| 夏休みって、とってもすてきなもの。だって退屈で無意味な授業もないし、お行儀よく集団行動する必要もないもん。そうでしょ? 本から理論を吸収して数回練習すればたいていの魔法は使えるし、みんなと同じ行動するなんて窮屈でつまんない。僕、バカも無個性化も大きらい。反感買うから言わないけど(賢いでしょ?)
……なんか話ズレてる? 戻そっか。あ、ちなみに僕、ヒロト・ヨシノです。ホグワーツに入学してはじめての夏休みを満喫中。出された宿題を帰国してすぐ三日で終わらせて、自由時間を悠々自適に過ごしてます。いまこの時点では悠々自適じゃないけど。悪戯して叱られて罰掃除を言いつけられたの。ひどいよね。飼育してる牛をおどかしたら暴れて、たまたま通りかかったお客さんに突撃して怪我させちゃっただけなのに。
「なあヒロト、僕これ飽きた!」
「僕もー。もぉあのオジサン、ほんとムカつくー」
「だよな! 腕の骨が折れたくらいでぎゃあぎゃあ騒いでさ! ひ弱すぎだろ!」
「ほんとそれ。命あるんだからいいじゃんねぇ」
「……反省しなよ」
ケイと二人で愚痴ってたら、ふと声がかかった。パッと顔を上げる。呆れ顔をしたリン姉様がいらっしゃった。僕とケイは箒を放り捨てて駆け出した。
「リン姉さん! こんにちは! いらっしゃいませ!」
「こんにちはー、お会いできてうれしいですー」
大きくジャンプして、ずどーんと激突……しようとして、空振る。ケイは地面にスライディング(わざと)、僕は静かに着地。僕らを華麗に避けたリン姉様の肩の上で、スイが「なにやってんだよ君たち」とため息をついた。気分だよ。
ごんっ。あたっ、いたっ。音と衝撃と声が連続する。いつの間にかいらしてたジン兄様が、僕らの頭に拳を落とした体勢で、冷ややかに僕らを見下ろしていた。巷のマゾヒストたちに心酔されそうなくらいの迫力。こわぁいと呟けば、もう一発殴られた。巻き込んでごめんねケイ。
「罰掃除はどうした」
「終わった!」
「もう言いつけられただけの時間は過ぎましたぁ」
「……なら片づけをしてこい」
能力は使わずに自力でだぞって念を押されて、しぶしぶ道具の片づけにかかる。歩きながら顔を向けると、ジン兄様がリン姉様となにか話してた。……ずるい。僕らがいちばんに会ったのに。
角を曲がったところで、てーっと駆け出す。乱暴に道具を用具入れにほうり込んで、ダッシュで戻る。なんでか父様と春佳伯父様がいらっしゃった。ぎょっとして、さらにダッシュして、リン姉様に突撃。今度は受け止めてもらえた。ちょっと姉様が「う、」とうめき声をあげたけど。反省。それからケンセイ。
「父さんたちずるい!」
「なんで僕らを仲間はずれにするんですかー!」
「おまえらの自業自得だろ」
ごんっと頭をど突かれる。父様に。ジン兄様より威力があって痛い。ちょっとだけ涙が潤む。僕らはリン姉様の腰にしがみついてやった。
「いたい! リン姉さん、助けて!」
「いたいのいたいの飛んでけしてくださぁい」
「やらなくていい、リン」
「おまえら調子に乗るなよ」
「リン、むしろたたいてやれ」
伯父様、ジン兄様、父様が順番に言った。リン姉様がまごつく。僕らはひしっとしがみついた。やさしい姉様ならそんなことしませんよねって意味をこめて。子どもっていう名の武器を振りかざす感じ。姉様が身じろいだ。
「……え、と。まず素朴な疑問なのですが、いたいのいたいの飛んでけってなんですか?」
不思議そうな声音。思わず顔をあげて、ぽかんと姉様を見つめる。たぶん父様たちもそうだったと思う。だれもしゃべらなかったし。
「……知らないのか? 姉さんにしてもらったこと……、あー……しないよな」
「やらないだろうな」
父様と伯父様が困ったようにため息をついた。僕は伯母様を思い浮かべる。しゃべったことないけど、たしかに冷たそう。じゃあほんとに知らないのかな。ちらりとケイを見て、アイコンタクト。僕らは同時にリン姉様の服を引っ張った。
「姉さん、かがんでください!」
「僕らが教えてあげますー」
「待て、痛みがないのにやっても意味ないだろう」
父様が、僕らをぺいっと引きはがして、ぽいっと投げる。うきゃ。僕はジン兄様に、ケイは伯父様に受け止められる。伯父様が「秋仁」と父様の名前を呼ぶ。父様は無視して、すっと手をリン姉様のおでこへと伸ばした。――― ビシッ。
みんなが硬直した。父様が、リン姉様にデコピンした。姉様もきょとんとして、ちょっと赤くなったおでこへと手を伸ばす。それを片手で止めて、父様は片手を姉様のおでこにかざした。
「よしよし、痛かったなー。いたいのいたいの飛んでけー。よしもう大丈夫だ飛んでったぞ」
「……は、ぁ。なるほど」
よくわからないって感じの顔で、リン姉様は「ありがとうございます」と言った。僕は我に返って、わたわたとジン兄様の腕から飛び出して、父様に突撃する。
「なにしてるの父様! ばか、いじめっ子! 姉様かわいそう! 離れて! ばか!」
「おいこら、父親に向かって馬鹿とはなんだ。しかも二回も言いやがって」
びよーんとほっぺたを引っ張られる。けど僕も負けない。父様の腕をたたきながら「いりめっほ」とにらみつける。だれかが「ふっ」と吹き出した。目だけ向ける。伯父様がくつくつ笑っていた。おもむろに手を伸ばす。
「……飛んでけ」
ぽんとリン姉様の頭におっきな手が乗っかる。姉様が目を丸くした。ケイが「父さんがするのはじめて見た」とびっくりする。父様の手も僕のほっぺたから離れた。
「珍しいな、兄さん。それの効果信じてなかったのに」
「たまには乗ってみるのも悪くないと思ってな。ジンもやるか?」
「っい、いえ、俺はけっこうです」
「んー? うらやましそうな顔して見てたじゃないか」
父様がニヤッと笑う。ジン兄様は耳まで真っ赤にして「そんなこと、」とむきになる。ケイが「僕やりたい!」と声を出して、伯父様の腕から出ようとがんばる。父様が笑った。
「おー、よかったな、リン。うれしいだろう」
「………、」
リン姉様がふるふると首を横に振って後ずさる。おでこだけじゃなくて、顔ぜんたいが赤くなってた。怒ってるとかじゃなくて、たぶん、照れてる。僕はなんだかわくわくしてきて、ケイと一緒に突撃した。
**あとがき** あゆみ様リクエスト“「世界」主がジン達いとこや、おじ×2 と過ごす日常”でした。「できれば主以外の視点」でとのことでしたので、ヒロトにお願いしました。ストレートな言葉ばかりで、けっこう楽しかったです。 構われてる風景になってるか心配です。ヨシノ家の面々の「構う」がイメージつかなかたので、こんな話になってしまった……。うんまあ構われてるよねってことで。もしご不満でしたら連絡ください。もう一回考えます。
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