言った。ナルトと一緒に不覚にも固まる。……シカマルが男子に詰め寄られるたびに「イツルはマジで見かけ倒しだから」とうめいている理由が分かったぜ。 「おまえ、生まれてくる性別間違えただろ」 「じゃあサスケ、性別交換する? 結界で何がどこまでできるのか試してみたかったんだよね」 「断る」 真顔なせいで冗談なのか本気なのか分からねーが、うなずいたら取り返しがつかない気がする。残念そうなイツルがナルトを振り返る。ナルトがものすごい勢いで首を横に振りまくった。イツルが笑う。 「冗談なのに」 「黙れウスラトンカチ」 「ウスラトンカチっていえば、サスケの髪型ってどうなってるの?」 「……なんでウスラトンカチから髪型に飛ぶんだよ」 「サスケの特徴だから?」 山吹並みに話が通じない。バカと女はなんでこう脈絡がない。苦痛だ。ため息をついて、ベンチから立ち上がる。イツルが「帰るの?」と聞いてきた。無言で肯定して、歩き出す。背後から「気をつけてね」と飛んできた。 「………」 気をつけてと見送られるのなんて、いつぶりだろう。一瞬考えて、すぐ頭から追い出す。そんな感傷に浸ってる場合じゃない。 肩越しに振り返ると、イツルはまだナルトにつかまっていた。あんなウスラトンカチ、無視してさっさと帰ればいいだろ。バカか。甘すぎる。 (……やっぱり相容れそうにねーな) オレとは違いすぎる。 **** サスケと夢主は当たり障りがない関係。好きでもないし、キライでもない。見かけたら互いにあいさつ→ちょっと世間話→あっさり別れる。知り合い以上友人未満。 Others Main Top |